ここで紹介する本は大好きな「おきにいり」ですが、テーマはぜんぜん違うので「その他」カテゴリーとなっています
湾岸戦争の頃、当時は足繫く通っていた書店で偶然見つけた本
T・E・ロレンスの「
知恵の七柱」ドイツ語版です。
湾岸戦争を理解する助けになるかと思って買いました。哲学的な本だろうと思って読んでみたら、第一次世界大戦の、
オスマントルコ領におけるゲリラ戦の記録でしたが、それだけではなく様々な思考がちりばめられています。
非常に参考になりました。と言うか更に考える手掛かりになりました。但し、私の場合、西洋史専攻で、歴史上の基本的出来事と年代を憶えているので分かりやすかったかも知れません。
当時は「気に入った本を色々な言語で読む」というのにも凝っていたので、英語(オリジナル)、フランス語、イタリア語も読んでみました。
既に内容を知っている本を他の言語で読むのは、いきなり読むより分かりやすいのです。
ペンギンブックスの英語版
Folio(
ガリマール)のフランス語版
イタリア語の単行本(装丁は、これが一番気に入りました)
ドイツ語で読んだときは非常に重厚な印象を受けたのですが、英語のオリジナルは軽やかでした。フランス語とイタリア語では、美学的側面が強調されているように思いましたが、歴史的事実についての誤訳も幾つか見つけました。
そうなるとアラビア語版があるかどうか気になりだしました。
そして何と、ダマスカスの本屋でアラビア語版を見つけたのです
ヨルダンの出版社のアラビア語版
以上が「まえおき」です
もちろん、アラビア語版だけをスラスラ読む自信はないので、英語版を横に勇んで読み始めたところ・・・
時々、英語の行とアラビア語の行が一致しないのです
更に調べて決定的な事実に行き当たりました。ヨルダンの君主である
ハーシム王家の人々が言及されている部分は全て削除されているのです。ハーシム王家の人々を分析している部分は大変面白いのに、それが全然ないのです。
がっかりして、先に読み進むのを止めてしまいました
民主主義というのは、国民と為政者の間の相互信頼を基盤とする複雑で壊れやすい体制です。
為政者が国民を信頼するということは、国民の健全な批判・判断能力を信頼することです。国王や、その一族について何が書いてあろうと、国民は、その内容を正しく評価できると安心しているなら、検閲による削除など不要なのです。
もちろん為政者も国民も、たった1人の個人ではなく、多くの人々や政党、様々な思想信条・宗教の違う人々の集合体ですから、相互信頼が築かれる過程も、それが維持される仕組みも複雑、ある意味では煩雑で手間のかかる長い過程です。民主主義には根気と粘り強さが必要です。
国民の判断能力を信頼している為政者は、国民の批判を真摯に受け止めます。
世界中どこにも模範的民主主義国家はありませんが、かなり良い状態と言えるのがスイスです。スイスは重要な事柄を国民投票で決めます。為政者の意向と反対の結果になった場合でも、これを受け入れて実行する柔軟な姿勢があります。