伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

いつかこの失恋を、幸せにかえるために

2023-01-17 20:35:29 | 小説
 地質調査のアルバイトで知り合った4歳年上の久住亮平と3年間交際し、亮平と暮らすことを最優先して東京勤務前提で人に話したときに通じるようなある程度有名な会社がいいくらいの意識で就活に励むが結果が出せないでいる大学4年生の森田なつきが、就活の合間に亮平と北海道旅行することになって幸福駅で待ち合わせるが、待てど暮らせど亮平が現れず、夕方になって電話したらごめん、行けないと言われて呆然とし、いや号泣し泣き叫び、それを撮影して動画サイトにアップした小学4年生の槙田遥希とその父とともに道東を旅することになって…という青春失恋傷心小説。
 父親が死んだ母親の姿を撮り続けて作ったビデオ作品「失恋したての女の子」を50回以上観て台詞を全部覚えている小学4年生、それに影響されてか、自分が好きな同級生が他の男が好きだというので、「自分を満たそうとするのが恋。自分よりも相手のことが大切になるのが愛だよ。さほちゃんは洋太のことが好きって言ってたから、僕は恋じゃなくて、愛することにしたんだよ」(118ページ)なぁ~んて言ったりする。おませなのかおとぼけなのかわかってないのか、よくわからないけど、この遥希の存在で作品が柔らかくなり、癒やされる。下ネタを言わないちょっとおとなしいクレヨンしんちゃんみたいな感じでもありますが。


中村航 角川文庫 2022年11月25日発行(単行本は2019年8月)
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短いのに感じがいいメールが悩まず書ける本

2023-01-16 20:11:54 | 実用書・ビジネス書
 ビジネスメールの書き方とそこでの一工夫について説明した本。
 件名は「一目見るだけで要件がわかるよう簡潔かつ具体的な内容にする」(18ページ)は、ビジネスメールで必須にしてイロハだと思います(が、実践できていないことが多い)。併せて書かれている「強調したい場合は【】・[]などの記号を活用する」(21ページ)は、著者も続けて「ただし、相手の目に留まりたいがために、本当に差し迫った場面でもない状況で、『至急』『重要』『緊急』といった言葉を添えるのは、相手の信頼を損ないかねず、本当に重要な場面で用いても、開封されなくなるかもしれません」と書いているように、私が日弁連広報室にいた頃、日弁連会長が、会長にとっては重要事項とお考えになったのでしょうけれど、日弁連からの全会員発送のお知らせの封筒に次々と「重要」のゴム印を押し続け、最初はみんな何事かと読んだのですがすぐに馬鹿馬鹿しくなり日弁連からの「重要」のゴム印付き封筒は開封されることなくゴミ箱行きになった(当然、本当に重要なことも読まれなくなった)という故事を想起させますし、今どき件名に【】の付いたメールのほとんどは迷惑メール・詐欺メールですけれども。
 否定語ではなく前向きの言葉を使うというところで、「〈否定語〉返品・交換はできません。〈肯定語〉あいにく返品・交換はできかねます。」(135ページ)というのは、無理があると思います。より丁寧な表現とかより柔らかい表現というならわかりますが。
 私には、付録の「メールでも使える時候の挨拶」(172~183ページ)が一番参考になりました。


亀井ゆかり 日本実業出版社 2022年10月20日発行
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傲慢と善良

2023-01-15 19:02:42 | 小説
 同棲していた婚約者坂庭真実が突然行方不明になりスマホは電源が切られて通じない状態となり、同棲のきっかけとなったのが真実が自宅にストーカーらしき男が入り込んでいるという訴えであったことから、ストーカー男に連れ去られたことを危惧した西澤架が真実の母陽子とともに警察に届出したが警察が動いてくれず、架が、真実から名前等を聞かされていなかったストーカー男を捜して真実の過去を調べ続け…というミステリー仕立ての恋愛小説。
 恋愛・結婚をめぐる女の打算・駆け引き・狡猾さ、男の思い込み・単純さ・うかつさ(「もう、男ってそういうところ、本当に甘すぎ」という台詞に象徴されるような)、女性同士の辛辣さ・意地悪さが、大きなテーマとなっていて、日頃、いや男だから女だからじゃなくてその人の個性でしょというスタンスを取っている身には悩ましいのですが、しかし同時に、そういうこともあるよねと思ってしまいます。そのあたりの展開は、湊かなえのような「嫌ミス」になるかとも思えましたが、そうでなくまとめるのが作者の作風なのだと思います。


