マネジャーの休日余暇(ブログ版)

奈良の伝統行事や民俗、風習を採訪し紹介してます。
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山城町平尾涌出宮の饗応の相撲

2018年12月19日 09時10分13秒 | もっと遠くへ(京都編)
拝殿入口辺りに掲示している「宮座行事の日程変更のお知らせ」を通知している人たちは涌出宮関係宮座衆一同。

涌出宮は京都府木津川市山城町平尾里屋敷に鎮座する涌出宮(わきでのみや)であるが、正式社名は和伎坐天乃夫岐売(わきにいますあめのふきめ)神社である。

涌出宮に関係する宮座は与力座、古川座、歩射(びしゃ)座(平成5年復帰)、尾崎座、大座(おおざ)、殿屋座(とのやざ)、岡之座、中村座の八座であるが、本日行事の饗応(アエ)の相撲については大座、殿屋座、岡之座、中村座(※平成22年より一時的に休止していたが復帰のようである)の四座によって行われる。

宮座によって行われる涌出宮の秋祭りは2行事。

本日の饗応(アエ)の相撲に百味の御食である。

それぞれ9月30日、10月17日に行われていた両行事は平成26年に特定日を移して休日に移行された。

饗応(アエ)の相撲は9月最後の日曜日、百味の御食は10月の第三日曜日である。

饗応(アエ)の相撲は午後に行われるが、その前に座中が揃って会食をされる座直会がある。

座中饗応の宴であるが、この饗応を“あえ”と呼び、座中の関係する子どもたちが相撲の所作をすることから行事名が「饗応(アエ)の相撲」としたのであろう。

ただ、相撲の所作に出てくる詞章はアーエーと伸ばしている。

略した線描きの土俵の場は北側と南側の2カ所に設営する。

北の土俵は大座に殿屋座。

南の土俵は平尾の岡之座、中村座の場である。

なお、雨天の場合は拝殿内で行われるそうだ。

行司役を務める座中は白抜きの下り藤の紋を染めた素襖を着用し烏帽子を被る。

足元は白鼻緒の草履を履いて身支度を整えた。

相撲取りの所作をする子どもたちは普段着に赤、白色の相撲廻しを締め、相撲の所作に用いる太刀(※柄は白色、鞘は朱色)をもっている。



まずは本社殿下に登って鈴祓いを受ける。

子どもたちは神妙な表情をみせていた。



境内に設えた二つの土俵を祓ってくださる宮司。

その場に登場するのは二人の行司役と二人の子ども力士。

右に白廻し、左に赤廻しを着用した子どもが並ぶ。

まずは土俵入りの饗応(アエ)所作。

太刀を上段に構えて「アーエー アーエー・・」を繰り返し発声しながら前進する。

その際、太刀を前方に向けて振り下ろす。

これを何度も繰り返して向こう側の土俵までゆく。



初めて体験する饗応(アエ)の相撲の所作に戸惑いをみせつつお互いが顔を見合わせる。

テレがあるのか笑みがこぼれる。

その作法を見ている観客は優しい眼差しを送って笑顔になる。

温かみのある観客の目線も感じながらも所作を繰り返して向こう側の土俵に着く。

土俵の廻りに観客。

少し間をとって囲んでいる観客は座の関係者に子供力士の親たち。

初めての出番に目を細めている。

車椅子利用の人たちも観客。

涌出宮すぐ近くにある入所施設で暮らしている人たちも愉しみにしていた饗応(アエ)の相撲である。



行司がもっていた扇を広げて、その上に置いた太刀。

刃のある方を向かい合わせにして太刀を置いた。



そうすると力士は行司のいわれるままに腕をあげる。

おいで、おいでをしそうな掌。

そのまま腕を上下に振りながら後ろ歩きで戻っていく。



そのときも同じく「アーエー アーエー・・」を繰り返し発声しながら戻っていく。

出発地点の向こう正面(南)に戻ったらまたもや前進。

