患者さんを診察せずに家族の言葉だけで状況を判断し指示を出すのはスーパーマンでもなければできるわけがない。自分が一番苦手とするものである(誰でもそうかも?)。ということで診てみなければ何ともいえない。さて、自分は2.を選択した。患者さんは「息を吸うのが苦しい」とはっきり言っている。吸気性の呼吸困難でピンと来るのはアナフィラキシーによる喉頭浮腫である。これは危険である。低酸素血症があれば身体を動かしただけで心停止、呼吸停止につながるので危ない。だから喉頭浮腫の場合は1.の選択が正しい。しかし電話の段階で「独歩できる」「会話は正常」という話だったのでまず呼吸困難は強くはなく、また低酸素血症も存在しないと判断した。それでなるべく負荷をかけずに診療所までくるよう指示したのである。でもここまでちゃんとたどり着くまでは内心ヒヤヒヤものであった・・・。
午前中外来に来た18歳の風邪の患者さんであるが、帰宅し処方した風邪薬と抗菌薬を服用して約5時間後に呼吸苦を訴えた。患者さんには小児喘息の既往があるが、すでに十数年以上加療なしで発作は出ていない。家人からの電話では「息を吸うのが苦しいといっている。咳、鼻水はなく熱は36.8℃で意識はしっかりして会話は正常、独歩可能」だそうである。電話は母親からのものであり本人は電話口にはいない。直接の様子は不明なので判断に窮する。さて今後どうしたらよいかという母親の電話であるが、まさに目隠しされて目の前のカードを言い当てるようなものである。このような電話が一番困るのである。電話再診料は特に高くしてもらわないとやってられない。選択肢は、1.安静にして救急車を呼び救急病院へ行くよう指示する 2.診療所まで車でこさせる 3.そのまま自宅で様子を見る さて、どれが適当か?
昔、交通事故の若者を診察したことがある。診察室に入ってくるなり椅子にドカッとすわり、そして黙ったままふてくされている。診察が進まないので「どうされました? 車にぶつかったんですか?」と聞いたら、「ぶつかったんじゃねーの! ぶ・つ・け・ら・れ・た・の!!」と強い口調で話しだした。ぶつけられたのか、あるいは自分が車道に飛び出して車にぶつかったのかこっちのとってはどうでもいいことである。医療機関で悪態つくのは得策ではない。いずれにせよ本人は「被害者」のつもりで来院しているようだ。このような場合は、おそらく今後あの検査をしろ、この治療をしろといろいろと医療側に注文することが多くなる。しかも病院側は事故とは無関係なのだが、患者さんはこちらに対して不思議と「上から目線」の態度になるのだ。自分で転倒した傷と交通事故の傷が同じ程度であっても、交通事故の場合は病院での態度が少し大きめになることがよく経験されている。しかも前述のように患者さんの正当性の主張に耳を傾けてあげるフリをしなければならない。また後からは警察や自賠責の書類の山を処理しなければならないのでとにかくこちらの頭が痛くなるのだ・・・。嗚呼・・。
自賠責の診断書も厄介である。記入欄のところに「事故の状況」をかかせるところがある。これはまったくお門違いである。診断書とは医学的に診断した内容を医師が保証するという重いものである。「事故の状況」などは当然目撃などしていないし、患者さんからの、時にバイアスのかかった話を聞くわけであり、人から聞いた話の内容を医師が保証するというのはどう考えても筋違いなのである。少なくとも保険会社が事故の状況を尋ねる相手は医療側にではなく警察にしてほしい。だから自賠責の診断書のここの欄は今まで書いたことは1回もない。ところが不思議と「書いて下さい」と書類を突っ返されたことも1度もないので、なんだ、最初から書かなくてもいいんだと納得している。ところで今回の事故について自分は目撃してしまった。ということはもし自賠責の診断書を要求されたらどうなるのか? まあでもこの2人はそのまま現場から別れ離れになり警察も入っていないし、しかも自転車事故なので自賠責云々にもならないだろう。怪我がないのでホッとしたという理由は、他ならぬ面倒に巻き込まれたくないからなのである。
「・・・して、こうなのに・・・あの糞婆あが突っ込んできて・・・それにもかかわらず、こっちが悪いと言い出して・・・」というお約束の事故説明が長いのである。まずは患者さんの自己正当性の主張を聞いてあげなければならない。これは苦痛である。こちらとしてはどちらが良くても悪くてもそんなのどうでもいいのである。間違っても「ほぉ~それはひどいことされましたね」などと患者さんの肩を持ってはいけない。もし万が一、その事故の相手も受診したなら同じ自己正当性の主張を延々とするはずなので、こちらの矛盾した発言は自分の立場が危うくなる。あくまで医療側は中立を守るべきなのであるの。ところが患者さんは医者が自分の主張に同意してくれることを暗に期待しているようなのだ。だから事故の状況はなるべく聞きたくはないが、医者は事故状況から受傷形態や受傷程度を予測するので状況を聞かざるを得ない。苦痛なのである。
