その高齢ご婦人としばし会話をしていて気がついたが、今話した会話内容をすぐに忘れてしまうらしく何度も同じ話題に戻り、堂々巡りになってしまう。85歳という年齢を考慮すると、どうも、もともと認知症があるのかもしれぬ。それで一人暮らしはさぞ大変だろう。しかしこのように「同じ質問を繰り返す」のは頭部外傷でもおこりうる。本人「頭は打っていない」といって、どうしても診察させてくれない。この「元婦長(たぶん)」にまた怒られそうなので断念した。でも何となくそれが悔やまれる。タクシーの拾える大通りまで一緒に歩いて連れて行ったが、最後まで文句をブツブツ言われてしまった。帰宅後、急変がなければいいが。まあ「あのクリニックのヘボ医者は対応が悪い」などと元気に吹聴されるほうがまだ安心である(それもイヤだけど)。
せんだって昼休みの時間帯に高齢(85歳 独居)のご婦人が転んで眼の上にケガをしたと飛び込んできた。傷は浅いものの東大病院からどうもバイアスピリン等が処方されており再出血の危険もあるため縫合をすすめた。ところが「私は公立病院でずっと定年まで看護師をやっていたから何でも知っている」「創を縫うのは1針ならばいいが2針はダメだ」「傷跡が残るのはみっともない」とか言われるので「それではこのままガーゼで抑えて出血に注意してください。明日消毒に来てください」と申したら「ここまで通院するのは遠くて億劫だ」とおっしゃる。「それでは近場の病院に通院・処置してもらってください」と言ったら、「患者を邪険にしている。最近の医者は問題が多い」と文句をいわれた。「ではご希望に沿うようにしますが、どうしたらよいでしょうか?」と伺ったら「早く家で眼の周りを冷やしたい」というので、では「家に帰りましょう」といったら「追い出す気か」といわれた。特に縫合を承諾されたわけでもなく、かといって消毒のみでお帰りになられる様子もなく、しばしお見合い状態で本当に困ってしまった。
まあとにかく情報伝達というか意思疎通というのは難しい。それぞれの解釈の違いに基づくものから、会話の中に主語や目的語がなかったために起こる間違いもある。あるいは、最近では医学用語を平易に説明するので少なくはなったが、患者さんにとっては意味不明の医学単語の羅列も混乱の原因であろう。さてではこれはどのようなパターンの誤解だろうか? 「級友にいたずらばかりして皆を困らせる小学生をつかまえて、そのわけを聞いたところ「だって担任の先生は人の嫌がることを自らすすんで行いましょうといつもいってるじゃないですか」と。
大昔、若かりしころ、まあ自分もこのような患者さんには、きちんと外来時間にこられるようご説明申し上げたこともある。ある患者さんなどは「そうは言いますが、外来時間にいくと数時間待たされるので今来るんですよ」と本音をいわれることも。血気盛ん?なころは30分ほど時間をかけて救急医療と外来診療の違いを説明申し上げたのだが、はっと気がついた。これで納得して帰る患者さんは誰もいない。しかもこんな患者さんが数人立て続けにくると自分の睡眠時間も大幅に削ることになり、とても翌日の仕事の体力がもたない。そのためしばらくして「あ わかりました~じゃぁ~お薬だしときますね」と処方箋をかくだけで数分で終わり、またすぐベッドにもどれることに気がついたのである。翌朝からまた通常業務がはじまるのだから体力温存である。
「何かあったらいつ来てもいいですよ」という外来主治医の言葉は、「自分の外来日は〇曜日であるが、自分の外来日以外でもいつ来てもいいですよ」という意味である。つまり主治医は「外来は何曜日にきてもよい」でもと言う意味の「いつでも」だったろう。ところが「いつでも」ということを「24時間いつでも」というふうに受け取られたわけである。夜中(というか明け方)の当直で、スワッ一大事か?と駆けつけてみても、「明日は忙しくて薬をとりにこられないので今きた」ということで、まあ処方箋1枚かけば済むのであるからこちらとしては気が楽?である・・・。
大昔、地方病院の救急部に出張中、夜中というか朝方と言うか深夜3時~5時に時々救急外来に来る特定の患者さんたちがいるのに気がついた。もちろんそんな時間帯にこなければならない緊急性の高い状態ではない。これら患者さんたちに共通することは、その病院の内科の某先生のところに通院していることである。話を聞くと異口同音に「あの先生からは、何かあったら「いつでも」きてください」といわれているとのことだそうだ。だから患者さんたちは「いつ」きてもいいと許可されているのだから、自分の好きな時に来院しているのだそうである。ようやく自分が外来をやるようになって理解できた。しかしながら、これは「いつでも」の誤解釈である。情報伝達は難しい・・・。
月1回程度、定期的に慢性疾患を診ている患者さんも多い。月1回の診療なので途中でもし風邪ひき、はらいたなどで具合が悪くなったことを想定して、帰り際には必ず「何かあったらいつでもいいから、また来てくださいね」と言っている。この言葉はいわば「具合悪い時はうちの診療に期待してどうぞ任せて下さいね」という、まあ宣伝文句であったり、あるいは「別れ際の定型句」みたいな位置づけのものだと思っている。もちろん虚偽の発言ではない。来院されればきちんと診療する。ところが、ふっと大昔の地方病院出張中のことを思い出した。
情報伝達の難しさというよりも、ここまでくると確信犯的になるのですが・・。昔、酒どころの地方病院に勤務しましたが、肝臓の悪い患者さんが、お酒を飲んでは吐血してしばしばかつぎ込まれてきました。カルテには「飲酒禁止!」と朱書きでいたるところに記載があります。ある時、やはり飲酒して吐血し救急車で運ばれてきました。私が「またお酒を飲まれてきたのですか?」と聞くと、熟した柿のような口臭をさせながら「あ 飲んでねぇ~よ」との一点張り。最後には「ここいらでは「酒飲む」というのは朝から飲むことだ。俺は今日は午後から飲んだから「飲んだ」ことにはなんねぇ~よ」と・・・。今この患者さんはどうしているでしょうか? やはりきちんと「お酒は飲んでいない」のでしょうか?
