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映画 ブルース・ウィリス、ミシェル・ファイファー「ストーリー・オブ・ラブ(‘99)」

2008-01-25 12:40:12 | 映画

              
 結婚十五年目の中年カップルが離婚の危機に見舞われる。ベン(ブルース・ウィリス)とケイティー(ミシェル・ファイファー)の夫婦は、日常の些細なことから口げんかが絶えない。
 二人の子供、ジョシュとエリンがサマー・キャンプに出かける時を利用して試験別居を試みる。ベンはホテルに滞在するが落ち着かない。ケイティも同様で、二人はなんとか口実を作ってケイティの家(ベンの家でもあるが)で甘い時間になろうかというとき、またしてもベッドの上で口論になる。
 ベンは親友に、ケイティも友人に相談したりするが、離婚は避けられなくなる。サマー・キャンプが終わる日、自宅の食卓で子供たちに話して聞かせることに合意する。さて、その日ケイティの長広舌でハピーエンドと相成る。なんだか肩透かしを食らったようなんだが、ミシェル・ファイファーのかなり長いセリフと表現力で納得させられる。
              
 それにしても、脚本家というのはうまくセリフを書くものだと感心する。ベンが黒のエクスプローラのバック・ハッチを閉めたとき「中華の店がいいわ」とケイティが静かに言った。怪訝な表情のベンが「チャウ・ファンズ? あの店じゃ話せないだろ」
「ええ」
「じゃ何で?」
「あそこがいいの」
「子供に話す勇気が出ないのか? 今さら言うなよ」少しムッとして言った。
ケイティは首を振りながら
「みんなでいきたいの、だって家族だもの。私たち家族の歴史は一晩じゃ生まれないわ。メソポタミアでは、古い都市の上に新しい町を建てたけど、私は今のままでいいの。薬の置き場所も、あなたの朝の気分も分かるし、あなたも私が朝は口数が少ないのを知ってるわ。長年の生活の積み重ねよ。結婚生活は想像以上に大変だけどいいこともある。あきらめちゃダメよ。子供のためじゃないわ。あんなにすばらしい子を二人で作ったのよ。何もないところから二人が生まれてあんなに大きくなったわ。
 “ジョシュの手はあなたにそっくり”“エリンが吐いたの”なんてあなた以外に言えないわ。
 誰にだって欠点はあるわ。あなたにもあるし私にだってある。例えば方向感覚は私のほうが上よ。けなしてるんじゃないの。いい点もあるってこと、あなたみたいな“親友”はどこにもいないわ。子供の童話を読むときのあなたが大好きなの。どんなに疲れていても登場人物の声を使い分けるわ。その声を聞くと分かるの。あなたがどんなに優しい人かってことが。
 ヘルメット姿の楽しい私はまだここにいるのよ。あなたに会って知った自分よ。あなたと別れたら、そんな自分も消えるわ。前に言ったこととは矛盾するけど、結婚なんて矛盾だらけなのよ。陰と陽、いいときもある悪いときもあるわ。
 痩せた夫と太った妻の童話もある。今のは関係ないけど、つまり言いたいのはあの店に行きたいのは……愛してるからよ」と言い終わってしっかりと抱き合う二人。
 活字にすると何の変哲もないし、感動も涙腺が緩むこともない。この台本を渡されて観客が納得するように人物造形をしてくれ言われればどうするだろうか。ミシェル・ファイファーは、さすがに力のある女優だ。最初は静かに語りだして感情が高ぶってくると、声が大きく早口になり泣き声も混じってくる。
 少し言葉がつかえたり繰り返したり泣き笑いも混じり、手にも表情を持った表現力を見せた。このときの彼女の顔は、くしゃくしゃの泣き顔で決して美しいとはいえない。美人であってもあえてそれを表現する。だから観客は魅了されるのだろう。彼女のセリフは、離婚予備軍に送るメッセージと受け取れないこともない。
               
 それにしても、アメリカ人はハグと愛しているよの言葉が好きな国民だとつくづく思う。この映画でも、サマー・キャンプの集合場所に送っていったとき、バスに乗り込むまでに両親とハグ、愛しているよを繰り返し、娘なんかはバスから出てきて母親とハグと愛しているよ、そしてバスが出ると手を振る。
 アメリカに住んだことのない日本人としては、いささか理解を超えているように思う。が、考えてみればアメリカ国内向けに作った映画だから、こちらがとやかく言う筋合いでもないか。
 そしてこんなセリフもある。
「夫とセックスしても、キスは嫌な時があるわ」と友人が言う。
「キスのほうが親密なのよ」とケイティ。
 別の友人が「なぜかしら?」
「セックスは惰性だけど、キスは“ときめき”なの」と友人。
「本当ね」そして止めは「結婚なんてロマンスの抹殺装置よ」

 監督 ロブ・ライナー1947年3月ニューヨーク・ブロンクス生まれ。テレビの演出から’86「スタンド・バイ・ミー」がヒット。‘90「ミザリー」で新境地を開く。その後も「ア・フュー・グッドメン」などサスペンスや政治ドラマなど範囲を広げている。俳優の経験もあって、この映画でもブルース・ウィリスの親友を演じている。
 キャスト ブルース・ウィリス1955年3月西ドイツ生まれ。「ダイハード」で有名。
 ミシェル・ファイファー1958年4月カリフォルニア州サンタ・アナ生まれ。’80「マンハッタン・ラプソディー」で映画デビュー。‘89「恋のゆくえ/ファビュラス・ベイカー・ボーイズ」でアカデミー主演女優賞にノミネートされ、‘92「ラブ・フィールド」でも主演女優賞にノミネートされ、ベルリン国際映画祭、全米批評家協会賞、NY批評家協会賞、LA批評家協会賞、ゴールデングローブ賞などは受賞しているがアカデミー賞には縁がない。