これは両者とも悪いのだ。しかしお互い自分が正しいと思っているからやっかいなのである。売り言葉に買い言葉、端からは聞くに堪えない罵詈雑言の応酬である。聞くに堪えないのだが、自分は当事者ではないのでドラマをみている観客のようなつもりで傍観していた。ある意味これまた面白いものである。さてしばらく楽しんでいたが、中年女性の「この糞婆あ!」という言葉を最後に自然閉会となった。あれ、もう終わりですか? しかしどっちも悪いのによくまあお互い自分のことを棚にあげて人のせいにできるんだなと感心することしきりであった。まあとにかく怪我がなくてよかった。怪我がないのが一番である。もし怪我でもされたら、クリニックの近くなので、うちに受診する可能性がある。このような「自分は悪くない。被害者である」という患者さんの傷は通常よりも痛くなりやすいので厄介なのである。また診察室に座るなり延々と事故の説明が長い。これがまたとても冗長で面倒なのである。
家の近くの見通しの悪い四つ角を歩いていたら、自転車同士の衝突事故を目撃した。かたや中年女性、もう片方は高齢女性であった。どちらも見通しの悪い交差点に徐行しないで進入し、出会いがしらの衝突である。よくまあ二人とも見通しの悪い交差点にためらいもなく突入できるもんだなとその「勇気」にゾッとした。もんどりをうって両者は転倒したが、すぐに起き上がり怪我はないようである。見通しの悪い交差点に進入する場合は徐行するか、一旦停止をして安全確認をするのが常識である。したがってこれはどちらも悪く自業自得である。ところが高齢女性が口火をきった。「あ~ぁ、いたたた、ったく、もう・・・なんてひどい運転するんだろーねー」と中年女性を睨んだ。すると中年女性は「何言ってんの? あんたが悪いんじゃない!」ときり返した。
さて前回、夏日から1ヶ月もしないうちに真冬の気温に突入したと書きましたが、なんの昨日はまた25℃という夏日になってしまいました。ニュースで言っていましたが、またどこかのマラソン大会では熱中症で具合の悪くなった人がでたようです。このような気温の変動が激しいと風邪ばかりではなく、自律神経の異常をきたす人も増えるのではないかと思われます。人間はそれほど外気温の急激な変動には調節力は高くはないとおもわれますので、こまめの衣服での調整をお願いいたします。あと10日で師走とは思えないような気候です。秋に小春日和というのは聞いたことはありますが、冬に小夏日和という言葉は聞いたことはありません。まさか真冬に猛暑日和なんてないでしょうね?
ついこの間まで夏の暑さに辟易していたと思っていたら、わずか1ヶ月で真冬に突入したような日本列島の気候です。東京でも1ヶ月前の10月16日の日曜日は、外出したので覚えていますが、30℃の真夏日でした。この日はニュースで聞きましたがマラソン大会などで複数人の熱中症患者が発生したようです。確かに自分も外出時は半袖でしたが大汗をかきました。もう少し秋の風情を長く感じたいものですがすでに鍋物がありがたい季節になってしまいました。さてこのような気温の変化は体調を崩します。外来も風邪の患者さんで一杯です。くれぐれも十分な水分と嗽、そしてマスクをつけて気道の保湿を考慮ください。尚、咳の出る患者さんはクリニック入り口にマスクを設置してありますので、つけてからお入りください。待合室での咳は他の患者さんへの感染の原因になる可能性があります。ご協力お願いいたします。
このような小外科の患者さんは最近ボチボチ増えてきたようです。開業当初は数ヶ月に1~2人くらいでしたが、きっと口コミなんでしょう。この間も、大きな炎症性アテロームの患者さんが「噴火した」と来ました。みると火山のように隆起して赤く腫れたアテローム(粉瘤)のてっぺんから膿がドロドロと流れています。局所麻酔をしてから皮膚を切開し圧迫すると中から膿や粥状物が出てきました。再発しないように創腔内に張り付いついているカプセルもきちんと掻き出してから創腔内に消毒ガーゼをつめてとりあえず終了しました。麻酔しているとはいえ、とても患者さんに痛い思いをさせてしまいました。感染がひどいので傷口は縫合しないで開放のままにしています。このようになってからの治療開始では治りも遅いです。さて、傷口にガーゼをつめているので今後毎日のガーゼ交換が痛んだなぁ、これが・・・。
