慌てて私もあとを追って父の部屋に行くとすでにベッドの上で服のまま横になっていました。声をかけるとすぐ目を開けて応答しますが、すぐに眠ってしまいます。血圧計も聴診器もありませんが、とりあえず脈を触れてみると、絶対性の脈の不整があり、「あぁ心房細動だなぁ」と思いました。また脈拍が110くらいあるので飲酒→脱水→脳貧血をおこしたかと考え、点滴か抗不整脈薬などが必要かと様子をみていたら、不整はあるもののほどなくして脈拍数は安定してきました。
倒れた父は数秒後には目を覚まし「はっ、俺は何をしているんだ? 倒れたのか?」といいつつ起き上がろうとしましたので、すこし横になっていたほうがいいと制しましたが「俺はなんでもないんだ。部屋に行くぞ!」と起き上がり、立ち上がった瞬間、また膝から崩れ落ちました。しかし数秒後にはまた目を覚まし、「何だ? 少し飲みすぎだな、いい部屋に行くぞ」とばかりに、ホテルマンが救急車よびましょうかという声を尻目に、キーをもらって一人でさっさと行ってしまった。
おそらくは随分昔話に花が咲いたこともあるでしょうし、「これが旨いんだ」といいながら眼前に好物のイカの肝焼きがあったことも酒がすすんだ要因でしょう。さてタクシーでホテルにかえりフロントでいざキーを受け取ろうとした時に、そのままスーッとうしろに倒れてしまったのでした。確かに膝から崩れ落ちましたので、いわゆる卒倒(失神、black out、syncope)でしょう。横にいた私は反射的に手で支えられませんでしたが、つい足が出て、床に頭をぶつける寸前に父の頭を私の足の甲で受け止めました。間一髪でしたがまあ行儀の悪いこと・・・。
http://players.music-eclub.com/?action=user_song_detail&song_id=218949
その後、父は故郷の盛岡で、母の兄(私の叔父)夫婦と夕食をすることになり、たまたま自分も何かの学会で盛岡にいましたので同席することになりました。最近余り飲まなくなった割には話もはずんでいたためか、随分父のピッチが早いような気がしました。でもまあ、自制内のつもりで飲んでいるのだろうと気にも留めませんでした。あるいは私が横に同席していたので「飲酒のタガ」が緩んでいたのかもしれません。しかしながら不安は的中しました。
その後、父の心電図は特に不整を呈することもなく、年1度の心電図のみでフォローしておりました。しかしながら、その時のエピソード以来、毎晩やっていた晩酌をほとんどしなくなったようでした。皆には「俺は何でもないんだ」と言っていたわりには、やはり大分気にしていたのかもしれません。たまに一緒に食事をする時も、ほとんど晩酌をしない私のほうがビールを飲んでいたような気がします。お酒よりも煙草の本数はまったく減りませんでした。こちらもあまり呼吸循環系にはよくないのは周知のことですが一向に意に介さなかったようです。
その後、父の心電図は特に不整を呈することもなく、年1度の心電図のみでフォローしておりました。しかしながら、その時のエピソード以来、毎晩やっていた晩酌をほとんどしなくなったようでした。皆には「俺は何でもないんだ」と言っていたわりには、やはり大分気にしていたのかもしれません。たまに一緒に食事をする時も、ほとんど晩酌をしない私のほうがビールを飲んでいたような気がします。お酒よりも煙草の本数はまったく減りませんでした。こちらもあまり呼吸循環系にはよくないのは周知のことですが一向に意に介さなかったようです。
平成2~3年ごろだったと思います。上野の大きな某中華料理店で、父は従業員と何かしら宴会をしていた時でした。しこたま酒を飲みトイレにいって排尿している最中、突然卒倒し倒れました。幸いほどなくして意識は戻ったらしいですが、日本医大の救命センターに搬送されました。当時、自分は他県の病院に派遣中で大学にはいませんでしたが、すぐにY先生(現主任教授)から連絡がありました。まあCTも問題なく心電図も軽い徐脈(脈が遅いこと)のみでしたので、おそらく「排尿時失神」(飲酒して急に排尿すると迷走神経反射を起こして脳貧血になる)であろうとのことでしたが、経過をみるため1泊入院させるとのことでした。しかしながら父は「俺はなんでもない。こんなところにいる必要はない。すぐ帰る」とかなり病棟でゴネたらしいです。病院に勤務していて一番やりにくいのは同業者(医者)が患者の時です。すみませんでした。
