さてこれから入院・手術する患者さんに「手術して、しばらくの間入院だから頑張るんだよ」といったところ、「えっ?なんだい?先生が診てくれるんじゃないの?あっそう、まあいいけど、また家に帰ったら先生が私の最期を看るんだよ。いいね」と言われた。大昔自分が小学生の頃、この患者さんのご主人は自分の亡父によって最期が看取られた。確か大晦日で家族揃って温泉にいった時だった。父は危篤と連絡を受けて、我々をおいて東京まで一人で引き返したことがあった。時代は替わって今は平成である。今度はその奥方の最期を自分が看取る確約をずっと前からさせられている。こんな予約診療もあるんだなと思いつつ「なんだよ、そんなまだ40年以上も先のことわからないだろ。まだまだ先の心配よりも骨折の心配しなくちゃ」といったところ、「40年先? あたしゃ一体、幾つになるんだい?」といって笑われた。今の時代にはきっとそぐわないであろう、まさに昭和の時代のレトロな訪問診療である。
翌日、患家の程近くに大きな病院があるが、だめでもともとと思い連絡を入れてみた。こちらも患者さんのX線をとったわけではない。診察だけで「大腿骨頸部骨折」といっては見たものの、もしもはずれたら大恥である。最初向こうもこちらの説明に普通に受け答えをしていたが、「年齢は?」という質問に「・・・実は94歳・・」といったところ、やはり一瞬向こうの言葉に間(ま)があいた。間違いなく一瞬会話が止まったのである。慌てて「認知症はまったくないこと」「治療に協力的であること」「内臓的には異常がないこと」を付け加え、ままよとばかり「実はご家族が貴院での診療をご希望されているもので・・」とダメをおした。すると「あっ・・・そうなんですか。それならば・・」とようやくOKがとれて「嫁ぎ先」が決まったのである。「家族が貴院を希望」というのは少しばかり誇張が加えられた内容であった。すみません。でもとりあえずホッとした病診連携だった。
うちも在宅支援診療所の認可を受けているので訪問診療をおこなっている。ある高齢のご婦人を思い出した。頭は特に認知症もなくしっかりしておられる。ただ足腰が弱いので自分が月2回の訪問診療を行なっていた。ある夜、携帯がなった。「あ 先生ですか? さっきうちの婆さんがトイレで転んで起き上がれないのですよ。なにやら腰が痛いとのことで、ちょっと動かしただけでもイタイイタイと。ちょっと診てくれませんかね?」と家人の電話。あわてて駆けつけると腰椎の圧迫骨折というよりも大腿骨頸部骨折のようである。家人に明日まで安静にして明日1番で入院、手術のできる病院を探すからと確約して引き上げた。さてとはいうものの自分もあてなどなく途方にくれた。90歳以上の高齢の頸部骨折を喜んで手術しましょうと引き受けてくれるところはそうそうない。さてと・・・。
それにしても一人の患者さんに4つの医療機関が関与していながらお互いそれぞれ連携がないのも珍しい。結果的には家人に最大限の負担がかかっているわけである。よく「かかりつけ医」という言葉がでてくるが困ったことに明確な決まりや定義がない。そのため「かかりつけ医」といっても縛りがないためか、どうも自分の専門以外はまったく診なくても良いようなのである。またA病院とC診療所とではどちらが一体かかりつけになるのであろうか? これも明確な規定はないので困りものである。自分は亡父の診療を見て育ったが、自分のところに通院する「かかりつけ」の患者さんには、父は専門外でも何でも相談に乗った。必ず最初に診察をして自分で事足りなければ他院に紹介した。往診したときも父はその方針で行ったようだ。そして手に負えないときは自分で患者さんの「嫁ぎ先」を探し出して連絡をして収容をお願いするところまでやっていた。自分もそれが「普通」だと思っているが最近ではどうもそこまでしなくていいようである。都会では患者側もドライなのかそこまでひとつの医療機関に依存的にかかりきりにはならないようだ。事実、大量の医療機関の受診カードをお持ちである。現在では患者と開業医との関係が希薄になってきたためであろう。
