ドイツ語版「アドルフ」の書評が載ったのは、長年愛読しているスイスのNZZ(ノイエ・ツュルヒャー・ツァイトゥンク)で、2006年6月22日のことでした。紙面の三分の一くらいを占める記事です。
タイトルは「ドイツと日本の絡み合い」サブタイトルは「手塚治虫の平和主義的漫画叙事詩」。
本文では、まず物語の概略を説明、次いで漫画史上における手塚治虫の大きな役割を紹介しています。その中で「手塚治虫無しには、戦後における漫画の爆発的な発展は考えられない」という朝日新聞の記事を引用、これは決して大袈裟な表現ではないと評価。
手塚治虫の革新的な面として、スピード感のある画面、斬新なアングルと画面割りなどを挙げ、更に「少女漫画」という新たなジャンルを開拓したことも言及。欧米で既に知られる「アストロボーイ(鉄腕アトム)」については、物語の中で「科学技術の進歩とモラル」という問題が繰り返し登場することを指摘して「ある意味でアトムは広島の子供である」としています。
更に、手塚治虫は革新者であり、あらゆる社会階層、年齢層のため漫画を世に送り出したが、同時に生涯を通じてヒューマニストであり平和主義者であったと結んでいます(この最後の部分、黒澤明にもあてはまりそうです)。
「アドルフ」については、緻密な歴史的考証と重厚な内容を評価しながらも、秘密文書をめぐるプロットには、やや無理があると指摘。但し、2人の全く異なるアドルフの運命は説得力をもって描かれ、最後の「ショーダウン」には爆発的な迫力があるという評価です。
(私としては、当時の神戸の国際的な雰囲気も良く描き出されているのではないかと思います。)