雅工房 作品集

長編小説を中心に、中短編小説・コラムなどを発表しています。

一線を超える ・ 小さな小さな物語 ( 959 )

2017-04-22 08:47:14 | 小さな小さな物語 第十六部
アメリカによるシリア・アサド政権の空軍基地へのミサイル攻撃は、実に衝撃的なものでした。
その後の報道の中には、トランプ大統領は、化学兵器とされる空爆によって被害を受けた映像に大きな衝撃を受けたと伝えられているものがありました。中でも、空爆直後の二つの映像に心を揺さぶられたとも伝えられています。
その映像とは、テレビなどでご覧になった方も多いと思われますが、「子供が横たわっていて、民間の救助隊員に水で流されている様子」であり、もう一つは、「死亡した双子の幼児が白い布にくるまれ、若い父親に抱きかかえられている姿」の二つだったそうです。
これらの映像だけで決断したわけではないでしょうが、アサド政権容認派と考えられていたトランプ大統領は、その態度を一変させ、すばやく攻撃を決断したとされています。

また、記者団に対する談話の中では、「罪のない子供や赤ん坊を化学兵器で殺すような行為は、レッドラインを幾つも超えている」と発言しています。
この「レッドライン」は、「超えてはならない一線」と訳されているようです。
この突然と思えるアメリカの軍事行動は多くの国に少なからぬ衝撃を与えています。首脳会談中であった中国の反応は極めて微妙と感じられるものですが、攻撃されたアサド政権はもちろん、同盟関係にあるロシアなども激しく非難しています。わが国などG7各国は概ね容認派といえるのでしょうが、今後、安保理違反云々について議論が高まることでしょう。
アメリカが世界の警察官でもなければ裁判官でもないことはその通りですし、トランプ大統領もその旨発言されています。世界の治安や秩序などに関する行動は、国連を通して実行されるべきであることは現在の世界にとって常識ともいえます。同時に、国連の様々な決議や勧告が、無視されてしまう現実があることも常識だともいえます。
これを打破する方法があるのか、武力に勝る知恵というものが存在しているのか、人類は未だその方法を見つけ出すことが出来ていないような気がするのです。

折から、米軍の空母を中心とした艦隊がわが国近海に向かっています。予定を変更しての行動のようです。さらに、原子力空母を中心とした艦隊も同海域に向かっていると伝えられています。テレビの解説者などによりますと、米軍の空母を中心とした艦隊は、それだけでヨーロッパの中程度の国の空軍力より遥かに勝っているそうで、その艦隊が二つも同一海域に向かうことは、いつでも戦闘態勢に入ることが出来る状態だそうです。
11日、わが国の外務省は、「韓国への滞在・渡航を予定している方、すでに滞在中の方は、最新情報に注意してください」という海外安全情報を発表しました。同様の情報は時々目にするものですし、先だっての韓国大統領の弾劾に伴うデモの時も出されていますが、今回の場合は、米軍のシリア空軍基地へのミサイル攻撃は、北朝鮮政権への「一線を超えるなよ」というメッセージも含まれていることは誰にでも分かることで、今回の海外安全情報は、それへの備えと考えられます。
そういえば、先日帰国していたわが国の韓国大使たちが帰任しましたが、「帰国させた懸案事項が解消していないのに格好の悪いことだ」とご高説を述べておられた方もありましたが、今日の状況を考えた場合、まことに適切な判断だったと思われます。

ところで、「一線を超える」とは、どのような状態を指すのでしょうか。アメリカが考えている北朝鮮政権が超えてはならないという「一線」とは、どの状態を指しているのでしょうか。
私たちの日常生活でも「一線を超える」という言葉は使われますし、そういう事態が時には深刻な結果を生み出すことも少なくありません。
しかし、今回懸念されている「一線を超える、超えない」は、少し次元が違っていて、もしかすると、ここ五十年の中で最大の難儀がわが国に襲いかかろうとしている可能性さえあるような気がするのです。

( 2017.04.13 )




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