雅工房 作品集

長編小説を中心に、中短編小説・コラムなどを発表しています。

宮の御仏名の

2014-04-22 11:00:50 | 『枕草子』 清少納言さまからの贈り物
          枕草子 第二百八十三段 宮の御仏名の

十二月廿四日、宮の御仏名の、半夜の導師ききて出づる人は、夜半(ヨナカ)ばかりも過ぎにけむかし。
日来(ヒゴロ)降りつる雪の、今日はやみて、風などいたう吹きつれば、垂氷(タルヒ・つらら)いみじうしたり。地などこそ、むらむら白きところがちなれ、屋の上は、ただおしなべて白きに、あやしき賤の屋も、雪にみな面隠しして、有明の月のくまなきに、いみじうをかし。
     (以下割愛)


十二月二十四日、中宮さまの御仏名の半夜の導師の読経を聞いて出る人は、真夜中も過ぎてしまったことでしょう。
何日も降り続いた雪が、今日はやんで、風などが強く吹いたので、つららが沢山出来ています。地面などは、まだらで白い所が多いけれど、建物の上は、ただ一面に真っ白なので、みすぼらしい民家も、雪ですっかり覆面をしていて、有明の月がくっきりと輝いていて、とても風情があります。

屋根の雪が、まるで白銀を葺いたような美しさで、つららは「水晶の滝」とでも言いたいような風情で、長いのや短いのを、わざと趣向を凝らしてかけ連ねたかのように見えて、言いつくせないほどすばらしいうえに、下簾も掛けない車で、簾を高々と巻き上げてあるので、車の奥にまで射し入った月の光に、淡紫や白や紅梅など、七、八枚ほど着ている上に、濃い紫の表着の鮮やかな光沢などが、月に映えて美しく見える女性の傍らに、葡萄染(エビゾメ)の固紋の指貫、白い単衣を沢山重ね、山吹色や紅の衣を外にこぼれるように着て、直衣の真っ白な紐をほどいているので、自然に肩脱ぎになっていて、下の衣がたくさんこぼれ出て見えている。
指貫の片一方は、とじきみ(牛車の前の横に渡した板)の所に踏み出している格好など、道で人が出会えば、「しゃれた格好だ」と見ることでしょう。女性は、月の明るさが気まり悪いので、後ずさりに車の奥へ引っこむのを、男は何度も引き寄せて、丸見えにされては、べそをかいているのが可笑しい。

「凛々として氷舗(シ)けり」(和漢朗詠集の中にある詩)
という文句を、繰り返し繰り返し吟誦しておられるのは、とても風情があって、一晩中でも車を走らせていたいのに、目的地が近づくのも、残念なことです。



この章段も、仏事から派生したものとはいえ、恵まれた宮中生活の一場面ではないでしょうか。
ただ、文章としては、御仏名を終えて、牛車を走らせている描写は、第三者のものとして描かれていますが、最後の部分の感想は、少納言さま自身の気持ちであり、全てが体験からのものと思われます。
そうだとすれば、べそをかいている女性は、少納言さまご自身なのでしょうね、きっと。

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