本書は、一言で言えばお父さん大好き娘の物語である。主人公はアンジェリンという少女。なんと「黒髪の戦乙女」という二つ名を持つSランクの冒険者である。そしてお父さん大好き。
実はアンジェリンと父親のベルグリフの間に血のつながりはない。ベルグリフが山で赤ん坊のアンジェリンを拾ったのだ(アンジェリンはそのことを知っている)。しかしベルグリフは愛情いっぱいでアンジェリンを育てた。その結果アンジェリンは、凄腕だが、ファザコンと言ってもいいくらいのお父さん大好き娘に育ってしまった。
そういえば父親大好きならファザコン、母親大好きならマザコン、兄弟大好きならブラコン、姉妹が大好きならシスコンという言葉があるが、子供が大好きな親はなんと言うのだろうという素朴な疑問が湧いた。ネットを検索してみると、同じような疑問を抱いた人がいるようだが、「親バカ」とか「過保護」とかで特に同じような言い方は見当たらなかった。
実はベルグリフは、冒険者だったが、駆け出しのころに魔獣に右足を食いちぎられ、Eランクで引退している。でも訓練は欠かしていないので、彼を見た人は、とても右足が義足とは思えない動きだという、それにしてはちょっと自己評価が低いような気がするが。
アンジェリンは、ベルグリフに甘えるために、彼の住むトルネラ村に帰りたいのだが、トルネラ村と都との間は距離があるのでそう簡単には帰れない。そしていざ帰ろうとするとアクシデントが起きる。最後には魔王まで出てくるのだが、魔王は72体もいるらしい。ちょっと多すぎないかな。それにあまり魔王らしくない。
アンジェリンは、起きたアクシデントはみんな片付けて、やっと一緒にパーティを組んでいるアネッサとミリアムをつれてトルネラ村に帰るのだが、ベルグリフの二つ名を勝手に「赤鬼の」と言っている。そもそも二つ名というのは、誰かが付けるのではなく、自然発生的にみんながそう呼ぶようになるのだが、もちろん誰も「赤鬼のベルグリフ」なんて知らない。果たしてこの二つ名は広がっていくのだろうか。それにしても、義理とはいえ、娘からこれだけ慕われれば、目の中に入れても痛くないと思うお父さんは多いのではないだろうか。
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