“空蝉 | |
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エンターブレイン |
・野村美月
野村美月と竹岡美穂のコンビによる本シリーズの7作目。主人公は、顔つきがあまりにも凶悪なために、周りから勝手にヤンキーキングというレッテルを張られてしまった平安学園1年の少年、赤城是光。実は、とっても優しい心根をしているのだが、周りから恐れられて誰も近寄って来るものがいない。
そんな彼だが、事故で亡くなった学園の王子様・帝門ヒカルの幽霊に取りつかれてしまう。是光はヒカルのために、彼が生前女の子たちと交わした約束を果たそうと尽力していく。彼が相手をする女の子は巻ごとに変わるのだが、その過程で一見凶悪な是光の本当の姿を女の子たちが知り、彼の周りにどんどん集まってくる。つまりは一種の学園ハーレムものということになるのだろうか。なにしろ、最初は是光を敵視していたようなヒカルの従姉の斎賀朝衣でさえも、この巻では結構デレの面を見せているのだ。
この巻のヒロインは蟬ケ谷空という女子大生。牧師の孫娘で生真面目な性格の女性だ。彼はなんとヒカルの子を妊娠しているらしい。この妊娠騒ぎをめぐるドタバタがなかなか楽しいのだが、空の心には影ともよべる部分があった。それを是光が解きほぐしていくのだが、その結果は、驚くような結末で終わる。
また、この巻では、是光自信の抱えていた心の闇も解決されている。このシリーズのトリックスターともいえる近江ひいなという少女がいるのだが、彼女の<愛されることと、愛することと、どっちかひとつしか選べないんなら、うちは、迷わず愛する方を選ぶわ。そっちのほうがうんと幸せやもの>(p216)という言葉で、母親から愛されていなかったという心の中のわだかまりが解消するのだ。
さすがに7巻目までくると、この物語も佳境に入ってきたようである。果たしてヒカルの死に関する謎は明らかになるのか。是光は、ヒカルが女の子たちと交わした約束を無事に果たせるのか。是光を取り巻く女の子が増えるにつれて、少しギクシャクしてきた式部帆夏との関係はどうなっていくのか。なかなか気になることが多い。
☆☆☆☆
※初出は「風竜胆の書評」です。