その他にも結構漢方薬の効能に驚く例もある。中年の女性であるが、快活で活動的な方なのだがいつもひどい発汗に悩ませられているとのこと。手足の冷えはあまりなく、ときおり顔面が紅潮したりのぼせたりする。そして少し脈も速めなのである。これをみたらまず甲状腺機能亢進症を疑わなければならない。ところが急いで採血して甲状腺ホルモンを調べたが正常範囲なのである。その他代謝亢進させるホルモンも精査したほうがいいのであるが、一緒に来た娘さんが「お母さんはいつも大汗かくけど痩せないのよね」というのがひっかかった。代謝を亢進させるホルモン異常ではやせることも多い。患者さんは比較的筋肉量も多く(実証)、少なくとも痩せているという体型ではない(失礼!)。そこで桂枝茯苓丸という薬をだして2週間したら「先生、今までの大汗が小汗程度に減ってきました」ということであった。同時にあった肩と頸の凝りと、のぼせも軽快傾向とのこと。う~ん効く人には効くようだ・・・。もちろんまったく効かない場合も多いが、一旦効くとなると西洋薬にはない効能がある。
うちに時々見えられる高齢の患者さんである。他院から血圧の薬をもらっている。時折ひどい頭痛に悩ませられうちに来院する。通常の鎮痛剤をだしてもそのときだけしか効かない。偏頭痛の薬もだしたがあまり効果がない。あまりひどいのでご本人がどこかの頭痛外来を紹介してくれというので2年位前に紹介した。その後、外来にお見えになったので聞いてみた。「頭痛外来は如何でした?」 すると「先生、いろいろ画像診断とかいろいろやったのですが低髄圧性の頭痛や、偏頭痛でもないそうで、普通の鎮痛剤のみ出されました」と・・。そしてしばらくは落ち着いていたのであるが、数ヶ月前にまた「先生、最近また起床時に特に頭痛がひどいんですよ」と来院した。はっとひらめいた。血圧高めで体力なさそうな(虚証)の人で起床時の頭痛・・・、試しに釣藤散という漢方薬をだしたら、これがなんと服用3日目に効果を表した。「先生、あんなに他の薬が効かなかったのに、ピタッと止まって再発していませんよ」と・・・。著効である。最近、漢方薬の処方を頻回にするようになったが、このように大変喜ばれるか、あるいは「あんなもの全く効かなかったですよ」と嫌味を言われるかのどっちかである。うーむ、ハマれば痛快であるのだがなかなか奥が深い・・。
芍薬甘草湯という漢方薬がある。これはこむら返りなど足の痙攣や、筋肉痛、はたまた内臓の平滑筋の攣縮による腹痛などにも効くらしい。運動後の筋肉痛予防にも頓服で飲むと効くようである。とにかく夜間のこむら返りには抜群の即効的効果が期待できる。はじめて処方したときの患者さんの反応に驚いた。「先生、あの薬はいいですねー、飲んでいるとまったく夜中足を攣らなくなりました」と評判が良い。うちでは頓服的に服用するか、夜間眠前にのみ服用してもらっている。他院から処方を受けている高齢のホーム入居中の患者さんであるが、最近足のむくみと血圧上昇、倦怠感で往診の依頼があった。ひどい両下腿のむくみである。採血したら低K血症である。この芍薬甘草湯が1日3回で長期間処方されていた。典型的な偽アルドステロン症である。中止してしばらくしたら徐々に軽快してきた。漢方でも結構副作用はあるのである。
また漢方薬が効いていたとしても、こちらから「その後、効き目はどうですか?」と聞いてはじめて効能に気がつかれる場合も多い。「あ~そういえば何となく最近調子がいいです。症状がここ1週間ほどでていませんね」とマイルドに効いているような場合も多い。漢方薬はもともとが「体質改善」を基本とするものらしい。講演で聞いた話であるが、「西洋薬が森の中の木を一本一本を個々に治すのに対して、漢方薬は森全体、つまり土壌も含め全体的に改善をさせるものである」といわれた。だから土壌改善までにはある程度時間がかかるし、その後、二次的に一本一本の木、つまり個々の症状も治ってくるというのである。ただ錠剤もないことはないが、あの顆粒の剤型を苦手とする患者さんも結構いる。自分個人的には、すっきり爽やかなシナモン味のようなものもあり美味しいと思う。まあこれは好みの問題である。なんと最近では大の大人の方でも「私粉薬は飲めません」と平気で断られる場合もかなりある。「良薬口に苦し」は現在では通用しない。