辻村深月 朝日新聞出版 2019年3月30日発行
「週刊朝日」連載 
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孫子 「兵法の神髄」を読む

2023-01-14 21:51:13 | 人文・社会科学系
 中国の兵法・戦略の古典「孫子」について解説した本。
 「孫子」の著者と成立事情、元にすべきテキストなどから検討がなされ、考えてみれば2000年以上前の文献が完全な形で残っているはずもなく、いろいろなものが組み合わされたり、後年の解釈によって修正されていたりということはありうるわけです。「九変篇」と題され、本文中にも九変と挙げられているのに5つしか事例が挙げられていなくて、研究者はいろいろ悩み他のところと組み合わせるなどの解決を図っているということも紹介されています(174~180ページ)。本来のものはまた別だったかもということは意識した方がいいのでしょうね。
 「孫子」は、哲学的抽象的でその分応用が利く記述であるのを、三国時代魏の曹操が注釈を施して、より具体的な戦術に落とし込み、また現実に戦争をするときを前提とした解釈を施しており、この本は基本的にその曹操の解釈に基づいて解説しているとのことです。著者は、曹操が付けた注釈により「孫子」に深みが出て、また文学的に美しくなっていると評価しています。従わない者に苛烈な制裁を与え、兵を死地に追い込んで逃げられないが故に奮戦させて勝利するなど、諸処に見られる冷酷さは元からあるものか曹操が解釈して付したものかはわかりませんが、そういうことも考えることで、曹操像についてもまた改めて思いをはせる材料になりそうです。


渡邉義浩 中公新書 2022年11月25日発行
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狩女のすすめ 獲る…だけじゃないジビエの魅力を教えます

2023-01-13 23:05:44 | 実用書・ビジネス書
 ジビエ(野生鳥獣肉)利活用アドバイザーとして活動する著者が、狩猟やジビエ食の普及のために狩猟の実情やジビエの調理法、美味しさ等を説明した本。
 ジビエの話もさることながら、40歳ころまでさまざまな仕事をしながら4度の結婚と離婚を繰り返し、狩猟とは縁がなかった著者が、4人目の夫が実業家から仕事をすっぱりと辞めて猟師に転身し無農薬野菜を作り始め、自分は革細工教室カフェを経営していたが夫の先輩猟師が店に来て話すのを聞くうちに狩猟に目覚め、狩猟免許を得て猟師となり、そこから活動を始め、ジビエに関するさまざまな領域に手を広げているという経歴と経験が読みどころです。それまでの経験もベースにはなっているのでしょうけれども、40過ぎで始めても、40過ぎて転身してもやれないことはないという話が、元気の素になる、そういう本だなぁと思うんです。
 その中で、奥能登への移住の際に地域おこし協力隊に入るつもりでいて、それで一定の収入が得られることを当てにしていたが面接で落ちてしまい叶わなかったこと、田舎へ移住してくる人に対する地元の人たちの反応はさまざまで味方と敵が半々くらいと思っていることが書かれています(122~123ページ)。こういう愚痴や恨み言もあり、うまく行ってるところだけじゃないんだというのが、最後に書くというのもどうかとは思いますけど、PRに徹してなくていいかなと思いました。


ジビエふじこ 緑書房 2022年11月10日発行
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楽園とは探偵の不在なり