そのときも、おいで、おいでをしそうに腕を上下に振りながら「アーエー アーエー・・」を繰り返す。

また、土俵に着いたら置いていた太刀をもって後ろ歩きで戻っていく。

その際の所作は太刀振り。

「アーエー アーエー・・」を繰り返し発声しながら戻っていくと、思いきやそうではなかった。

その地点からお互いは背中を向けて太刀振りの前進。



これまで見せていた土俵内ではなく土俵外周に沿って半円を描くように前進して出発地点に戻る。

これより始まるのが相撲の取り組み。

先ほどの作法は取組前の儀式、つまりは土俵入り作法ではないだろうか。

さて、相撲の取り組みである。

2本の筋を引いた仕切り線。

東西に分かれた子供力士がこれより勝負をする。

行司の手には軍配がある。

ただ、「ひがーしー」とかの呼び出しはない。

さぁ、見合って、見合って・・・とする前に、子供力士に伝える三番勝負である。

一番、二番はお互いが一つ勝って、一つ負け。

勝負は引き分けになったところの三番勝負はガチンコである。

行司の指示は先に君が。

次は君にと勝負を伝えてから、見合って、見合って、はっけよーいっ・・・のこった。

相撲の技は押し相撲。

相手の胸を押して土俵に押し出す。

先に負けを決めていた力士は力を入れることなく押し出された。

二番勝負の勝ち負けは逆になる。



要領が理解できた子どもはあっさりと勝負を決めた。

さて、ガチンコ対決の三番勝負である。

気合いを入れた両力士。

はっけよーいっ・・・のこったに力づくに押しまくる。

押して、引いて、廻して、のこった、のこった・・・。

最後は力いっぱいの「おしだしーー」で軍配がくだった。

本格的な勝負に場内の観客たちが打つ拍手は鳴りやまない。

次の取り組みは順番を待っていたもう1組の力士たち。



初めの二座にもう一組の二座。

それぞれに出番があるから選手交代、でなく力士は2番手の二人である。



先ほどと同じようにまずは所作をする。

太刀をもって「アーエー アーエー・・」を繰り返しながら前進し、北にある土俵正面まで。



扇を置いて太刀も置く。



手振りで南の向こう正面に戻る「アーエー アーエー・・」の所作。

再び正面に向かって「アーエー アーエー・・」。



太刀をもって土俵の外周を「アーエー アーエー・・」。

そして三番勝負。

同じように一番、二番は役割通りに勝負をする。



そしてガチンコ勝負の三番取り組みに拍手喝采。



母親は勝負決めの一瞬をとらえていただろうか。

北側の土俵で相撲取りをした力士たちは場を替える。

今度は南側に設えた土俵である。



北側の土俵と同じように向こう正面から始まる「アーエー アーエー・・」の所作。



太刀をもって半周回する。

さぁ、見合って、見合ってはっけよーいっ・・・のこった。



2度目の登場に力士の目線は気合いの入った勝負の眼。





所作、取り組みは次の子どもたちに入れ替わっても繰り返す「アーエー アーエー・・」にガチンコ勝負。



頼もしくも微笑ましい饗応(アエ)の相撲を終えたら宮司から金一封、ではなく涌出宮の御供を授与される。



また、それぞれの座中からはお礼の品も授与されて、饗応(アエ)の相撲の役目を終えた。



稔りの稲作は収穫の秋。

取り込みまでの座中はゆっくりしている。

饗応(アエ)の相撲は成長した座中の子どもの初舞台を拝見する秋の祭りの予祝行事である。



翌月は収穫を祝う百味の御食が控えている。

なお、饗応(アエ)の相撲の実施日が雨天の場合は拝殿内で行われるようだ。

その様子をアップしているブログもあれば、毎年来られる人とか、座の人と思われる人は直会食の様子をアップするなど賑わいをみせている。

(H29. 9.24 EOS40D撮影)