最近、ピタッとはまればよく効き患者さんにも喜ばれるため、西洋薬と一緒に漢方薬も処方している。中には結構シビアな副作用を起すものもあるが、まあ西洋薬と同じで「副作用のない薬はない」のでしょうがない。薬には「主作用」があるのだから当然「副作用」はあるのである。また概ね効き目はマイルドで遅効性のようなイメージがあるが、即効性が期待できるものも多い。薬価も1袋10円程度のものが多く結構便利である。ただし患者さんの病状ではなく身体状況(これを「証」というのであるが)をきちんと見分けて出さないと効き目が期待できない。この証というのは体格が充実していて筋肉量の多い人、中等度の人、そして虚弱体質の人の3種類に分けられている。実はそんな簡単ではなくもっと細かい分類なんだと漢方専門家におこられそうであるが、まずこれをきちんと区別して処方しないと同じ漢方薬でも、全く効かないか、あるいは胃がもたれる、もしくはのぼせる等の副作用で患者さんに文句を言われるのである。
漢方薬のイメージは昔は「マイルドで副作用がなく効き目が穏やか」と思っていた。ところがここ数年、そのイメージはまったく覆った。早く良く効くのである。最近、漢方薬の有用性が強調されている。いたるところで漢方薬の勉強会が開催されるようになったため自分もよく出席している。以前、国の施策で「漢方薬は保険適用からはずす」なんて云々されていたがとんでもない、最近では薬価もきわめて安いので「追い風」になっている。さて漢方薬はモノによっては漫然と処方すると重篤な副作用もある。そして不思議なところは「先生! 今まで何にも効く薬がなかったんですが、この前のあの漢方薬は本当に良く効きました。今までの辛さは一体なんだったんでしょうか」と効く人にはピタッと効くことである。でも、一方効かない人には、爪の先ほどの効果もなく、まったく効かないのである。薬にもよるが西洋薬は万人にそこそこ効く。でも漢方薬は効く、効かないのON, OFFがはっきりしているようである。
どうにかしないと困る。あたりを見回すと古新聞紙が散らばっているのみである。あー・・・・でも、これしかないのである。その古新聞紙を切り裂いてよく揉んだ。何回も揉んで柔らかくしてそれを用いた。でも痛かった。しかも新聞紙なので水分を吸ってくれない。何回も拭いていたらヒリヒリ痛くなってきた。まあ試験時間もそこそこ近づいてきたので、慌ててトイレを飛び出して会場に向かった。いろいろあったが結局、合格してその大学にいくことになった。「勝てば官軍」、結果がすべてなのである。もし落ちていたら、「あの時、『早く治る強力な下痢止め』を飲んでいればよかった」と誤った思考回路ができあがっていたかもしれない。あの時はしわくちゃに揉んだ古新聞を用いたので、少し指についたかもしれない。でも「ウンがついた」ので合格したのだと思えばそれもいい経験である。汚い話で恐縮である。とどのつまり「早く治る薬」なんてのはないのである。
受験生で思い出した。数十年前、自分の大学受験の日であった。一次試験に合格し、二次試験の小論文の日であった。自分は昔からお腹が弱い。すぐに下痢をするほうである。二次試験の数日前よりお腹の調子が悪く薬を服用していた。まあ何とか試験前日までには落ち着いて下痢もなくなった。さて試験当日のことである。試験会場に向かうべく電車からおりて大学までのバスに乗っていた時のことである。まさに突然の鉄砲水のごとく急にお腹が差し込んできた。さてこのまま大学までもつか、いや途中で漏らしてしまうか判断に窮した。数分おきに腹部疝痛が襲ってくる。ついに決断した。途中下車し、あたりを見回すとコトがコトだけにウンがよかった。小さな公園があった。そこの公衆トイレに飛び込み用を足したのである。試験に間にあうかどうかという心配よりこの苦しみから逃れられたという開放感で一杯だった。さてあたりを見渡してもトイレットペーパーなんてない。でもトイレに紙があるかどうかを確認してから用を足すなんて状況ではなかった。
