『 毘沙門天の霊験 ・ 今昔物語 ( 17 - 43 ) 』
今は昔、
鞍馬寺に一人の修行僧が籠もって修行していた。
ある時、夜に薪(タキギ)を拾い、それに火を付けて燃やしているうちに、夜がすっかり更け、羅刹鬼(ラセツキ・古代インドの鬼類の総称。悪鬼であるが、仏法の守護神とされることもある。)が女の姿になって、僧の所にやって来て、火を焚きながら向かい合って座った。
僧は、「これはただの女ではあるまい。鬼であろう」と疑って、金杖(カナヅエ・錫杖のことらしい。)の尻を焼き、それを鬼の胸に突き立てて、僧は逃げ去って堂の西にある朽木の下にそっと隠れて、身を縮めていた。
鬼は胸に焼けた金杖を突き立てられて大いに怒り、僧の逃げ去った跡を探して追いかけてきて、僧を見つけると、大口を開けて僧を喰らおうとした。僧は恐怖におののきながら、心を込めて毘沙門天を念じ奉って、「私をお助け下さい」と申し上げた。
すると、隠れていた朽木が突然倒れて、鬼を押しつぶして殺してしまった。それで、僧は命が助かり、さらに毘沙門天を念じ奉り続けた。
夜が明けて後、見てみると、本当に朽木が倒れて鬼が押しつぶされて死んでいた。僧はそれを見て、涙ながらに毘沙門天を礼拝し奉って、その寺を出て他の所へ修行に出た。
また、これを見聞きした人は、毘沙門天の霊験のあらたかなことを、ますます信じて感激し尊んだ、
となむ語り伝へたるとや。
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