このところ、自分のなかでは、トニー・マラビーの存在感がどんどん増してきている。幹の中心部を抜いて樹皮や匂いといった「おいしい」部分だけを提示するサックスだなと思うこともあり、ジャズサックスらしすぎるくらいマトモな音色でブロウしていて逆に脱力することもあったり、もちろんヘンな音を出したり。
■ トニー・マラビー『Scorpion Eater』(Clean Feed、2013年)
Tony Malaby (ts, ss)
Dan Peck (tuba)
Christopher Hoffman (cello)
John Hollenbeck (ds, perc, prepared piano)
編成の特徴そのままの「Tubacello」グループ名義。どのような編成がマラビーの音楽としてベストなのか判断できないが、これが凄く面白くてエキサイティングであることは確かだ。
チューバとチェロという低音楽器からは、つい、ヘンリー・スレッギルの諸グループやレスター・ボウイのブラス・ファンタジーを思い出してしまうのだが、これは、前者のように緊密ではなく開かれており、後者のように能天気でもない。低音の奔流の中で、マラビーの音がさらに冴える。しかし、次第に暗鬱な感じになっていくのはなぜだろう。
■ ダニエル・ユメール+ヨアヒム・キューン+トニー・マラビー『Full Contact』(Bee Jazz、2008年)
Daniel Humair (perc)
Joachim Kuhn (p)
Tony Malaby (ts)
大御所ふたりとのセッション。期待通り、ユメールはシンバルを多用したスタイルでテンションをむりやり励起し、キューンも独特のフレイバーのあるピアノを聴かせる。ふたりの個性が突出しているだけに、もう少しマラビーには変化球で攻めてほしかった気もする。
キューン、ユメールとJ.F.ジェニー・クラークとの黄金トリオによる名作『Live, Théâtre De La Ville, Paris, 1989』においても演奏されていた「Ghislene」にはつい感激してしまうのだが、一方で、狂ともいうべきキューンのピアノの執拗さが希薄になっていることが残念。これによらず、近作は・・・
DUGでいただいたダニエル・ユメールのサイン
●参照
トニー・マラビー『Adobe』、『Somos Agua』
トニー・マラビー『Paloma Recio』
クリス・デイヴィス『Rye Eclipse』、『Capricorn Climber』(マラビー参加)
ジェシ・スタッケン『Helleborus』(マラビー参加)
ヨアヒム・キューン『Voodoo Sense』
アーチー・シェップ+ヨアヒム・キューン『WO! MAN』