ばいばい、アースI 理由の少女 (角川文庫) | |
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KADOKAWA / 角川書店 |
最近は「天地明察」や「光圀伝」と言った作品で有名な冲方丁の、初期のころの作品「ばいばい、アース」(角川文庫)。これはその第1巻目に当たる「理由の少女」だ。
主人公はラブラック・ベルという少女。華奢な容姿にも関わらず、重すぎてこれまで誰も扱えるものがいなかったという超重量の<唸る剣(ルンディング)>を使いこなすことができる唯一の剣士だ。この作品は本来なら戦闘派美少女もののジャンルに入れられるのだろうが、この作品において彼女は異形の存在として描かれる。他の人間たちは、誰もがなんらかの動物の姿を纏っているからだ。その姿が種族としてのアイデンティティとなっているのである。しかしベルはそんな種族としての特徴を持たない「のっぺらぼう」の少女だった。
この世界が不思議なのは、人間の姿だけではない。虫も鳥も魚も獣もみな種で増える「花」なのである。そして剣士たちの帯びている剣もまた、作るものではなく種から育てるものなのだ。
そして人々は都市に住む<内>とその外に住む<外>に分けられている。内は<正義>と呼ばれ、外は<悪>とも呼ばれており、一見二項対立的な世界に見えるのだが、その構造は絶対的なものではない。<内>と<外>の間の争いは絶えないものの、その一方で<外>から<内>の人間になる場合やその逆の場合があるのだから。
ベルは、この世界に自分と同じ種族が存在するのかを知るために<旅の者(ノマド)>になろうと決意する。つまりこの物語のテーマは、彼女が自らのアイデンティティを求める旅であるとも言えそうだ。しかしこの巻では、彼女は<剣楽の者(ソリスト)>として都市に留まったままである。<旅の者>となるには、三つの使命を果たさなければならないからだ。
ベルには「理の少女」という言葉が付いて回る。しかしその意味はこの巻では明らかにされない。いったい彼女はどのような役割を担っているのか。そして彼女に付き添うかのように現れる謎の<長耳族(うさぎ)>の少年・キティ。いったいこの後どう物語が展開していくのか予測がつかない。
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※本記事は、書評専門の拙ブログ「風竜胆の書評」に掲載したものです。