高血圧で塩分制限が必要な患者さんに、塩分制限の必要性をお話しました。「わかりました」と。普段の食事は味付けがかなり濃い目だそうなので、とにかく味付けは薄めにするよう指示致しました。そしてしばらくしてから様子をお聞きすると「味噌汁はかなり薄い味付けにしています。きちんと塩分制限は守っていますよ」と・・。これなら心配ないかなと思いきや、「味付けが薄く物足りないので、味噌汁はお代りするようにしています。ええ、でも味付けは薄いですから」と・・・。やはり「わかりました」という言葉は曲者である。
ようやく、インフルエンザはピークを越えてきたようですが、いまだに時々検査で陽性にでる患者さんもいらっしゃいます。とりあえず発症のピークも過ぎてきたところなので、手持ちのインフルエンザ予防ワクチンはすべて業者に返却いたしました。したがいまして今後、今シーズンで予防接種を希望される方がこられても対応できませんのでお含み置きください。もちろんインフルエンザ迅速診断キットについてはまだまだありますので、診断・治療についてはご心配なく。
胃の切除術を受けた患者さんで、胃が小さくなり一度に食べきれない状態が続きました。今までどおりの量を食べると吐いてしまうとの事。こちらからは「まだ十分な消化能力がありませんから食事を分けて食べるようにして下さい」と指示を出しました。しかし、しばらくして「先生、分けて食べてますがやはり吐いてしまうのです」と。よくよく話を聞くと、一皿に盛られたおかずを皿2枚に「盛り分けて」一度に食べているそうである。そう言われれば確かに食事を「分けて」食べている。私は唖然としました。でもこれは本当にあった話です。
情報伝達とは極めて難しいものだといつも思う。特に言語による意志伝達が一番難しい。患者さんとの会話で一番信用できないのは、患者さんが「ハイ、わかりました」という言葉であろう。実際は理解できていなくても遠慮して「分かりました」ということも多いようです。かといって、くどいくらいに説明すると、「もう、分かっているのにうるさいなあ」という顔をされることもあります。相手の反応を見ながらの会話はなかなか難しいですね。まあ説明不足で、とんだ療養上の誤解をされてしまったことがあります・・・。それは次回。
まあ、まだ風邪が猛威をふるっているとはいえ、少しずつその割合が花粉症に置き換わってきたのも事実である。花粉症をお持ちの患者さんのたいていは、以前どこかでアレルゲンの検査をしてきており「あ 自分はスギとヒノキとブタクサと・・・」と自分のアレルゲンをご存知である。お近くにお住まいの患者さんでネコアレルギーの方がいらっしゃるが、ペットにネコを飼われていらっしゃるようだ。まあこればっかりは家族の一員なのでしょうがない。動物アレルギーは季節性がないのでどう付き合うかが難しいと思いますが。
インフルエンザがまだ下火になっていないにもかかわらず、すでに花粉が少しずつ飛んでいるとのテレビの情報。鼻水やクシャミで風邪などの呼吸器感染症とかぶって花粉症の人はつらそうである。いったいどこまでが風邪でどこからが花粉症なのか区別がつかないので困ってしまう。まあ、どっちにしろ投薬内容はほとんど一緒であるので、さほど治療には困らないが、時々この時期は患者さんから、「一体私は、今風邪なんですか? それとも花粉症なんですか? どちらでしょう?」と質問されて「う~ん・・・」と困ってしまうのである。
つい2週間前ごろ、新型ワクチンが作られた話が新聞、テレビで報道された。このインフルエンザが猛威をふるっている中、「何にでも効く、新型インフルエンザにも効く」などと、声高に報道された。自分もテレビのニュースをみたが、どの番組でも「延々と」その効能を説くが、最後に一言だけ「実用化は数年後です」とだけ付け加えるのみだから、外来に来るインフルエンザの患者さんは「あの新型ワクチンお願いします」と言う人が何人かいた。数年後実用化の話をこのインフルエンザのピークの時にわざわざしないでほしい。