曇り、21度、72%
香港も、湿度の少ない過ごし易い季節を迎えました。長袖を着ている人も見られます。半年近く、空調を付けたままだった我が家も一日中窓を開けています。お天気がよくても、湿度が高いと窓を開けることが出来ません。例年、この時期を心待ちにしています。少し涼しくなると、食べ物も、飲みたくなるお茶も変わってきます。体が欲しがるものは、本当に季節に従順だなと思います。口に入れるものばかりか、心地よく感じる香りもまた季節によって変わります。香水は、夏と冬では違うトーンのものを使います。家の匂いも、暑い夏はシトラス系のアロマが疲れをとってくれるように感じます。それが、秋になるともっと籠ったような、それでいて高い高い杉の木の下にいるような香りが欲しくなります。
東京に出張していた主人から電話が入りました。今、銀座でお香を買っているけど、何か要るものない?とおっしゃいます。鳩居堂だわ、と思いながら思いつくものもないので電話を切りました。ややお疲れ気味で香港に戻ってきました。数十年ぶりに再会した友人のことなどを話しながら、時間がなかったので、買い物が出来なかったよ、と言いつつ出して来てくれたのが、お香でした。
鳩居堂ではなく、香十というお香の老舗のものです。銀座は裏通りを歩いていると、小さな間口ながらお香を専門に売る店がポツポツとあります。昔からの香り、最近のラベンダーなどを配したしゃれた香りと店先に並ぶお香の数が増えたように思います。
主人が買って来てくれたのは、香十の古くからのお香5種類です。 香木系の香り、「香り風」「雲井」「深山月」「露芝」「伽羅静玄」の5種類。目を閉じて名前だけをそらんじても、なんだかすっと気の落ち着きを感じます。
日曜の朝、ゆっくりに起きて来た主人のために、まだ浅い秋を感じる「香り風」を選んで焚きました。私が中学の時に亡くなった父がやはりお香が大好きで、当時は珍しかった中國のお香が実家の整理の時に出てきました。中國のお香は、日本のお香よりやや雑な香り、少し埃っぽい香りがします。
お香の煙が揺らぐのを見ると、香りとともに体が地球の中心に吸い寄せられるようです。香を着物に薫き込めた昔のように、今朝起きても部屋の片隅からふっと香の香りが立ち上がります。