とりあえず家族からそのような経緯を聞いてうちが紹介状を受け取った。別段処置の内容が書いてあるだけで傷を診ればすぐにわかることである。とりたてて必要な情報が書いてあるわけではなかった。まあ、しいて言えばCTスキャンで異常がなかったとのことなので、のちのちの慢性硬膜下血腫の発症の可能性のみが考えられるため、そのことも家人に伝えた。高齢で抗凝固薬を内服しているとのことだから慢性硬膜下血腫発症のリスクは高そうである。さていずれにせよこの奇妙な三角関係の輪の中にうちも参加することになった。まあ他の医療機関と連携をとらずとも創の管理くらいは行うことができる。しかし創は挫滅し擦過されて結構ぐしゃぐしゃである。数針の縫合追加もした。とりあえず毎日は通院してもらわなくてはならない。車椅子でこちらまで毎日通院させるのは家人にも負担であるがやむをえない。
話はそう複雑ではないが、面白いことに(?)このA病院、B大学、C診療所、そしてうちの4者の間で何ら連携がないことである。A病院には1~2ヶ月に1回受診して原疾患の投薬を受けてくるそうだ。そして普段は2週に1回、在宅医療としてかかりつけのC診療所医師の訪問診療が行われている。こちらでは投薬はなされておらず診察だけだそうである。AとCの間には連携があるようで、微妙にないような雰囲気である。そして今回、B大学のERで縫合を受けたが、その後の処置依頼として宛名なしの紹介状がB大学から家族に渡されたのである。ところがかかりつけのC診療所医師は「往診による処置は不能」とのことでその宛名なしの紹介状を受け取らず、巡り巡ってその紹介状が自分の所に来たわけである。B大学病院はER(救急部)として対応してくれたのであるから初期治療以降の創の管理についてはフォローできなくてもやむをえない。まあいずれにせよA病院、B大学病院、C診療所の3者とも、創の処置をしていただけないのが現状である。
ある高齢の患者さんである。家の前で転倒して顔面挫創などのケガをされた。最初、月に1回通院し処方も受けている独立行政法人のA病院に診療を依頼したらしいが「脳外科がいないので対応不能」と断わられたそうだ。そして救急隊はERのあるB大学病院が診療OKだったので、そこに搬送した。B大学病院でCTスキャンや縫合処置を受けて「あとはかかり付けの医療機関で処置を受けてください」と帰された。帰宅後、月2回患宅に訪問診療をしている、かかりつけのC開業医に処置の依頼をしたら「往診では滅菌処置はむりなのでどこかの医療機関に連れて行くように」といわれたそうだ。さて、ご家族はその後の処置に困り、近所の噂でうちが創の処置をやっていると聞きつけて娘さんが相談に訪れた。まあ、やはりこの近辺は口コミによる情報伝達で成り立っているのかと痛感した。
陛下の手術を執刀したA教授であるが、自分と同じところで外科を研修した仲である。昔からとても腕がよかった。たしかに現場実力主義である。大学教授になったと聞いたときは驚いた。研究論文数の業績第一主義である大学の教授に、自分の卓越した腕で就任したのは前代未聞かもしれない。そして今回の抜擢である。でも最初から陛下の手術と聞いて、おそらく声がかかるだろうな思っていた。案の定である。混合チームとはあるが実際上は彼のイニシアチブのもとにおこなわれたものと考えられる。とにかくよかった。
昨シーズンの話ですが、ある大人の患者さんで検査をしたいが鼻腔の綿棒挿入だけは嫌だという方がいました。確かに今では紙に鼻をかんでその鼻汁で検査をする方法もあるようですが、うちではそのキットは入れていません。どうも鼻先の鼻汁ではなく鼻の奥の鼻汁からでないとウイルスが検出されにくいようです。したがって綿棒法が一番正確のようなのでそれを用いています。さてその患者さんは、「わかった、わかった、人にやられるよりも自分で取るから綿棒くれ」とばかりに自分でトライし始めました。しばらくして「ハイ、とったよ」と採取した綿棒を渡されましたので検体を調べたら陽性にでました。陰性に出たら、取り方が悪い可能性もあるので心配でしたが陽性なら診断に間違いはありません。しかし・・・自分で鼻の中に綿棒を入れるなんて自分ではできません。つわものです。
おそらく多くの医院さんと同じように、うちのインフルエンザ迅速検査も、細い綿棒で鼻腔の奥から鼻粘液を採取するやり方です。これがまた不快な手技なので小さなお子さんは大泣きすることもあります。まあ大体中学生以上になればおとなしく黙って採取させてくれますが、結構個人差があります。中には幼児~幼稚園児でもおとなしく採取させてくれて泣かない子供もいれば、採取の最中に頸を振って嫌がり、抑えつけないと採取できない中学生もいます。まあ人それぞれなんでしょうが最初はおとなしくても急に暴れる場合もあるので常に注意が必要です。急に頸を振られてもいいように綿棒は軽く持ち、いきなり頸を振った瞬間に綿棒を持った手を離します。そうしないと綿棒先端で鼻腔内を傷つけてしまいます。いつもヒヤヒヤものです。いざという時の子供の反応は予期できません。