2023-01-12 23:07:40 | 小説
 コウモリのような翼を持ち顔が削られて目鼻口がなく手足が異様に長く2メートルあまりの灰色の体を持つ「天使」が空を舞い漂い、2人以上を死なせた者を炎で焼き尽くしながら地面へと(地獄へとと解されている)引きずり込む、故意であれ過失であれ自らの手で2人を死なせながら地獄へ堕ちることを避けることは、医師が手術で患者を助けられなかった場合以外には、あり得なくなった世界で、天使愛好家の大富豪に天使が集う離島「常世島」に招かれた探偵青岸焦が、招かれた客たちが次々と殺害される事件に遭遇してその謎を解くというミステリー。
 2人殺すと直ちに天使に葬られるという事態になって、殺人が劇的に減るかというと、必ずしもそうはならず、死刑が廃止され(死刑制度を維持しようにも執行人のなり手がいない)1人は殺しても天使は手を下さないということから1人は殺してもいい、殺す権利を持っているという風潮が生じ、また地獄に堕ちることになるなら少しでも多くを巻き添いにしてやるという者が現れて爆弾や機関銃等による大量殺人が横行するという、人間の性についての悲観的でシニカルな見方、そういった大量殺人によって4人のスタッフを一気に失い意欲を失って探偵の存在意義を疑い続ける青岸のやさぐれ方に、作者のあるいは作品のクセが感じられます。
 そういった特殊な設定と青岸の心情部分でのこだわりに引っ張られますが、最後には探偵がみんなを集めて謎解きをするという探偵ものミステリーの王道に至り、クラシカルな読後感を持ちました。


斜線堂有紀 ハヤカワ文庫 2022年11月25日発行(単行本は2020年8月)
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「足がよくつる」人のお助けBOOK

2023-01-11 21:59:16 | 実用書・ビジネス書
 足がつる原因とつりやすくなる状況、つったときの鎮め方、予防法などを説明した本。
 ふくらはぎがつる(こむら返り)原因は筋肉の極度の収縮や伸長をセーブする筋紡錘と腱紡錘のコンビネーションが何らかの理由で腱紡錘の働きが鈍くなって乱れて筋肉の異常な収縮などによる痙攣が生じることにあると考えられる(14ページ)が、その腱紡錘の誤作動が起きる理由ははっきりとは解明されていない(16ページ)のだそうです。
 加齢による筋肉量の減少、新陳代謝の低下、動脈硬化による血行不良、水分不足やミネラル不足、筋肉疲労の蓄積、身体の冷え(足先の冷え)、つま先が伸びた状態での睡眠などが、足のつり、特に睡眠中やその前後のこむら返りを起こしやすい要因になるとのことです(20ページ、22ページ)。
 こむら返りが起きたときのストレッチ、予防のための日常的なストレッチが紹介されていて、理屈はわからなくても、役に立ちそうです(なんせ、お助けBOOKですから)。さらにこむら返り(ふくらはぎ)以外の場所がつったときのストレッチがそれぞれに紹介されていて、実際に起こったときに手元にあると重宝しそうです。
 もっとも、私は、足の裏がつって困ったことがありますが、足の裏がつったときのことは残念ながら書かれていませんでした。


出沢明 主婦の友社 2022年10月31日発行
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アメリカ契約法[第3版]

2023-01-10 22:37:41 | 人文・社会科学系
 アメリカの契約に関する法(判例と統一商事法典:UCCを中心とする法令)について、基本的な考え方や実務(裁判)上現実に問題となる論点をケースを挙げながら説明した本。
 国際取引等には関与しないドメスティックな弁護士としては、アメリカ法自体を知っておくという必要性はあまりないのですが、日本とは異なる法の存在やそれを支える考え方を知り、考えることが、現実の事案で日本の法律の適用を考えるとき、特に条項を素直に解釈するのでは(自分の依頼者にとって)適切な結論を得られないときに何とか別のことを主張する根拠・材料がないかと思案するときに、参考になります。弁護士としては「引き出しが増える」という意味があるわけです。
 アメリカでは、契約違反に対して履行の強制が原則とされている日本とは異なり、契約違反(債務不履行)に対しては損害賠償が原則で、アメリカ法の有名な特徴の「懲罰的損害賠償」も契約違反には適用されない(懲罰的損害賠償は不法行為に対して命じられる)ため、債務者は相手方に契約を履行した場合に見合う損害賠償をすれば履行しないことが選択でき、「契約を破る自由」が制度上認められているとされます。また、アメリカでは契約当事者の移転も原則は自由で、債権譲渡のみならず、債務者側も履行を他者にさせることが原則として自由(ただし履行されるまでは債務者が義務を免れるわけではない)と考えられているというのです。後者は、債務者が義務を免れないなら日本でも併存的債務引受はできるので同じじゃないかと見えますが、この理屈で不動産賃借人が転貸をするのも原則自由で、賃貸人の同意がない限り転貸はできないと定めても賃貸人は裁判所から転貸を拒否する合理的理由を求められるだろうとされています(344~345ページ)。当事者の自由を重視するアメリカ法は、弱肉強食の強者に有利な法制度だと考えられています(私はそう考えていました)が、債務引受/第三者による履行の自由を制約している日本法は「(債権者のために)一種の契約の絶対性を認めることであり、法が、債権者による債務者を支配する力をいっそう強めているのではないかという疑問が生じる」(345ページ注)と言われると、日本では賃貸借での賃貸人など強者の地位にある「債権者」の利益が偏重されているように思えます。ちょっと目からウロコの思いをしました。
 アメリカ契約法の内容や特徴について学ぶというより、契約をめぐる法のあり方、考え方を学び、思考訓練をするのによい本だと思います。


