フランソワ・キュセ『How the World Swung to the Right - Fifty Years of Counterrevolutions』(Semiotext(e)、原著2016年)を読む。
フランス語の原著からの英訳版(2018年)である。先日ロサンゼルスのギャラリーHauser & Wirth併設の書店で「Resistance & Dissidence」(抵抗と反体制)という小特集を組んでいて、そこで入手した。
世界はいかに右傾化したのか。サッチャー政権・レーガン政権の80年代、ベルリンの壁崩壊・ソ連崩壊後の90年代、そして9・11後の00年代。著者は主に1980年からの30年間を切り出してその変化を手際よく説明している。それは鳥瞰的に視れば概説に過ぎない。しかし、その間に、右翼と新自由主義が手を組むのではなく、左翼が別の世界システムを構築していたならまた別の世界がありえたかもしれないという指摘は、鳥瞰ならではである。そして左翼・右翼という雑なタームの揺らぎもまた、著者の視野に入っている。
主に00年代以降のインターネット時代については、あらためて思想の観点から見つめようとしていることも、本書の特徴である。それをフェリックス・ガタリが投じたコインに遡っているのだけれど、1992年に亡くなったかれを含め、ロラン・バルト(1980年物故)、ミシェル・フーコー(1984年物故)、ジル・ドゥルーズ(1995年物故)、ジャック・デリダ(2004年物故)、あるいはクロード・レヴィ=ストロース(2009年物故)まで、フランスの偉大な思想家たちがこの時代に姿を消したことを、右傾化に歯止めをかけられないことの象徴として見ているようでもある。そのことは、現代日本での「思想」のひどいありさまを一瞥すると実感できる。
本書の書きぶりは次第に絶望と希望とがあい混じるようになってゆく。しかし最後はやはり希望なのである。なぜなら新自由主義的システムは限界点・閾値を踏み越えつつあるからだ、というわけだ。
「It (※新自由主義的システム) will not be toppled in a day or in a year, but once all the thresholds of the tolerable have been crossed. When the uprising will occur is now just a question of time. And the new form it will take, a form that must be invented, is just a question of imagination. Luckily, many people everywhere are working toward this, taking the time they need. Just like that slogan that activists in the 1990s painted onto the front of a large investment bank, "You Have the Money, but We Have the Time."」