この間は、糖尿病の足指潰瘍の患者さんがこられました。これはなかなか治りにくいです。特に清潔に気を使い毎日きれいにシャワー浴とブラッシングが必要になります。壊死組織は切除して創面を常に新鮮化してあげなくてはなりません。死んだ組織を切除するのですが、神経も死んでいるのでこれは痛くはありません。ところが切除範囲は切って出血し痛いところまで切除しないと創部の新鮮化になりませんので混んでいる外来で時間をかけてこれをやるのはやっかいなのです。昔、救命センター時代の大昔の話ですが、糖尿病の足指潰瘍が進行し下腿ガス壊疽になった患者さんを何人も診ました。「足が腐ってものすごい臭気」であると表現したらいいのでしょうか。とにかく何人も足を切断しました。早期の段階できちんと糖尿もコントロールしないと・・・。
最近、エステサロンのようなところでフットケアをしてくれるようです。あのようなところではタコは取ってくれないのでしょうか? おそらく「医療行為」ということでやってくれないかもしれません。でもタコを削ることは医療行為なんでしょうか? 「取る」のは医療行為でも「削る」なら医療行為ではないとして、タコ削りはやってくれるかもしれません。もしやってくれるならばお願いしたいところです。こちらとしてはもちろんやってもいいのですが、煩雑な外来の時間帯ではおちついて時間をかけてできません。前述のように医療機関で行うとタダみたいな点数で、おそらくエステサロンのほうがはるかに料金は高いと思います。まあ、それにしても足裏マッサージを含めて足の指や足底をいじってもらうのは気持ちがいいですよね。自分も毎日でも足裏マッサージは行きたいですが・・。
足の裏のタコでも時々患者さんがこられます。歩くときにあたって痛いからとってほしいと来院されます。たとえば外反母趾で変形した指の患者さんでは靴に指が常時当たっており、このようなタコはできやすいのです。治療は削るしかないのですが、出血する少し手前まで何度も薄く削っていきます。この作業も手間と集中力が必要とされますが、その割りに処置点数はあまり高くはなく、しかも何度やっても1人月1回までの請求(2回目以降はすべてタダ)と限定されています。また同時に2部位以上やっても同じ月なら1回限りの請求になります。「先生、タコが3箇所あるんだけど、全部とってよー」と言われると(う~ん、1回分しか請求できないんだけどなぁ~)と思いつつも「とげ抜き医者」の使命として削るのです。これじゃ、やはり小外科を扱う開業医は減っていくはずだぁー。
先日 指にとげを刺した患者さんがきました。時々とげを指した患者さんは来るのですが、こちらとしてはとげや異物は大きいほうがとりやすいです。ところが異物が大きいと自分でとってしまうことが多く、あまり医療機関までは来ないようです。医療機関に来るのは小さいトゲものが多いようです。なのでこれがまた小さいととりにくいこと・・・。他に患者さんが待合室で待っているときの異物摘出の処置は時間ばかりかかって、こちらもイライラします。異物が刺入された方向と深さにきちんとピンセットの先端がすすまないと異物まで到達できません。先端がわずか0.5mmずれても摘まめません。こんなに大変なのに、この処置の請求点数は項目がないのです。つまり一般的な傷の消毒のときに請求する「創傷処置」に準じてしまいほとんどタダみたいな値段になります。多くの開業医がとげ抜きなどの小外科を扱わなくなったのは頷けます。でもまあ、患者さんがきたら「とげ抜き地蔵」さんにおまいりに行けともいえないので・・・。
それにしても開業4年経過したが、見逃してはいけない疾患や専門的治療が必要になるタイミングの判断は難しい。とりあえず今まで何例かは遅滞なく専門施設に送ることができたが、今後も気が抜けない。毎日の外来患者さんの中からきちんとより分けて診断し、重症度も見極めなければならないのである。大げさだが砂浜で米粒を拾い上げるようなものである。見落としたら大変である。前述の高齢の患者さんも普通なら解熱剤だけで帰宅させてしまうところである。ところが診察中「何だか臭った」のである。別に臭かったわけではなく、「どうも変な予感」がしたのである。型のごとく教科書的な判断をしていたのでは見逃すところであった。医学とは理屈ではない、この、へんな第六感というのが重要なのである。