フィールドノート

連続した日々の一つ一つに明確な輪郭を与えるために

6月16日(月) 晴れ

2008-06-17 02:02:16 | Weblog
  今日も晴れた。梅雨の中休みではなくて、いきなり休みである。新入社員が勤めた途端に「僕、会社いくのやだ」と言い出すみたいなものである(違うか)。晴れてくれるのは嬉しいのだが、これでは梅雨前線の顔が立たないのではないか。梅雨入り宣言をしてしまった気象庁や、それをTVで伝えたお天気おじさんやおねんさんの立場がないのではないか。しかし、「今年の梅雨は空梅雨か?」と即断してはいけない。これから本格的な梅雨が始まって、それが7月下旬まで続くのである(たぶん)。

         

  午後、自転車に乗って郵便局へ。古本の代金を振り込む。その後、昼食をとりに梅屋敷通り商店街の喫茶店「琵琶湖」へ。歩いたらかなりの距離だが、自転車だと一漕ぎだ。木漏れ日の道を走る。名物のやきそば風スパゲッティを注文する。これを食べるのは二度目だが、スパゲティでソース焼きそばを作ったらこうなりますという一品。反対に(?)、焼きそばでナポリタンを作ったらどうなるのだろう。今度、自分でやってみるか。食後の珈琲を飲みながら、明後日までに事務所に提出する現代人間論系の来年度の開講科目のリストを作成する。営業で外回りをしているサラリーマンのような気分になる。

         

  「琵琶湖」を出て、ジムへ。これも歩くとかなりの距離だが、自転車なら一漕ぎだ。ウォーキング(時速6キロ)&ランニング(時速9キロ)を60分。距離にして7.5キロ。消費カロリーは630キロカロリー(焼肉弁当一個分)。

  ジムの後、いつものように「ルノアール」に行こうと思ったが、あまりにいいお天気なので、多摩川に行ってみることにした。やっぱり自転車なら一漕ぎである。自転車という乗り物は本当に素晴らしい。途中で、道を歩いていた東欧系の若い女性に声を掛けられる。道でも尋ねられるのかと思ったら、物売りだった。自分はウクライナから日本語を勉強にきた学生ですが、学費のたしにするために民芸品を売っているのですと言って、持っていた木箱を開けて見せた。中にはマトリョーシカ人形とか彼女が「幸福の玉子」と呼ぶトールペインのキーホルダーなどが入っていた。新手の物売りであることは明らかだが、先を急いでいるわけでもないので、少し話をする。こういう物を売りたいなら、道で声をかけるより、駅前とか人のたくさん集まるところに行ったほうがいいんじゃないのと言ってみたが、私の日本語がよくわからないのか(あるいはわからない素振りをしているのか)、首をかしげてニッコリしている。しかし、考えてみると、駅前や人通りの多い商店街でマッチ売りの少女のように物売りをするよりも、住宅街の道で歩いている人に(ときには自転車に乗っている人に!)声をかけたり、民家を一軒一軒回った方が何か買ってもらえる確率は高いであろう。彼らはそのあたりのことはちゃんとわかっている。私はポケットからカメラを取り出して、「モージナ・ファタグラフィーラヴァッチ?」(写真を撮っていいですか?)とロシア語で聞いてみた。彼女は目を丸くして、「モージナ、ノ・ナーダ・シトータ・クビーチ、カクーユニブチ・ミェーラチ・バジャールスタ」(いいですが、何か小さなものでいいので買ってからにしてください」と反射的にロシア語で答えた(NHKの「ロシア語会話」みたいだ)。彼女は目の前の日本人のおじさんがいきなりロシア語を話したのでびっくりしたようだった。どこでロシア語を勉強したのかと聞くので、昔、シベリアに抑留されていたときに覚えた。抑留は辛い経験だったが、いまではこれで飯を食っている。大学でロシア語とロシア文学を教えているんだと冗談を言ったら、本気にしてしまったようで(私を何歳だと思っているんだ?)、どこの大学ですか、もしかしてワセダですかと聞くので、そうだ、よくわかったねと答えたら、彼女はますます目を丸くして、ワセダ大学は日本で一番有名な大学ですと言った。そう言われると悪い気はしない。じゃあ、何か一つ買ってあげようと、彼女の一押しの「幸福の玉子」のキーホルダーを千円で購入。たぶんどこかで五百円くらいで売っている品ではなかろうか。でも、いいのだ。上乗せ分は、オスカー・ワイルドの「幸福の王子」になったつもりでさしあげることにした。

         

  多摩川は気持ちのいい風が吹いていた。一足早く、夏を迎えに来た感じだ。「夏休み」という言葉が危うく口から出そうになる。いけない、いけない。いまはまだ禁断の言葉だ。それにしても、いまの時期は、お天気さえよければ、とても日が長い。われわれは梅雨のせいでうっかり忘れているが、一年中で一番日が長いのは6月なのだ。サイクリングコースをゆっくりと走る。