雅工房 作品集

長編小説を中心に、中短編小説・コラムなどを発表しています。

泥の中の地蔵尊 ・ 今昔物語 ( 17 - 5 )

2024-10-11 16:57:11 | 今昔物語拾い読み ・ その4

     『 泥の中の地蔵尊 ・ 今昔物語 ( 17 - 5 ) 』


今は昔、
陸奥の前司、平朝臣孝義(1023 年に陸奧守だったらしい。)という人がいた。
その家に郎等として仕えている男がいた。本名は分からない。字(アザナ・通称)を藤二(トウジ)といった。

さて、孝義が陸奧国の国司であった時、その男を検田(ケンデン・田地の面積や収穫量などを検定すること。)の使いとして先に下向させた。
そこで、この男は陸奧国に行き、田の辺りに立って検田していたが、ふと見ると、泥の中に一尺ばかりの地蔵菩薩の像が、半身は泥の中に入っていて、半身は泥から出ていらっしゃる。
藤二はこれを見て、驚いて馬から急いでで下りて、人に命じて引き出し奉ろうとしたが、重たい石のようで引き出し奉ることが出来ない。そこで、多数の人を集めて引き出し奉ろうしとたが、やはり、お出にならない。

その時、藤二は不審に思って、心の内で祈念して、「この地蔵菩薩のお姿を見奉るに、引き出し奉ることが出来ないとは思えない。それにのに、このように引き出し奉ることが出来ないのは、きっと理由があるのでしょう。もしそうであれば、必ず、今夜の夢の中でお示し下さい」と申して、帰った。
その夜の夢に、容姿端正な小僧が現れ、藤二に告げて「我、泥の中にあり。その田は、もとは寺であった跡である。その寺はずっと前になくなり建物も壊れてしまい、多くの仏・菩薩の像は皆泥の中に埋まって在(マ)します。されば、その仏・菩薩の像を皆掘り出し奉れば、我も共に出ることにしよう」と仰せになった、と見たところで夢から覚めた。
藤二は、驚き畏れて、明くる朝、多数の人夫を集めて引き連れ、鋤や鍬を持って、あの所に行って掘らせると、夢のお告げのように、五十余体の仏・菩薩の像を掘り出し奉った。その時に、地蔵菩薩も容易くお出になった。

藤二ならびにその近辺の人たちは皆これを見て、貴び喜んで、すぐにその場所に粗末な草葺きのお堂を建てて、この多くの仏・菩薩を安置し奉った。
ただ、あの地蔵菩薩一体だけは、藤二は特に帰依し奉り、共にお連れして上京した。そして、六波羅の寿久聖人(伝不詳)という人が藤二と親しかったので、その僧房にお送り奉った。寿久聖人は、この地蔵の事の経緯を聞いて、感激し貴び、改めて彩色を施して、僧房に安置して朝暮に恭敬(クギョウ・慎み敬うこと。)供養し奉った。
その地蔵は、今もその寺に在します、
となむ語り伝へたるとや。  

     ☆   ☆   ☆


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