マネジャーの休日余暇(ブログ版)

奈良の伝統行事や民俗、風習を採訪し紹介してます。
すべての写真、文は著作権がありますので無断転載はお断りします。

若き刀匠

2011年10月04日 07時51分37秒 | 民俗あれこれ(職人編)
この日は奈良県内各地で八朔の祭りが行われている。

台風の影響であろうか、一日中雨が降る日だった。

天理市小田中町に鎮座する菅原神社ではその日を八朔の籠りと呼んでいる。

陽が落ちるころにめいめいが家で作ったごちそうを持ち寄って神社に集まってくる。

本殿と拝殿の間にシートを広げて家ごとの会食がされるのであったが生憎の雨の夜。

やむなく公民館が会場となった。

そのような夜となったが住民のO婦人が語った台風の習わしに興味をもった。

台風がまともに来たら家が壊れるといって庭に長い竹を立てた。

その先にはナタを括りつけてぶら下げる。

そこに台風の眼が当たったら大風がちらばるというまじないをしていた。

その光景はおよそ50年前のことで実家になる天理市の上山田。

今でもそれをしているかどうか判らないと話す。

語ってくれたO家の息子さんは数少ない奈良県の刀匠の一人である。

身ごもった奥さんとともに作業場を拝見させていただいた。

若い時に一念発起されて刀匠の道に入られた。

室生に住む師匠に弟子入りを志願されて身につけた刀鍛冶。

一人立ちされて何年も経つが。

刀鍛冶の奥は深く、一生かかるであろうと話す。

インゴットのように見えた原材料は砂鉄から造られたタマハガネ(玉鋼)。

鉄の塊だ。

それが刀になる工程は数十日もかかる作業だ。

フイゴがあるホド(火床)。

高熱で鉄を焼く。

そのフイゴは染田の野鍛冶師にいただいたもの。

手探りで修理をして使えるようにしたという。

師の作業を拝見したことを思い出す。

その様子は「火おとし 感謝の1日」のサブタイトルで産経新聞奈良版に掲載させていただいたフイゴ祭り。

平成22年11月17日号であった。

師は大切にこの記事を残しておられる。

それはともかく鍛錬の火が飛び散る。

タン、タン・・・言葉では表せないリズムで鍛える鉄。

さまざまな工程を経て美しい形になった刀。

当然ながら登録された刀である。

それを拝見させていただいた。

光り輝く刀は仕事の証し。

「波紋が見えるでしょう」と言われて撮影はするものの写真でそれを再現するにはとても難しい。

室内ならばストロボを当てざるを得ないのだが、それでは美しい波紋は現れない。

角度や光加減を考えてシャッターを押してみるが刀匠が気にいる映像は・・・。



手持ち撮影では限界がある。

写真家たちに言わせると、撮影機材も大がかりになり一様に撮るのは難しいという。

婦人の勤め先の話題なども飛びだし数時間も寛いでしまった。

一昨年に発刊した「奈良大和路の年中行事」をもう一冊ほしいと買ってくださった。

そこには菅原神社のトーニンワーイも掲載している。

嫁ぎ先のO家の親父さんが写っていたのだ。

温もりのあるO家の夕食時だっただけにご迷惑をかけたことだろうと思い帰路についた。

ちなみに公民館の横には観音堂がある。

ここでは彼岸講の寄り合いがあるという。

春は3月、秋は9月の彼岸の夜に集まって数珠繰りをしているそうだ。

ご詠歌をされるというから西国三十三番のご詠歌であろうか。

(H23. 9. 1 SB932SH撮影)