七夕の雨闇: ―毒草師― (新潮文庫) | |
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新潮社 |
・高田崇史
QEDシリーズと言えば高田崇史の人気シリーズだが、そこからのスピンオフとして始まったこのシリーズもこれが4作目。今回のテーマは七夕だ。
七夕と言えば、牽牛と織姫が1年に1回会える日ということで、ロマンチックな響きを感じる人が多いだろう。ところが、本書によれば、七夕は不吉の象徴であり、牽牛と織姫が出会えば悪いことが起きるという。
今回の事件の舞台は京都。能の竹川流宗家である竹川幸庵が稽古場で毒殺される。しかし、幸庵は、あらゆる毒物に耐性のある解毒斎体質だった。なぜ解毒斎の幸庵が毒殺されたのか。これが一連の連続殺人の幕開けとなった。事件の背景には、まるで糸杉柾宏の漫画、「あきそら」のような世界が」広がる。
この事件に乗り出したのが「毒草師」の御名形史紋というわけである。史紋は助手でやはり解毒斎体質の神凪百合、そして今回の事件の依頼人の萬願寺響子と雑誌社「ファーマ・メディカ」での指導係西田真規の4人は京都に向かう。響子は事件に巻き込まれた竹川家の親戚の星祭家の娘と友人であり、そのことから御名形の協力を仰ぐことになったのである。星祭家は、「機姫神社」という神社で、独特の七夕祭りが伝わっていた。しかし、最後の方で御名形本人も言っているように、今回の事件には毒草には関係がない。
御名形によって解き明かされる七夕についての蘊蓄はすごいと思うが、どこか眉に唾をつけて読んだ方がいいかもしれない。ましてやこれが現実の事件に結びつくとは。でもちょと信じてしまいそうになるのは著者の筆力か。
ところで、この萬願寺響子、「私は根っからの理系」といいながらも、趣味の四柱推命を東洋の統計学だと訳の分からないことを言う。統計学というなら、いつ誰がどんな母集団からどの程度のサンプリングをして法則を抽出したのか。昔はコンピュータなんてなかったし、ビッグデータという概念すらなかった。この一件から、実は彼女が「根っからの理系」ではないということが分かる。
またQEDシリーズのスピンオフ作品だけあって、話の中にあちらの主人公である桑原崇らしき人物が出てくる。また桑原の相方である棚旗奈々に至っては、話の中だけでなく最後の方にちょっとだけ登場している。このあたりもこの作品の魅力ではないかと思う。
☆☆☆☆
※初出は、「風竜胆の書評」です。