吉田クリニック 院長のドタバタ日記

日頃の診療にまつわることや、お知らせ、そして世の中の出来事について思うところ書いています。診療日には毎日更新しています。

川崎市老人ホーム介護士事件雑感 その6

2016年02月29日 06時14分07秒 | 日記
 このように認知症の患者さんはちょっと処置をするにも大ごとなのである。
 自分は医師が行う処置の時のみの付き合いであったが、24時間このような認知症の患者さんのお世話をしていたらどうであろうか? 継続して患者さんから暴言、暴行を受けている場合もあると思われる(いわゆる「介護授受拒否」の状態)。 

 認知症患者さんに寄り添ったいつも優しいケア・・というのは理想である。しかしこれを供給するのは人間である。もちろん自分には24時間365日、継続して優しく認知症患者さんに寄り添うケアなんてものには自信がない。じぶんこそまだまだ修行不足なのであろう。

 特に今回の介護士の傷害致死事件と、昔自分が経験したエピソードとはなんら関連はない。もちろん容疑者を擁護するつもりもまったくない。弱者をベランダから突き落とすなどと言う行為は言語道断、介護云々の話とはまったく別次元の問題である。

 しかし介護の現場は体験した人でないと、その壮絶さは理解できないであろう。生半可なmotivationではとても長続きしない。崇高な理想論だけで太刀打ちできるようなものではない。

川崎市老人ホーム介護士事件雑感 その5

2016年02月27日 06時38分05秒 | 日記
 でも我慢したのは患者さんではなく私なのである。
 処置中ずっと患者さんにつねられたままであり爪は私の上腕の皮膚に食い込んだままなのである。
 でも私の上腕部をつねっている間は大人しくしていたのでそのままつねらせておいた。

 そして処置は終わったのであるが、患者さんの爪は私の皮膚を破って深く食い込んでいた。出血していた。その後は自分の消毒処置が残ったのである。もちろん痛かったが、自分の手には滅菌手袋をしていたので、抵抗することもできなかったのである。もちろん「やめてください」と何度もいったが高度の認知症の患者さんである。聞いてくれるわけがない。
 大げさであるが私は身を挺して患者処置を優先させたのである(自分で言うのもなんであるが)。

 処置中暴れる患者さんを抑制したり押さえつけたりすることも多い。時に家族から「虐待?」と誤解を受けることもある。でもこちら側がケガをしても「逆虐待」と言ってくれる人は誰もいない(笑)。

 今でも傷は残っているし、傷痕をみるたび当時のことを思い出す。何でこ~なるの?

川崎市老人ホーム介護士事件雑感 その4

2016年02月26日 05時31分53秒 | 日記
 でも処置を完遂させないと仕事が進まない。
 いくら「動かないでくださいね、ちょっと注射しますね」などとやさしく言っても静かに処置を受けてくれない。
 時に抑制帯から自分で手を抜いて、その手で殴られることもあった。あるいはせっかく消毒した術野に手を出され、滅菌操作が台無しになることもあった。こちらだって嫌がる高齢者の方に無理に処置をするのはつらい。

 ある時の処置である。やはり大暴れしそうな認知症の高齢者の方であった。中心静脈ラインの挿入に際し十分説明もした(もちろん理解はされていないのだけれど)。
 そして皮膚を消毒し滅菌操作で局所麻酔をしたところ、暴れ始めたのである。しばらくもがいていたが、この患者さんは抑制帯を外して自分の手を出した。「あ、殴られる」と思ったら、やにわに私の上腕部を爪でつねり始めたのである。あと少しで処置もおわりそうなので、猛烈に痛かったが、このまま私は我慢した。「もう少しで終わりですから、我慢してくださいねー」と声かけもした。

川崎市老人ホーム介護士事件雑感 その3

2016年02月25日 06時54分02秒 | 日記
 昔はすべて病院で看護師さんたちが看てきたのである。そして我々は食事のとれない(摂ろうとしない)高齢の患者さんに点滴や中心静脈栄養をするのである。食事を拒否する方に対して栄養をこちらから与えることの是非については人間の尊厳の問題もあるが、病院にいたらそのまま何もしないという選択肢はないのである。
 昔、自分が某病院に勤務していた頃の話である。高齢の認知症の患者さんが食事をしない、食べても自分で吐き出してしまうため、中心静脈栄養ラインを入れることにした。このラインは滅菌操作で行う。皮膚を消毒したり局所麻酔薬を注射したりしてラインの挿入をおこなうのである。ところが認知症の患者さんは大人しく言うことを聞いてくれない。注射針をさそうとすると暴れるのである。これを抑制帯で手の動きを抑えるのであるが体を動かしてしまうため微細な処置ができないのである。

