フィールドノート

連続した日々の一つ一つに明確な輪郭を与えるために

4月30日(木) 晴れ

2009-05-01 09:29:12 | Weblog
  10時、起床。フィールドノートの更新をしてから、朝食兼昼食のクリームシチューライス。
  母に付き合って梅屋敷商店街の花屋に出かける(自転車を押していく)。玄関先に飾る花を10鉢ほど購入。自転車の前後の籠に入れて持ち帰る。暑い。途中のコンビニで冷たい飲み物を買い求め、店先で飲んでいたら、清水電気の店員さんが自転車で通りかかって人懐っこい笑顔で挨拶をされる。

         

  実は、花屋に行くついでにドラッグストアーでマスクを買って来てと妻に頼まれていたのだが、売り切れだった。オイルショックのときのトイレットペーパーの買占め騒ぎを思い出す。妻に電話をして、駅前や賑やかな商店街のドラッグストアーよりもウチの近所のドラッグストアーなんかの方がかえって在庫があるんじゃないかと進言する。妻はさっそくの近所のドラッグストアーに行って、ついいましがた入荷したばかりのマスク4箱(1箱60枚)を購入してきた。赤と青の箱があって、赤が「女性・子ども用」、青が「大人用」となっている。大きさが違うらしい。しかし、女性でも顔や口の大きい人はたくさんいると思うのだが・・・

         

  3時を回った頃、散歩に出る。「増田屋」でせいろを一枚食べてから、武蔵新田の古本屋「つぼ書店」に行き、棚にあった池波正太郎の「剣客商売」を全部(11冊)購入。一冊250円で締めて2750円のところ50円おまけしてくれた。昨日、シリーズ第一巻を挨拶代わりに購入したのだが、読んでみると、これが非常に面白い。それで棚に残っていた分を全部購入したというわけ。文庫本でも購入できるのだが、文庫本だと挿絵(中一弥・画)がカットされている。しかし、挿絵というのはとくに時代ものの場合、重要な役目を果たしていると思う。これがあると物語の世界にすっと入っていけるのだ。

         
             シリーズ第一作の「女武芸者」の書き出しと挿絵

  新田神社のベンチで「剣の誓約」を読む。「剣客商売」の魅力は、第一に、秋山小兵衛・大治郎親子の剣客としての生き方を通して「男の作法」を学べること。第二に、食事の場面の描写が巧みであること。第三に、決闘場面の緊迫感。第四に、お色気場面もちゃんと(?)盛り込まれていること。第五に、江戸の社会や文化や地理について学べること。試しに「剣の誓約」の冒頭を引用しておこう。秋山大治郎の夕食の場面である。

  「うまい」
   と、秋山大治郎はつぶやいた。
   ひとりごと、なのである。
   それにしても、めずらしいことといえよう。
  浅草の外れ。真崎稲荷明神社に近い一軒家の小さな道場に独り住む大治郎は、近所の百姓の女房が夕食の仕度をしてくれ、我が家へ帰ってしまうと、あとは黙然と夕食を終え、読書にふけるか、または灯を消して端座し、いつまでもいつまでも瞑想にふけって倦むことを知らぬ。
  だがしかし、これまでについぞ〔ひとりごと〕など、もらしたことのない彼であった。
  〔ひとりごと〕は、人間の孤独が、
  (おのずから声となって、発せられるもの)
  だという。それなら大治郎は、このような明け暮れをくり返していて、いささかもさびしいおもいをしていないことになる。
  それがおもわず、百姓の女房の味噌汁に舌つづみをうち「うまい」と声にのぼせたのは、よほどうかまったにちがいない。
  昨年の秋から、大治郎は麦飯に根深汁のみの食事で暮らしつづけてきたのだが、今夜は、味噌汁にねぎのかわりに田螺(たにし)が入っていた。
  この蝸牛(かたつむり)によく似た淡水螺貝は、水田や池・沼などに産し、春田の霜が解けるころから、いくらでも採れる。
  よく肥った田螺貝を水につけて泥を吐かせ、味噌煮や木の芽和えにしてもよいが、味噌汁の実にすると、
  「いやもう、おれは蜆汁よりもうまいとおもうな」
  と、これは大治郎の父・秋山小兵衛のことばである。
  おもいがけなく、田螺汁が出たのは、唖の女房が、百姓の夫と共に採ってきた田螺を大治郎に食べさせたかったのであろう。
  あまりにも長い間、根深汁ばかりの毎日だっただけに、さすがの秋山大治郎も、田螺汁に嘆声を発してしまったことになる。
  「うまい」
  もう一度、大治郎はいい、汁と飯を交互に口へ入れはじめた。この安永七年で二十五歳になった彼の、彫りのふかい若々しい面上(おもて)に、食物を摂る動物の幸福感がみなぎっている。(52-53頁) 

         

         

         

  武蔵新田の駅に戻る途中にある「トリオ」という喫茶店で珈琲を飲みながら、「芸者変転」を読む。老婦人が一人でやっている小さな店で、珈琲一杯250円である。確か昨日は閉まっていた。メニューは数種類しかなく、唯一のフードメニューであるホットドッグを注文したら、今日はパンがなくなってしまいました、ごめんなさい、とのこと。

         

  自宅に戻ってから、購入した本を改めてチェックしてみて、驚いた。11冊中、だぶっているのが3組もある。「狂乱」「暗殺者」「十番斬り」がそれぞれ2冊ずつ。しまった、私としたことが、全部違う巻だと早合点して購入してしまったのだ。そもそも全何巻が知らなかったのだが、ネットで調べてみたら、全16巻とのこと。昨日購入した第1巻と、今日購入した実質8巻、合わせて9巻で残りは7巻か・・・。端本で集めるのは大変そうだなと思っていたら、『剣客商売全集』全9冊(付録として今昔地図が1冊)の愛蔵版が「日本の古本屋」に横浜の小山書店から出品されていた。価格は16800円。ハードカバーでじっくり味わうのも
  「悪くない」
  ように思えたので、購入することにした。