樋口範雄 弘文堂 アメリカ法ベーシックス 2022年11月25日発行(初版は1994年3月30日)
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キリスト教美術史 東方正教会とカトリックの二大潮流

2023-01-09 20:40:35 | 人文・社会科学系
 ローマ帝国時代からその後の東ローマ帝国(ビザンティン)と西ヨーロッパでのキリスト教美術について解説した本。
 西ヨーロッパ諸国でのキリスト教美術が作者の創意工夫・独創性を持ちより自然で科学的な描写(遠近法等)をしているのに対し、ビザンティン美術では作者の独創性や人にとっての自然な視点を示すことが神の視点・絶対性を侵すものとして許容されなかった、「逆遠近法による美術は、画家が絵画の中に入り込んでその中を歩き回り、そこに描かれている人たちの視点から見えている物を描いた結果である」「あらゆる視点から網羅的にすべてを見通すというのは、神の目に他なりません」(74ページ)と説明されています(71~78ページ)。そうすると、複数方向からの視界を組み合わせたキュビズム(立体派:パブロ・ピカソ、ジョルジュ・ブラックとか)は、「神の視点」で東方正教会的だったのか…
 私は絵画はよく見るのですが彫刻類はあまり見ないので、この本で紹介されている昔(ローマ帝国とか)の石棺の装飾彫刻や象牙浮彫は初見でした。昔のキリスト教美術では彫刻の方がいい感じのように思え、もう少し彫刻にも注意を払おうかと思いました。


瀧口美香 中公新書 2022年9月25日発行
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地震と火山の観測史

2023-01-08 22:22:20 | 自然科学・工学系
 東大地震研究所で地震予知・噴火予知の研究、南極観測等に従事してきた著者が、研究の基礎になる地震等の観測の歴史について解説した本。
 歴史と名が付くものはそういう整理と語りがなされるものとも言えますが、地震の観測や地震予知についての「人」と「制度」「組織体制」についての説明、これは誰の功績だとか、いつどこどこにどういう組織が作られ、それがどのように変わっていったかという話が中心になっています。その中で誰がどういう病気で亡くなったとか、誰と誰は仲が悪かったとかいう話が書かれていて、それは業界の裏話として貴重な情報なのかもしれませんが、部外者の読者にはあまり興味が持てない話題じゃないかと思います。タイトルというか、このテーマでは、観測技術の発展、観測器のしくみやその観測器で何をどのように測定できる(できた)のか、そのデータをどのように用いて何を把握するのか、昔はどこまでが限界でそれがどのような技術の変化でどうなったのか、そういう歴史の方に重点を置いて書いて欲しかったと思います(そう期待して読み始めたんですけど)。
 著者の業界での位置・スタンスは私にはわかりませんが、先人・恩師は持ち上げつつ、同時代の人には批判が多く書かれています。特に「東海地震説発表者」に対してはかなり執念深く批判を続けていて、何か恨みがあるのかと思ってしまいます。そういう点でも通常の学術書とは違った趣の本でした。


神沼克伊 丸善出版 2022年10月25日発行
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