新宿ニコンサロンで、山下隆博『心の温度』を観る。新宿西口に行ったついでに覗いたに過ぎなかったのだが、なかなか素晴らしい作品だった。
北海道の、泊原発に近い地域。写真家の生まれた故郷だという。ここでの人びとの生活風景を、メッセージを明示することなく捉えた作品群である。
じっくり観ると、室内の布団、運転手や若い女性の顔、雪景色、(おそらくは)泊原発といった被写体が、非常に精細であり、目を奪われつつ、会場を何周もして凝視してしまう。グラビアに掲載された「アサヒカメラ」誌を開いてみると、ウィスタの大判カメラ(4×5)を使っている。これによる質感は、まだデジタルとは明らかに異なる。
ちょうどトークショーをやっていて、何を思って撮ったのかを聴くことができた。シノゴをあえて使ったのは、ディテールにこだわったからであるという。ただ、手段論よりも(大判を使えば精細な写真ができるのは当たり前だ)、実践という動かし難い事実に、ただならぬ迫力を覚えた。