それから兄と自分は小学校を転校したので彼とは共有時間がなくなり、近所に住んでいながらほとんど会うことはなくなった。その後、音信不通の状態が1~2年ほど続いたろうか、ある日突然彼の訃報を聞かされた。昭和30年代の終わりの頃であろう、大分昔のことなので死因ははっきり聞いていない。事故とも病気ともなんとも自分には聞かされなかった。母に連れられて彼の家に行き微笑んでいる彼の遺影に焼香した。自分の生まれて初めての焼香という経験である。もちろん悲しかった。しかし当時、彼とはしばらく会っていなかったせいであろうか、それは不思議とどっと湧き出してくるような悲しい感情ではなかった。むしろ「なんでこんなにあっけなく逝去するのか」という空虚感のほうが強かったと記憶している。もちろん「簡単に」逝ったのかどうかは音信普通だったので知る由もない。子供心の思考背景は複雑である。あの時感じた「空虚感」は今でも謎のままなのである。