曇り、24度、85% 深圳
春告魚、というと一時代前までは、ニシンだったそうです、ニシンが不漁の昨今は、メバルだともいわれていますが、地方によって春を連れて来る魚は違うはずです。九州育ちの私は、おそらく大学で東京に出るまではニシンという魚を知りませんでした。
香港の市場の魚屋さん、一年中同じ魚が並んでいるように見えます。微妙に季節の魚があるのですが、2年度前からは、サケが丸のまま並んでいます。どう考えても近海で捕れることのないサケです。何もかも輸入に頼っている香港ですが、魚屋の店先に輸入物の魚が並んでいる様子は、どうも納得いきません。
香港の中華料理、海鮮料理も有名です。ハタを蒸したものなど美味しいうえに、お値段も結構な品です。ある時、生け簀で様々な魚を泳がせて、その中の魚を選んで料理してもらう店に行きました。ちょっと夕飯にしては早い時間でした。すると、空気を注入したドライアイスに詰めれれて空輸された生きた魚が、次々に運ばれてきました。送り元の国はベトナム、マレーシアです。びっくりする私。近海で捕れた魚ではなかったのです。
地元の漁師さんが捕る魚、サワラ、ボラ、鯛、金目鯛、甘鯛、イトヨリ、小エビ、小さいイカ。スズキ、キス、カツオ、サバは海流によって上がって来る時期が違います。でも、カツオやサバは、暖かな海流の中で油が抜け切った状態で水揚げされますから、美味しいとはいえません。そうした中、春先、しかもこの3月下旬から4月の初めの頃にかけての短い間に魚屋に顔見せするのがサバ子です。香港近海、イワシもアジも捕れません。アジに似た魚はありますが、味がアジではないのです。サバ子の目はどんな魚よりきれいです。 そんなわけで、毎年必ずサバ子を買います。サバ子が食卓に上がると、私にとって香港の春です。10センチより小さいものの方がいい味をしています。ちょっと大きくなると、味も大雑把になってしまいます。コトコトとお酢で煮ることもありますが、やはり南蛮漬けが一番美味しいと思っています。手開きにしてもいいのですが、頭と内蔵だけを取って、ゆっくりと揚げると骨まで食べれます。しかり味を付けると主人好み、今回は残り物のレモンを使い上げようと、さっぱりタイプにしてみました。
南蛮漬けを作るとき、いつもタッパを使います。魚をいちいち裏返しにしないでも、タッパの蓋をしたまま、上下に置き換えて味を馴染ませます。
殆ど毎朝市場に足を運びます。それでも、身辺忙しいとき、このサバ子を見落とすことがあります。サバ子の南蛮漬けを食べなかった春は、忘れ物をしたような気分です。