ワクチンを打って4日後にインフルエンザに罹患したそのお子さんは小さな妹さんがいます。数日遅れで、その妹さんも熱発して来院しました。この妹さんもついこの前、インフルエンザワクチンを接種したばかりです。「あ~妹さんもかかりましたね。検査してみましょう」 ・・・ところが妹さんのほうは陰性でした。 発症後すぐの迅速検査は陰性に出ることがよくあるので、「明日も熱が続くなら明日また検査しましょう」といって帰した。さてやはり翌日も熱発したので来院しました。「あ~やっぱり熱が出ましたか、じゃあまた検査しましょうね」といってまた綿棒で鼻腔をグリグリして泣かせてしまった。さて結果は・・・ん? なんと、今日もまた陰性でした。こんなハイリスクな環境で発病しないとは・・・。ごめんねー2回もお鼻グリグリしちゃったねー。
このインフルエンザが猛威をふるっている最中に、ワクチン接種を希望されるかたもいます。確かに周囲でどんどん罹患者が増えてくると不安になるのでしょう。すでに取り置きのワクチンはないので注文してワクチンが届いたら接種しています。まあ注文すれば翌日にはワクチンが届きますのでそれほどの遅れはないでしょう。しかし今週にはもう問屋もメーカーにワクチンを返却するので実質上今週一杯でインフルエンザワクチン接種は終了です。まあ接種したといっても2週間くらいは抗体ができないのでその間も感染・発症の可能性があります。この前もワクチンをうって4日後に発熱したといって来院された患者さんがいました。調べるとA型陽性でした。せっかく打ったけども時期が悪かったとしかいいようがありません。
今年1月になって初めてインフルエンザ陽性者がでたが、3週前頃よりぼちぼち陽性者の人数も増えはじめて来た。先週はまさにピークとも思えるぐらいの人数で、結局1日だけで8人もの陽性者がでた。あまりにもつぎから次へと陽性になるもんだから、試しに?「ちょっとだけ喉が痛むんですよねー、あ 熱は全然ありませんよ」という元気な患者さんにも検査をしたのだが、驚くなかれこの方も陽性になった。もちろん典型的な発熱は要注意だが、「ちょっと風邪?」のつもりで来院した患者さんもインフルエンザだったというので、患者さん本人もびっくり! それでこの混乱の中、この期に及んでマイコプラズマの患児や溶連菌感染もまぎれて来院するのでますます混乱することこの上ない。やっぱりお願いですから大人も子供も予防接種はしましょう。特に子供は2回ね。・・・って、もうすでに遅いか・・・。インフルエンザに罹患したらワクチンは必要ないですものね・・。
このような屋外での回線断裂ならばクレーム通報はうちからだけでなく何件もあるはずである。なので聞いてみた。「この近隣から回線断裂のクレームたくさんきたでしょう?」 「えっ電話ですか? いやっお宅からの一軒だけでしたよ」 えっ・・? 不思議である。この近隣で光回線を使用しているのはまさかうちだけではあるまい。もしかしておもったほどに光回線は普及していないのか、あるいはインターネットやテレビを光回線で利用していても、この断線していた時間帯に他の家では回線を利用していなかったのか。それにしてもうち以外に通報がなかったのは解せない。都合16時間は断線したままの状態であったのだが・・・。きっとそのうちまた切れるだろうなと思いつつ結局、なんら補強策が提示されないまま工事は終了した。もういやだ、こんな回線事故。
うちで引いている2回線のうちどちらかが落ちたのであれば、家の中での配線における事故だと推測できる。しかし2回線とも同時におちたので、これは屋外での断線だなと直感した。すぐに家の外壁の屋外回線をみたが、きちんとつながっている。でも電話で故障担当者に話をしても「まず家の中のモデムの点検を・・、裏のランプの点滅を確認して・・、モデムの電源の抜き差しをして・・」と型のごとく最初から確認させるのである。向こうもコンプライアンス遵守してるんだろうが融通が利かない。ようやっと担当者がきて調べたが、結局家からずっと離れたところの電柱に異常があり、そこでひかり回線が断裂していたとのことであった。まあどこで切れようがあんな細いケーブルじゃ、さもありなんとおもったが、いまさらインフラを変更するわけにはいかない。今後もひかり回線と心中するのかとあきらめムードである。 おいっ! 何とか耐久性をたかめろよっ!