川崎市老人ホーム介護士事件雑感 その2

2016年02月24日 06時10分24秒 | 日記
 病院は急性期病院へとシフトさせ、今までの慢性期疾患では赤字が出る様な点数配分にしたのである。そして当初は在宅医療やら在宅介護に手厚く点数をつけたのであるが、今年の点数改正では在宅関連も点数を厳しく削るようになってきたらしい。

 つまり医療の現場から在宅の現場へ患者を移行させてください、そちらの方を手厚くしますといって、しばらくしたら在宅医療の点数を削り始めるのである。結局、梯子をかけて登らせておいて、あとで梯子を外すやり方である。

 介護の現場もなかなか仕事量の厳しさの割には給料が安く、人がいつかないようであると聞いた。
 そして今回このような事件である。決して、仕事の厳しさ、過酷さ、給料の安さのためが、今回の傷害致死事件の原因のすべてであるとは思わないが、認知症の高齢者の介護は筆舌に尽くしがたい壮絶な現場であること自分もみてきたのである。

川崎市老人ホーム介護士事件雑感 その1

2016年02月23日 05時46分08秒 | 日記
 川崎市の老人ホームの元職員が連続して入居中の高齢者をベランダから突き落としたという事件が報道されている。痛ましい凄惨な事件である。もちろん容疑者に同情の余地などなく、許される行動などでは断じてない。しかしながらこのようなことに至るその思考背景はどのようなものであったのか気になるところである。
 介護の現場はもちろん過酷で辛い。・・・と文章にする以上に壮絶なものであることは想像にかたくない。今まで、介護という制度ができる前はすべて医療の現場でやってきたことである。ところが医療費高騰のために、高齢者を病院ではなく、その中間施設や在宅に移行させ、入院患者を減らし医療費を抑えようとしたのが事の始まりなのである。

インフルエンザ猛威

2016年02月22日 05時31分15秒 | 日記
 いやはや、先週~今週のインフルエンザ罹患者の多さには参りました。「高熱がいきなり出た」などという前ふりならばこれはまず怪しいと思いますが、「微熱程度で身体もぜんぜん辛くないです」という患者さんからも陽性反応をいただきました・・・。もう予測不可能なので、ほぼ風邪気味の方全員にインフルエンザ検査せざるをえませんでした。そうしたら、まあ、陽性に出るわ出るわ・・・。鼻から綿棒いれて検体採取なので、その後、ウイルスをたくさん含んだ鼻汁、咳を「ブォホン、ガホン」と飛散いただくので、常に高濃度病原体に汚染されている自分です。先週初めに少し熱がでたようですが、熱は測りませんでした。もし高かったらまずいので・・・。とりあえずは事もなく過ぎ去りました。2回インフルエンザ予防接種はしているのですが、今後どれだけ持ちこたえてくれるか? さてと、次はやはり流行中のノロが怖い。

覚醒剤事件の不思議 その6

2016年02月20日 06時13分53秒 | 日記
あるいは有名人の覚醒剤使用は悪影響を世の中に与え易いので、有名人だけ警察も徹底的にマークするのかと考える。
 となると一般市民の覚醒剤使用は超末端の話であり、こんな事例を扱っていたら多忙な警察でも切りがないから、そのまま放置しているのかとも思われる。
 なんとなく多忙な警察ではマンパワーの有効利用、cost performanceの点を考慮すると、末端市民の覚醒剤使用なんか相手にしていられないという事情はわかる。
 あるいはその他の理由では、現行犯でないと逮捕できないのかもしれない。しかしこちらは尿検査の結果を証拠としてもっているんだけどねえ・・・。

 ただ毎日マスメディアによって「覚醒剤¬=根絶」を刷り込まれた自分にとって、通報しても「はいはい、退院してから寄ってくださるよう伝えてくださいね」と判で押したように警察に言われると、何だか「お店に来てよね的」な飲み屋の営業を連想してしまうのである。

 何だか覚醒剤の使用は罪が重いんだか重くないんだか? よくわからん?