標記のような薬があれば便利である。しかし早いというのは比較の問題であり、このような薬があるとすれば「遅く治る薬」も存在することになる。この前、高校生で風邪の患者さんが来院した。インフルエンザ検査では陰性である。どうやら受験生とのことで「早く治る薬くれませんかねー」とお願いされた。受験生であれば切羽詰っているだろう。もし試験日までに体調が回復しなければヘタをすると1年棒に振る可能性だってある。気持ちは痛いほどよく分かる。しかしながら、こちらだって患者さんにいつもは「遅く治る薬」を処方して、彼のような大事な時期の人にだけ「早く治る薬」を処方しているわけではない。そんな薬なんてないし、世の中、そんなうまくいく美味しい話は絶対にないと自分も社会人になってからいやと言うほど経験した。だが別段受験期の彼に今その事実を知ってもらおうとは思わない。なので「よ~し、わかった、特別よく効く薬を処方しましょう。頑張って下さい」と言ってフツーの感冒薬を出した。これは医療のさじ加減である。それにしても彼がこのブログを読まないことを願うものである。(笑)
一般の人たちにまだまだ誤解されている新しいキーワードは他にもある。その一つに「セカンドオピニオン」がある。他の医療機関で投薬された薬をうちのクリニックに持参されて「先生、この薬を見てください。まだ良くならないのですが、この投薬内容で大丈夫なんですか?」と聞いてこられる。これは辛いのである。投薬内容の責任は処方した医者にある。蔭で処方医の評価をするのは自分は好まない。「あぁこれなら大丈夫、このまま続けてください」というのであればいいがネガティブな評価の時は言いづらい。なので、他院で行われた投薬内容や治療経過についてはすべてコメントしないことにしている。「お薬出している先生に直接伺ってくださいね」とお願いしているのだが、「えっ、セカンドオピニオンはしてくれないのですか?」と聞き返されることがある。でもこれは医学で言ういわゆるセカンドオピニオンというものではない。となるとセカンドオピニオンについてまた説明しなくちゃならないので困りものなのである。最近はウィキペディアがあるのでそちらにお願いしたいが(笑)。
個人情報保護についてはまだまだ一般の人での扱いがうまくいっていないことを前回書いた。昔からいろいろ揉め事はあった。特に救命センターに有名人などが入院するとやっかいなことがあった。マスコミの人がやってきては情報提供をもとめてくる。こちらは「個人情報の秘匿」を理由にお帰りを願うのだが、むこうは「報道の自由」をたてに一歩も引かない。彼らは「我々は何にも干渉されない報道の自由と義務をもっている」の連呼なのである。何だか独りよがりの理論のような気がした。でも最近では個人情報保護ということがようやく世間に浸透してきたので、ズカズカとマスコミの人が病院に入り込むことはなくなってきたのでほっとしている。まあ救命センター黎明期に勤務していたころは、何の許可なくいきなりテレビカメラが初療室にズカズカ入り込んできて特定患者の撮影を突然始めたということも一度や二度ではなかった。「あなたたちは何?出て行ってください」と追い出しても隙をみてはまた入り込んでくる有様だった。今考えると隔世の感がある。
