癌で死にかけている父のもとに、カリフォルニアで教師をしている息子ロイ・スレーターが二十年振りに帰ってくる。ロイには最愛の弟アーチーもいたが、グロリアという娘と駆け落ちするまでになる。
その夜悲劇の殺人が起こり、アーチーは自白して留置場で首吊り自殺をする。そのショックで母親もこの世を去る。残された父と息子。しかも息子は父親を毛嫌いしていた。カリフォルニアの教師になったのもそれが原因だった。
ところがある日、父親がアーチーの思い出とともに憤怒を爆発させた。ロニー保安官の父親で元保安官のウォレスに対してだった。それがきっかけでアーチーの事件を調べ始める。
父親のかつての恋やリンチを受けたことが浮き彫りになってくる。ロイにもライラという恋人がいたが、結婚はできなくなったという彼女からの一通の手紙が二人の仲を裂いた。どうして結婚できないかという謎も明らかになってくる。
親は生まれた子供が気に入っても入らなくても生涯つき合っていかなくてはならない。子供はもっと悲惨で、親を選ぶことが出来ない。親は子供を生むか生まないかの選択が出来る点が子供の立場との違いがある。
ロイと父親との関係も、父の末期にようやく心が通い合うという切なさに満ちている。この本は地域社会や人間のしがらみを、やや暗い文体で描いていく。この人が描く女性には惹きつけられる。「緋色の記憶」の美術教師のチャニング先生だし、この本でもライラ・カトラーに同じ思いを抱く。
“僕は彼女に花束を渡した。「ここへくる途中で摘んだんだ」
彼女はそれを顔に近づけた。「野生の匂いがするわ。花屋で買う花とは違って」もう一度花のほうにうつむいて、それから顔を上げてぼくを見た。「寄ってくれて、ありがとう、ロイ」
「父さんは僕が君のために戦うべきだったと思っていた」と僕は言った。
彼女は首を横に振った。「もうずっと昔のことだわ」
「君さえよければ、僕はもう少しこの近くにいようかと思うんだ。どういうことになるかはっきりするまで」
彼女は首を振った。「ロイ、もう……」
「君のあとから崖を飛び降りるのとはチョット違うかもしれないけど(子供のころライラに続いて崖から川に飛び込んだことがある)、今の僕にはせいぜいこのくらいしかできないんだ。もう昔ほど敏捷じゃないからね」
彼女はにっこりと笑みを浮かべた。
「ライラ――君が僕のために何をしてくれたか、僕は知っているんだ」
彼女の笑みがすっと消えたが、その目の中で野性的で愛らしい何かがキラリと光った”
最後のこくだりで、ほっと安堵の吐息を漏らした。