覚醒剤事件の不思議 その5

2016年02月19日 06時46分16秒 | 日記
 このような案件が立て続けに何例も続いた。
 警察に電話しても「本人に退院したら警察に寄るように伝えてください」と、特段、患者の氏名年齢、住所を聞くこともなく電話が切られるのである。そんなこんなの対応がずっと続くと、こちらもなんだか馬鹿々々しくなった。

 覚醒剤の中毒者がその後搬送されることはよくあったが、自分は以後、二度と警察に通報しなくなった。また「退院後に警察に行くように」などと伝えることも絶対にしなかった。なんだか阿保臭いのである。

 今回、警察のOBがTVに出ていていろいろコメントをしている。「病院に(患者が)搬送されれば病院から警察に通報される『約束』があるんですよ」とあるOBが言っていた。嘘である。そんな約束などない。個人の良識として警察に通報したとしても、結局は前述のような扱いは目に見えているのである。

 一方、それとは逆にスポーツ選手や芸能人の覚醒剤使用は、徹底的に叩かれるのである。それを見ていると実は覚醒剤の使用は本当は「大したことではない」のであるが、マスメディアは有名人のみ大きく派手に取り上げているのかいなとも思ってしまう。

覚醒剤事件の不思議 その4

2016年02月18日 06時56分11秒 | 日記
 覚醒剤使用の患者の件を警察に通報したところ、警察官は

「はっ、はっ?? 覚醒剤の患者を今、収容?? あ~あ~、はいはい、それで今入院中ですね? それならば、患者が退院する際に警察に寄ってくれるよう患者に伝えてください」と・・・。

「えっ? それでいいんですか? 警察は病院には来ない? 患者の名前もここで告げる必要ない?・・・」 

つまり患者が退院したらその足で警察に自発的に出頭するということで、入院中の患者が警察の管理下に置かれることもないわけである。
 覚醒剤使用とはもっともっと重いものだと思っていた。「退院したら警察に寄ってくださいね」と患者に言ったって行くわけがない。
道端で覚醒剤を吸引している見ず知らず人を見かけた時に、その人に「だめですよ、これからあなたは警察に出頭してくださいね」と助言するようなものである。行くわけない。自明の理である。

でもしょうがない、警察がそう言うので患者に「じゃあ今日退院ですね。退院したらK警察に行ってくださいね」なんて間抜けな「退院時指導」をしたのである。

覚醒剤事件の不思議 その3

2016年02月17日 06時01分44秒 | 日記
 そして患者が大人しくしているのをいいことに、馬鹿な自分は「家族もいるんでしょ? こんなことしていたらいけないでしょ?」などと言ってしまうこともあった。

よく考えれば我々は医療従事者であり、警察や相談所や、ましてやダルクの職員でもない。まさにこれらの患者に対し突っ込んだ話は余計な話なのである。何となく自分でも当時すぐに気が付いたのであるが、自分は小市民であり、このような説教じみた話になると、「上から目線」になってしまうのである。まさに身の程知らずであった。自分の仕事は患者を教え諭すことではない。
当時は少し勘違いしていたようだ(もちろん当時その勘違いに気が付き、以後は患者を説諭することなく、治療してナンボの領域のみに留まっていた)。

 さて、と、いいつつも、とりあえずは警察に通報したのである。
 所轄警察にすぐに電話をした。

「あ N医大救命の吉田です。今、せん妄・錯乱状態の患者を収容しましたが、尿より覚せい剤の反応がでましたので・・・・」といったところ・・・。

覚醒剤事件の不思議 その2

2016年02月16日 06時46分12秒 | 日記
 救命センター勤務時代には時折、異常興奮状態で暴れている人だとか、幻覚妄想で家族に刃物を向けている人などがたびたび搬送された。そしてどうも言動がおかしいので尿検査をしてみると覚醒剤反応が陽性に出ることも何回もあった。
 ということで「覚醒剤使用=とてつもなく悪いこと」として刷り込まれた我々は、公序良俗にのっとり警察に通報することになる。

 因みに覚せい剤使用したという事実は「個人情報」であり警察への通報もいけないんじゃないかと思うかもしれない。しかし警察への通報はOKなのである。個人情報とは言え公序良俗に反する行為は個人情報保護にはあたらないのである。