今回、検査結果を本人に告げず「『便から出た』といえば向こうの病院でわかるから」と何も情報提供がなかったエピソードをかいた。もしかしたら会社の健康管理者は「個人情報保護」のつもりで検査結果を渡さなかったのかもしれない。その証拠に再来したときに持参したコピーには当該患者の便培養の結果のみならず、検査を施行した全従業員の便培養の結果が一覧表になっていた。他の従業員は全員、病原性細菌は陰性だった。でもこれこそ「個人情報」であるし、こちらにとっては診療に不必要な情報である。まあ我々医療人は個人情報保護が云々されるずっと以前から、「業務上知りえた情報の秘匿義務」が法律で課せられているのでこのような内容を漏らすことはない。しかしながら診療に関係のない他の従業員の情報はこちらへ提供の必要がない。これこそ個人情報として保護をしたほうがよいだろう。一般市民において個人情報の扱いについては、なにやらまだまだうまくいかないようである。
また出直してもらうことにしたが、数日後その患者さんは検査結果のコピーをもって再来した。拝見したが、いわゆる病原性細菌が陽性にでたのである。まあ何も症状がない健康保菌者のようなので抗菌薬を1ヶ月ぐらい出して、それからまた便検査でもしようと考えた。確認のため「今日の治療指針」という本を読んだら、「2類感染症」とやらに分類されている。確かに発症者であれば感染症の専門病院に行ってもらわなければならないが、「健康保菌者」の場合はどう扱ったらよいのか記載がない。もちろん患者さんは無症状で元気である。まあ患者さんには申し訳ないが、とりあえず専門病院にいってもらうように紹介状を書いた。それにしても初診の時は「いけばわかるさ」ということで診療もなにもしていない。なので初診料はサービスした。今回も何もしていないが感染症専門病院に紹介状かいたので再診料と情報提供料は請求させていただいた。企業の健康管理者がちょっと気を利かしてくれれば、患者さんは何度も医療機関に来ることもなかったし、こちらも医療費をきちんと請求できたのである。「いけば分かるさ」は確か一休禅師の言葉だったが、医療の現場では情報提供がないと「行くも分からず」なのである。
ある食品関係の会社でのできごとである。従業員に便検査を行なったようである。そしてどうやらある従業員の便から「何か」がでたということで病院に行くよう言われてその当人が受診してきた。私:「どういうものがでたのですか?」 本人:「???さぁ? なにかが出たらしいのですが分かりません」 私:「は? 何かでは分からないのですが? 潜血でもでたのですか?」 本人:「いや、いけば病院でわかるからというので来たのですが・・・」 私:「・・・??、あっ、いやっ、幽霊じゃないのですから出たといわれても・・・、何か検査結果の書類でもお持ちですか?」 本人:「いやっ、特に何も渡されていません、行けばわかるからと・・・」 これでは診療が進まない。きちんとした会社なら検査結果のコピーくらい情報提供してくれるはずである。会社名を聞くとTVでも有名なファストフードの会社である。おそらくは健康管理は産業医がしているが、事務処理は現場の担当者がやっているのかもしれない。それにしても対応がお粗末である。「行けば分かるさ」というのは一時期流行したアントニオ猪木の引退時のコメントである。
自分が知っている某役所はきっと先進的な人たちの努力のおかげで業務内容が合理化、簡略化されたのだと思われる。もっとも業務内容はその良し悪しにかかわらず定期的な見直しはどこの企業でも必要なのである。事なかれ主義の人と業務内容を変えようとする人、どちらに正義や真理があるというわけではない。しかしながら我々一般市民にとっては提出書類が簡単に書けて、しかも書き直しさせられず簡単に受領してくれる役所のほうがありがたい。行政サービスを受けるのに「数々のお作法」経由では辛い。今回、向こうが追加して請求しなさいという消費税を請求金額に記載し忘れた。「書き損じの場合、訂正は一切無効」ということだったので「書き直ししていません。追加記載しなかった消費税分はいりません。このままで結構です」とメモ書きを同封した。ところがそれにもかかわらず「記載内容に誤りがありますのですべて書き直してください」という返信を頂いたので、丁寧で正確無比な「お役所のお仕事」と思ったまでである。(笑)