この映画をいつもの気分で観ると、終わったあと新興宗教に洗脳されたように感じる。なにしろ主人公フレディ・クエル(ホワキン・フェニックス)は、太平洋戦争に海軍で従軍し精神を病んで帰国した。暴力的でセックスに執着する男だ。
そのフレディが酔っ払って新興宗教団の船に潜り込んだのが教祖ランカスター・ドッド(フィリップ・シーモア・ホフマン)との出会いとなる。なにやら一向に分からない教義を説くドッド。途中から歌を歌い踊り始める。女性信者はすべて一糸まとわぬ裸。隠そうとしない陰毛。しかし、男はスーツ姿。この宗教は本来男も女も素裸になるのだろう。映画的には、それはムリ。
わけが分からないまま、やがて教祖の妻ペギー(エイミー・アダムス)がフレディに宣告する。「無意味よ。自分を治そうとしない」否定されたフレディ。ドッドとたもとを分かち、とある田舎の酒場。目のあった女とベッドへ。フレディには今が一番の人生。追いかけるように暗示的な「チェンジング・パートナー」の曲が流れる。
あなたとワルツを踊っていたの
夢のような甘いメロディで
”相手を変えて”と声が聞こえて
あなたは私から離れていった
もう私の腕にあなたはいない
ひとり寂しくフロアを見つめ
相手を変えて踊り続ける
もう一度 あなたを抱きしめるまで
よく分からない部分もあるにしても、フレッド・クエルを演じたホワキン・フェニックスには驚嘆する。アップのシーンがかなりあるが、その表情はまさに精神を病んだ男だし、歩き方も猫背でくたびれた感じがする。決して格好いい男ではない。それでも彼の姿は、脳裏に焼き付けられる。
その60年ほど前の曲「チェンジング・パートナー」をパティ・ペイジでどうぞ!
監督
ポール・トーマス・アンダーソン1970年10月カリフォルニア生まれ。
キャスト
ホアキン・フェニックス1974年10月生まれ。「スタンド・バイ・ミー」で有名になったリヴァー・フェニックスの弟。本作でヴェネチア国際映画祭の男優賞受賞。
フィリップ・シーモア・ホフマン1967年7月ニューヨーク州フェアポート生まれ。’05「カーポーティ」でアカデミー主演男優賞受賞。
エイミー・アダムス1974年8月イタリア、ヴィチェンツア生まれ。