 ということで本人の許可を必要としないのであるが、とりあえず点滴して一晩経過し「まともな頭」に戻った患者に「覚醒剤使用しましたね。警察に通報しますけどいいですね?」と許可は一応とるのである。

 自分が出会った覚醒剤や麻薬やいわゆる危険ドラッグ使用の連中は、薬が醒めてしまえば比較的素直で一般市民然としていた。みんな「とりあえず」はシュンとして「あ~、ハイわかりました。警察ですね。・・・・は、はい」とおとなしく観念しているようであった。

覚醒剤事件の不思議 その1

2016年02月15日 05時57分09秒 | 日記
 清原選手が覚醒剤使用で逮捕された。
 また過去にものりピーやらASKA、あるいは田代まさしも覚醒剤使用で逮捕されている。

 このような人気スポーツ選手や芸能人の覚醒剤使用は、マスメディアにより大々的に報道され、その重大性は厳しく伝えられ断罪を迫られることになる。もちろんマスメディアが公序良俗にのっとり世の中の価値基準を正しい方へ導こうとするのは悪いことではない。これら報道から自分の意識の中へ「覚醒剤の使用は半社会的であり、非合法であり、公序良俗にも反する『ものすごく悪いこと』」として刷り込まれるようになった。
 現代社会ではどう考えたって覚醒剤の使用はかなり悪いこととして捉えられているのである。

 一方、過去、覚醒剤はヒロポンとして街の薬局で手軽に買えた時代もあったのである。

 その時代から数十年以上が経過して、世論が「覚醒剤は悪いもの」と形成されるになるまでには、価値観の変換を迫られる世代もあったろう。現在までこれら薬物の使用で家庭も仕事もなくした人は数知れないのである。だからやはり価値観の変換云々の問題ではないのはわかる。

こんにゃくゼリー その3

2016年02月13日 05時36分54秒 | 日記
 こんにゃくゼリーは、裁判の結果で「危険物」のレッテルが貼られた。
 裁判と言うものは必ず過去の判例を引用にして次の裁判の参考にする。
 ということはのどに詰まる可能性のあるもの、あるいは過去すでに喉に詰めて窒息をおこしたことのある食べ物であっても、裁判にさえなっていなければ「危険物」として扱われないのだろうか?

 これがもし裁判になって「コンニャクゼリー裁判」の判決が参考にされたなら、餅であっても、漬物であっても、刺身であっても、はたまた死には至らなくとも節分の豆だって、みんな「危険食品」になってしまう可能性がある。雑煮を食べないと新年を迎えたことにならないと思っている高齢の方にも「危険だから」食べてはダメと取り上げるのだろうか? あるいはスーパーで売っているイカやマグロの刺身盛りのパックにも「お子様や高齢者は食べないでください」というシールが貼られるのであろうか? はたまた行列のできる老舗和菓子屋の団子や大福にも「自己責任で」という但し書きがつくのであろうか?

 いやはや疑問は尽きないところであるが、今回、コンニャクゼリーという食品の外側に危険物であることを連想させる表示がされていたのを見て、なんとなく違和感を覚えたのである。まさかスケープゴートではないですよね?

こんにゃくゼリー その2

2016年02月12日 06時45分58秒 | 日記
 同じ食品である「餅」の位置づけであるが、これは伝統的で歴史のある食べ物である。祭礼などにも用いられるハレの食品である。こんにゃくゼリーとの比較も難しいであろうが、窒息して毎年人が必ず亡くなっているという観点では、まさに餅であっても「危険な食品」なのである。でも売られている切り餅のパッケージに、あのコンニャクゼリーのような「高齢者や子供は食べないでください」とは書いていないのである。そして毎年、死亡者が出ている割には製造会社を相手取った訴訟と言う話も聞かない。この差は一体何であろうか? 特段、コンニャクゼリーへの風当たりが強すぎると言っているわけではない。その逆で「なぜ餅と言う食品に対してはこれほど風当たりが強くないのであろうか?」という単純な疑問なのである。餅と言うものはすでに昔から危険な食べ物と万人が認めているので表示の必要がないのか? あるいは正月のハレの食べ物なのでこれを食べないのは縁起がよくない、だから「命がけ」でも食べるのか? 家族も、もし高齢者が窒息したとしても餅でならば「縁起がよい」とでも考えているのだろうか? これは何とも不思議な食べ物なのである。