小雨、22度、65%
ちょっと精神的に落ち込んでいるとき、よく香港の田舎に行ったものです。野山ではありません。古くから人の住む田舎町、昼間はお年寄りと子供だけです。私が住む香港島のビル、ビルの中の狭苦しい空気とは全く違います。ゆっくりと穏やかな空気の流れと聞こえて来るのは地元の言葉だけです。そんな田舎町は、お隣中国の深圳との境に位置しています。行く度行く度に、様変わりするその町。日本でも報道されているように、深圳からの買い物で来る人の流れが止みません。買って行くのは赤ちゃんのミルクにヤクルト、お醤油。日常品です。それをトロリーに山積みにして持ち帰り、商売するのです。並行輸入。町は忙しない中国人だらけ、お行儀の悪さも甚だしい。ついに、私の憧れるゆっくりとした空気の流れている町が香港に無くなりつつあります。
そう思い倦ねていると、ふと思いつく町が。香港島の北側のそごうデパートのあるトンローワン、日系のスーパーがあるタイクウの中間に位置します。大きな路面の市場を抱え、山向きには日本人小学もあり、マンションが斜面に沿って建っています。そうそう、アグネスチャンが育った町、北角です。生きた蛸などを探しに北角まで足を伸ばします。そんな時、ふと気付いたのです。周りの言葉は、広東語だけ。慌ただしいのは香港中同じですが、おじいさんおばあさんが、小さなベンチで休んでいる姿が見られます。それに、なんとも昔ながらの店並みです。あー、香港だわ、そう気付いた時の私は、きっとニコニコしていたと思います。
露店ではないのですが、 昔ながらの中華のスリッパを売る店です。機械刺繍ですが、小さな足をよしとされる中国人女性がこのスリッパを履いた様子は優雅です。真っ赤なスリッパすら、違和感無く履きこなします。
露店のぬいぐるみ屋さんです。こんなぬいぐるみを喜ぶ子供がまだいるのね、と内心喜びます。
こんな露店の靴屋さん、試着なんてせずに適当に買って行くものですから、時にガバガバの大きな靴を履いてる人を見かけます。
ハンドバック屋さんだってありますよ。そう、何だってここで揃うのです。ちょうど今の頃や寒くなり始める、季節の変わり目になると急に現れるのがパジャマ屋さん。
以前は若い女姓が、パジャマのまま町を歩いていました。外にも着ていくパジャマです。今や、パジャマで外を歩く人を見かけません。パジャマのまま歩く女性の可愛かったこと、飾り気のない頃の香港の話です。
子供服の露店。小さな女の子が、ナイロンのピラピラのドレスみたいなのを着て町を歩くのを見かけます。子供にはコットン、と思い込んでいた私はびっくり。今でもこんな服屋さんがあります。孫娘に一つとは思いませんが、こうしてずらりと並んだ様子は、やっぱり可愛い。
中国からの暴買いの人にも出会わない、白人の人にも出会わない、北角。繁華街トンローワンから二階建てトラムに乗っても20分とかからない場所です。普通の観光客もトンローワンまではやって来るのに、ほんのちょっと足を伸ばした北角は、すっかり、取り残されたレトロな町になりました。
昔から、上海、潮州からの移民が多く住んだといわれる北角、以前は上海でも有名な「雪園」というレストランもありました。 潮州料理で有名な蟹の専門店。この時期になるとリヤカーに乗せられたタイからのドリアン売りが出てきます。我が家の近くにも昔は来ていたリヤカーのドリアン売り、ここ10年は姿を見ません。見出し写真のドリアン売りのリヤカー、写真おついでに心行くまでドリアンのにおいを嗅がせてもらいました。私、ドリアン好き、主人は好きではありません。ああ、いい匂いだわ。
この北角の町が変わってしまった時は、はて、何処に香港らしさを求めに行けばいいのでしょうか。