この連休に、葉山の神奈川県立近代美術館まで家族で出かけた。目当ては、「話の話 ノルシュテイン&ヤールブソワ」展である。
ユーリ・ノルシュテインの映画に出会ったのは、1998年だったか、オープンしたばかりのラピュタ阿佐ヶ谷という映画館だった。描き込んだ絵の断片をマルチレイヤーのガラス上に置き、一コマずつ撮っていくという気の遠くなる手法。そのため、ごく短い、さまざまな感情と施術が凝縮された作品が生み出されている。作業量は粘土アニメを遥かに凌駕するのではないか。可愛くて、寂しくて、いきなりファンになってしまった。そのころの文献は、ふゅーじょんぷろだくとが出した雑誌の特集号など限られたものしかなく、また、ヴィデオは『Masters of Russian Animation』というVHSしか入手できなかった(その前にLDはあったようだが)。その後の盛り上がりを考えれば嘘のようだ。そんなわけで、今回の展覧会はとても楽しみだったのだ。
ほとんどすべてのノルシュテイン作品のエスキースや、絵コンテなどの資料、展示用にアニメ撮影を箱の中で再現(マルチレイヤーのガラス上の絵)したマケットなどが展示されていた。美術を手掛けたノルシュテインの妻フランチェスカ・ヤールブソワの絵には、哀切な詩情のようなものがある。感激してしまって、会場内を往復して何度も観る。遠路はるばる足を運んでよかった。充実した図録も良い。
ゴーゴリの『外套』を映画化したアニメは、1998年ころにもそうだったが、まだ製作中だという。会場のモニターで流されている途中段階の映像には、やはり眼を奪われる。いつ完成するのだろうか?その日を夢見て、わが家にはサイン入りのポスターを貼ってある。
一色海岸で子どもたちを遊ばせてから、また2時間以上をかけて帰宅。翌日、この2人による映画化作品の絵本を子どもに読み聞かせたり、録画してある作品集を一緒に観たりする(つまり自分が観たいのだ)。『霧の中のはりねずみ』(1975年)も良いが、何といっても『話の話』(1979年)は素晴らしい。何年も前、小さい息子に見せたところ、おおかみが明るい家の戸口に入って光に呑みこまれたシーンで、突然おお泣きした。どうしたのかと訊ねると、おおかみさんが死んじゃった!と切れ切れに訴えている(実際には死んでいない)。それくらい心に沁みわたる力を持った作品だということに違いない。
これまでに日本で出ている絵本
ノルシュテイン(2004年) Leica M3、Summitar 50mmF2.0、スぺリア1600
『きつねとうさぎ』を描くノルシュテイン(2004年) Leica M3、Summitar 50mmF2.0、スぺリア1600
『アオサギとツル』にサインを頂いた(2004年)