先代亡父の時代の患者さんから、待合室からの私の声を聞くと父の声にそっくりだと今でも時々いわれます。自分では余り意識はしていませんが、まあこれがDNAなのでしょうか? ところで最近、不整脈の患者さんも増えてきました。大学時代はずっと救命センター勤務でしたのでそれこそ致死性不整脈ばかり取り扱ってきましたが、しかし今では慢性的不整脈が主体です。不整脈と言えば父自身も生前、一時期不整脈に悩まされたことがありました。このブログは父をご存知の患者さんも多くお読みになっているので父のエピソードとして紹介いたします。
立ち止まるよりも、このまま走り抜けたほうが自分の「被害」は少なそうである。でも周囲の通行人の顔色は明らかに私を訝しげに見ていくのである。「違う、ボクじゃないってば!」と声に出したいがあのご婦人より気が弱い自分には声すらでないのである。ボクの背中にはあのご婦人の呪文のような語りかけと、周囲の人の視線がささって痛い。お願い!ボクはただのダイエット指向の肥満ランナーですからほっといて下さいね・・・。でも・・・こんどはジョギングコースを替えようかな・・・。ボクは何も悪くないのに・・・(泣)。
走りさろうとしている自分の背中に向かって、その高齢ご婦人が声をかけている場面だけを見た周囲の通行人は絶対変だと思うはずだ。「ジョギングしている男がご婦人にぶつかった、あるいはすれ違いざまにサイフを盗んだか何かで、その婦人が助けを求めている」とうつるに違いない。いずれにせよ私が悪者になっているのは間違いない。でも立ち止まったら最後、彼女の術中に嵌り彼女の「トーク地獄」に捕獲されて、きっと帰してくれないだろう。彼女が何を求めてジョギング中の私に話しかけてくるのか謎である。
その高齢婦人の私への?語りかけは魔法の呪文のように私の足を麻痺させてしまう。速度が遅くなりそうになるたび、私は自分の大腿を叩きながら筋肉を鼓舞させ、かろうじて横を通り過ぎた。しかし案の定、私の背中にめがけても魔法の呪文のような艦砲射撃が浴びせられ続けた。「あたしゃぁ・・心臓の手術・・・・死にそうになっ・・・・・で、膝が・・・・・・」 このまま射程距離から離れるには周囲の目が怖かった。誤解なきよう申し述べますが私は彼女と何の面識もありません。うちの外来にも来られておりません。また彼女は私が医者であることも知りません。なのに何故いつも私に・・・?
それでついに彼女の射程距離に入ったその瞬間、呼び止められた・・・「はいっ、ごくろーさん。頑張ってね・・」 私は「あっ、いやっ、ありがとうござ・・・」と言いかけたが、そんな言葉など聞きたくもないかのように「・・・あたしだって、1級の身障者なんだよっ、それなのにさっ、こんなに頑張ってさっ・・・・・」とまた延々と艦砲射撃が始まったのである。もちろん無視して通り過ぎればいいのである。しかしこの1級身障者と自称する高齢婦人よりも、遥かに気の弱い私は「蛇に睨まれた蛙」のようになってしまうのである。いかんここで走行速度を緩めたら敵艦に捕獲されてしまうのだ。
その高齢婦人の高射砲のような目はこちらに照準がぴたりと合っており、着弾射程距離に獲物(私)が入ってくるのを待ち構えているようだった。私は「いいや、あの時はあの時で今回は発射してこないだろう、うん、そうだこのまま何事もなくすれ違えられるんだ・・・」と口に中でつぶやきながら、ジョギングを続行した。でも頭の中では「でも発射されたら無視すればいいんだ」とか「目を合わせたら最後、石になってしまうので目をはずせ」とか、よくないことも入り混じって、このわずか数秒の間で思いがめぐったのだ。そしてついに射程距離に突入した・・。
昨日ジョギングしていたら前から以前見たような小太りの高齢ご婦人が、のそのそと(失礼!)歩いてきた。瞬間!「あっ!」と思い出した。あの方(「患者さんのニーズその1」(10/16)参照)だっ。さてこのまま「何ごともなく」すれ違えられるかと思ったら急に不安になり、道をかえるか、引き返そうか迷い始めた。しかしわき道はないし、すでに引き返すには遅く、相手の目線はこちらに照準があってすでにロックオンしている。そのまま吸い寄せられるように自分は彼女に近づいてしまった。そして果たせるかな・・・嗚呼!