曇り、19度、92%
東京に帰る前には、入念に美術展を下調べします。福岡などと違って、小さな美術館、デパートの催しものでの美術展でも何かしら見たい美術展に出くわします。短い滞在日程の中です。どう時間を使うかいつも頭の片隅で考えます。
今回も大きな美術展が幾つかかかっています。「カラヴァッジョ」もそのひとつ、好きな画家、見たい絵がはっきりしているとすぐに決まるのですが、このカラヴァッジョ、さして気持ちが動きません。いろんな方の書いている今回の「カラヴァッジョ展」の評を読んでいると皆さんお勧めです。それならばと行くことにしました。しかも、行くまでカラヴァッジョはスペインの画家だと思い込んでいました。イタリアの画家でした。
51点の展示の絵画のうち、カラヴァッジョ自身の作品は11点。38歳の若さで亡くなっていますから、残した作品の数自体も少ないと思われます。他の出展作品は、同時代もしくはカラヴァッジョに影響を受けた画家、カラヴァッジョが影響された画家のものです。人物、キリスト教の宗教画がメインです。
カラヴァッジョの一生は画家としても華やかな時代があったそうですが、殺傷事件、殺人事件を起こしてしまうようななんとも気性の激しい人物だったそうです。絵画の展示の合間には、ミラノ、ローマの当時の警察の調書までもおかれています。1600年代を生きたカラヴァッジョはどんな様子だったのか、調書からも伺うことが出来ますが、作者不詳のカラヴァッジョの肖像画を目の前にして、少しこの画家のことが見えて来たような気がします。
あくまでも写実、光の使い方が明暗はっきりしている様子、同じバロック絵画の中でもひと際、際立っていると思います。看板やチラシのもなっている「バッカス」この向かって左前にはワインのデカンタがおかれています。このデカンタには作者、カラヴァッジョ自身が描かれています。その精密さに置いても、同じ題材を描いた他の画家の作品に比べると観る側はその強烈な印象を拭えません。
木の盾に描かれた「メドゥーサ」の首。近頃カラヴァッジョの作品だと確認された「法悦のマグダラのマリア」。
まあ見ておこうぐらいのつもりで見に来たカラバッジョ。会場を後にした私は、脂っこい食事と濃厚な赤ワインを飲み干した後のような気分です。西洋美術館の一面のガラス窓の向こうは春の優しい日差しが満ちています。すぐにその空気の中に出ることが出来ないほど、身体の中に何かしら強いものが巡っています。たまたま革張りのリクライニングシートがおかれていました。身体を横にして血の巡るのに身を任せます。
絵を観ると心が躍ります。絵を観ると心が拡がります。カラバッジョの絵は全く違う感覚を私に教えてくれました。
日本には1枚もカラバッジョの絵はないそうです。6月半ばの会期期間中、もう一度、カラバッジョの11枚だけを観たいと思います。