フィールドノート

連続した日々の一つ一つに明確な輪郭を与えるために

3月16日(火) 薄曇り

2010-03-17 21:06:38 | Weblog

  8時、起床。カレー、トースト、冷麦茶の朝食。フィールドノートの更新。今日は春爛漫の陽気だ。金沢の名曲喫茶「はるてぃーた」で偶然耳にしたアンネ=ゾフィー・ムターとイギリス室内管弦楽団によるバッハのヴァイオリン協奏曲のCD(中古)をアマゾンで捜して注文する。そのとき、ムターのことをネットで調べいて、彼女の日本での公演が4月24日にサントリーホールであることを知る。しかも3つの演目のうちの一つが、「ぱるてぃーた」で聞いたヴァオイリン協奏曲イ短調ではないか。これも何かの縁だと思い、電話でチケットを予約する。
  10時頃、自宅の築10年目の点検チーム(総勢4名)が自動車3台でやってくる。それぞれの担当分野があるようで、土台、梁、壁、屋根、ベランダ、ドアやサッシを手分けして点検する。ドアが専門の人に猫がドアを開ける件を相談したら、新しく鍵をつけるよりも、いまのL字の取っ手を水平ではなく、垂直に付け直せば猫がぶら下がれなくなるのではないか、その作業はいま無料でしますよと言われる。そんなことが簡単にできるのか。さっそく試しに書斎のドアノブをそうしてもらう。なるほど、これはコロンブスの卵だ。リビングのドアノブも同様にやってもらう。この裏技のお陰で、新しい施錠の取り付け費用1万9千円を節約することができた。

  点検作業終了後、主任の人から点検結果の説明を受ける。人間ドックの結果を知らされるときみたいでちょっと緊張する。とくに大きな問題はないとのこと。で、話題は10年の保証期間がこの8月で切れるので、ここで壁の塗りかえ等のメンテナンスをして新たに10年保証の手続きに入るかどうかという点に移る。3階建ての住宅ゆえ、足場の設置や、壁の塗り換えにはかなりの費用がかかる。詳しい見積もりは後日お持ちしますが、概算で300万円ほどかかるとお考えくださいとのこと。300万円ね。贅沢をしなければ、男一人が1年間きままな旅を続けられるだけの金額だ。
   午後、床屋へ行く。ところが店の前まで行ってみると、本日休業の貼紙がしてある。来週は月曜(祝日)も営業するから今週は月・火の連休ということのようだ。髭は床屋さんで剃ってもらうつもりだったので、朝の髭剃りはしていない。無精髭のまま散歩に移行する。
  「シャノアール」でアイスコーヒー。今日はアイスコーヒーを注文するお客さんが多いですとウェイトレスさんが言っていた。A4のノート(方眼)を開いて、「一人旅の楽しみ方」というテーマでマインドマップを描いてみる。旅行から戻った直後だから反省点を踏まえながら実践的に描く。折を見てちゃんとした文章にまとめよう。どのような経験を文章にする場合でもそうだけれど、できるだけ間を置かないで、こうした仕込みの作業をしておけば、時間が経ってから本格的に文章化をするときまで、経験の鮮度を保つことができる。

  「シャノアール」を出て、駅前の商店街を歩いていたら、こんな光景に出会った。近所の保育園のお散歩タイムのようだ。道行く人たちの注目を集めていた。なるほど、こうすれば、少ない数の保母さんでたくさんの子どもを安全に散歩させることができる。でも、なんだか、ワゴンの中の子どもたちが市場に運ばれる子牛たちのように見えなくもない。どこからか「ドナドナ」のメロディーが聞こえて来そうだ。

  「ムッシュ・ノンノン」の前を通ると今日はオープンしていた。このところずっとシャッターが降りていて、体調がすぐれないためしばらく休みますという貼紙がしてあったので、気になっていたのだ(以前にもそういうことがあった)。「ムッシュ・ノンノン」は行きつけの店というわけではないが、ほっとする。店に入ってみると客は私だけで、ココアを注文して、マスターとおしゃべりをする。回復されたといっても健康状態は必ずしも万全ではないようで、でも、笑いながら、このまま閉店していまうのはくやしいからと言っておられた。「ムッシュ・ノンノン」の開業は1970年代半ば。世の中が大量生産社会から消費社会へと移行しつつあった頃で、喫茶店は活況を呈していた。その頃、大学生だった私も授業と授業の間の空き時間を「ブルボン」や「オリエント」や「早稲田茶房」といった喫茶店(すべていまはもうない)で過ごしたものである。現在の喫茶店を支えているのは当時若者だった世代で、最近の若者は喫茶店をあまり利用しなくなった。コンビニ弁当やカップ麺をベンチで食べたりしている。喫茶店に来る客も、不況のせいだろう、スパゲティなどのフード類だけ注文して、飲み物は注文しない人が増えたという。へぇ、せちがらくなったものである。喫茶店文化=珈琲文化は「豊かな時代」に咲いた徒花だったのだろうか。

  フランス人のバカンスが3週間なのは、最初の1週間で日常からの離脱をはかり、真ん中の1週間で休暇を謳歌し、最後の1週間で日常に復帰する準備をするためだ、という話をどこかで読んだことがある。私は5泊6日の金沢旅行を心から楽しんだが、日常からの離脱は東京から金沢までの列車の中の4時間で済ませた。しかし、日常への復帰は金沢から東京までの列車の中の4時間では無理である。今日もまだ旅行気分が抜けていない。蒲田の街を旅行者のような気持ちで歩いている。