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大手町のビルの八階にある商社ユニヴァースの総務課に在籍する江戸川久美子は、午後五時きっかりに化粧室に向かった。
ここの化粧室は、ホテル並みの設備を誇っていて、大きな鏡、洗面部分も広く照明の配慮も完璧で、自然光に近い。したがって、化粧の仕上がりには満足する。鏡の前でボーイッシュな髪形に包まれた色白のやや丸みを帯びた顔に、慣れた手つきでピンクのシャドーを額に薄く塗る。
突然、背後にぬっと人影が現れた。一瞬ぎょっとしたが、よく見ると経理課の千代田増美が笑っている。
「チョットオー、びっくりするじゃない!」と久美子が口を尖らす。
「ごめん、ごめん! お化粧するのってかなり集中しているんだ」と増美がまじめな顔で言う。
「そうかも、だって今日は金曜日よ」と久美子はうきうきとして言う。アイラインとアイシャドウも引き、唇をワインレッドでキチット輪郭をとって出来上がり。
増美は経理課の近くの化粧室で済ませてきたのだろう。ロングヘアーを肩までたらしダークブラウンに染めている。細面にはよく似合う。アイラインを薄く引いて、素顔のような肌は健康的に映る。
実際二人は健康そのもので、週一回は、近くのジムでトレーニングに励んでいる。化粧室から出がけに二人は、唇に軽く触れ久美子は舌で増美の歯をなでるキスをした。
エレベーターで一階に降りて、出入り口の回転ドアに向かう。会社の退け時とあって出口に向かう人で込み合っている。歩道に吐き出されて思わず「寒い!」と二人同時に叫んだ。
強力な寒気が南下していて関東地方を覆っているせいだ。二人は丸の内線の地下鉄駅へ歩みだした。雲一つない夜空に浮かぶ月の光芒がまぶしく感じられる。
大手町のビルの八階にある商社ユニヴァースの総務課に在籍する江戸川久美子は、午後五時きっかりに化粧室に向かった。
ここの化粧室は、ホテル並みの設備を誇っていて、大きな鏡、洗面部分も広く照明の配慮も完璧で、自然光に近い。したがって、化粧の仕上がりには満足する。鏡の前でボーイッシュな髪形に包まれた色白のやや丸みを帯びた顔に、慣れた手つきでピンクのシャドーを額に薄く塗る。
突然、背後にぬっと人影が現れた。一瞬ぎょっとしたが、よく見ると経理課の千代田増美が笑っている。
「チョットオー、びっくりするじゃない!」と久美子が口を尖らす。
「ごめん、ごめん! お化粧するのってかなり集中しているんだ」と増美がまじめな顔で言う。
「そうかも、だって今日は金曜日よ」と久美子はうきうきとして言う。アイラインとアイシャドウも引き、唇をワインレッドでキチット輪郭をとって出来上がり。
増美は経理課の近くの化粧室で済ませてきたのだろう。ロングヘアーを肩までたらしダークブラウンに染めている。細面にはよく似合う。アイラインを薄く引いて、素顔のような肌は健康的に映る。
実際二人は健康そのもので、週一回は、近くのジムでトレーニングに励んでいる。化粧室から出がけに二人は、唇に軽く触れ久美子は舌で増美の歯をなでるキスをした。
エレベーターで一階に降りて、出入り口の回転ドアに向かう。会社の退け時とあって出口に向かう人で込み合っている。歩道に吐き出されて思わず「寒い!」と二人同時に叫んだ。
強力な寒気が南下していて関東地方を覆っているせいだ。二人は丸の内線の地下鉄駅へ歩みだした。雲一つない夜空に浮かぶ月の光芒がまぶしく感じられる。