雅工房 作品集

長編小説を中心に、中短編小説・コラムなどを発表しています。

良い事も 残念な事も 辛い事も

2024-04-13 19:07:32 | 日々これ好日

     『 良い事も 残念な事も 辛い事も 』

    大谷翔平選手 松井氏に並ぶホームランと
           日米通算1000本目のヒットも
    山本由伸投手 勝利投手の権利を手にしたが 
           リリーフ陣が 逆転されてしまった 
    そして 水原一平氏の 辛い姿・・・

                 ☆☆☆  

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土御門第の法華三十講 ・ 望月の宴 ( 107 )

2024-04-13 08:13:12 | 望月の宴 ③

      『 土御門第の法華三十講 ・ 望月の宴 ( 107 ) 』


さて、四月の賀茂祭の使いも立たなかった年なので、二十余日の頃から、恒例の法華三十講をお催しになる。
五月五日には、五巻(最も重要な第五巻を講ずる日)に当たったので、わざと端午の節句に当てたかのようで、捧物(ホウモチ・仏への捧げ物)の用意も前もって格別に趣向が凝らされていたのだろう。
御堂(土御門第の堂)に中宮(彰子)もお出ましになられたので、お堂に続く廊下まで御簾がたいそう青々と懸け渡していて、御几帳に垂らしている帳の裾も、賀茂川辺りからの河風を受けて涼しさを増し、波の模様があざやかに見えているが、五巻の当日になると、先年まではいつも特別立派なものを準備なされていたが、今では恒例の行事になっているので、簡略になさっているが、今日の御捧物は注目されていたので、好みにうるさい人々は当然趣向を凝らしている。それは、別に制約を設けるほどのことでもないからであろう。

こぎれいな感じの六位の衛府たちが薪(タキギ)を伐り、水桶など持っている姿は興味深い。
殿方や僧侶や俗体の人などが歩き続けて行道する様子は、それぞれに趣があり尊く思われる。
苦空無我(ククウムガ・この世はすべて苦であるという心理を表現している。)という讃歎(サンダン・仏の徳を誉め称えること。)の声で、遣り水の流れの音さえ融け合って、すべてのものに御法(ミノリ)を説くかのように聞こえる。
法華経が僧によって説かれる様は、しみじみと感極まって涙が止まらない。御簾ぎわの柱のもとや、端々などから自然と出ている女房の袖口や、こぼれ出ている衣の裾など、菖蒲、楝(オウチ)の花、撫子、藤(いずれも襲(カサネ)の色目。)などの色目が見えている。軒には、隙間なく葺かれた菖蒲も他の時とは違って風情があり気高い。

かねてから噂されていた捧物を付ける造花の枝も、まことに風情があり見応えがあるが、権中納言(隆家。中関白家の伊周の弟。)は銀製の菖蒲に薬玉(クスダマ・端午の節句の飾り物で、薬草や香料を入れた玉。)をお付けになっている。若い女房たちは、それに目を奪われている。
およそ世間並みのわけさら(分け皿らしいが、よく分らない。)などという物を、しゃれた枝に付けているのも風情がある。
御邸内の有様は、いつも風情をたたえているが、然るべき儀式などをなさるときは、いっそう他所と比べてご立派である。

こうした中で、中宮(彰子)の御捧物は殿上人たちが持っているが、それらは皆わけさらなのであろう。諸太夫(五位の者)やそれより下の上官(太政官の下級官人)どもまで、身分の低いものの例えに引かれる「時の花をかざす(時流におもねる、といった意味。)」という心なのであろうか、色さまざまな薄様に押し包んだ心配りの捧物を隠しもせず、これ見よがしに高く捧げ、御簾の内を気にしているのが可笑しい。しかし、それらの者にまで目を止める者はいない。

帝の御使者には、式部蔵人定輔が参って、儀式が終ってから御返事を賜った。録は、菖蒲襲の織物に濃い紅の袴であったようだ。
夜になって、中宮がまた御堂にお出ましになる。内侍の殿(妍子。道長の次女で彰子の妹。)などとお話しをなさる。
池の面に映る篝火(カガリビ)に仏前の御灯(ミアカシ)の光りが交じり合って一段と明るく、中宮がその光景をご覧になっておられると、菖蒲の香りも清らかに風情をたたえて薫っている。
暁に、御堂からそれぞれの局に退出する女房たちが、廊、渡り殿、西の対の簀子、寝殿などを通って、上の御方(倫子)の御読経、宮の御方(彰子)の不断の御読経をなさっている前にさしかかると、私的な物詣でで若い女房たちが大勢であれば誰も物怖じしないが、こうした場所で、それぞれが一人まえのように振る舞い、人払いなどさせて、すまし顔ですり足であちこちと歩くので、やはり何とも気詰まりで、ながながと渡り歩くのは、辛い思いをしながらの女房もいることだろう。

     ☆   ☆   ☆

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