Sightsong

自縄自縛日記

エイブラハム・バートン・カルテットとアフターアワーズ・ジャムセッション@Smalls

2017-09-14 00:09:54 | アヴァンギャルド・ジャズ

お高くとまったハコで中身の薄いジャズを聴いてしまい、また熱くならないと気分がすぐれない。そんなわけで、またダウンタウンに戻り、1時にSmallsに入った(2017/9/13)。まだエイブラハム・バートン・カルテットが演奏している。これで10ドル。

Abraham Burton (ts)
David Bryant (p)
John Hebert (b)
Eric McPherson (ds)

この最高のメンバー。Smallsの喧騒の中で聴く熱いどジャズ、これである。

とは言えバートンは熱さ一本やりではなく(それがかれの魅力なのだが)、しっとりしたバラードも吹いた。デイヴィッド・ブライアントは耳が吸い寄せられる煌びやかなソロを弾いた。エリック・マクファーソンのドラムソロもまた見事。30分ほどしか聴けなかったが大満足。

ブライアントについては以前にレイモンド・マクモーリンのライヴレビューを書いたこともあり、終わった後に少し話した。来年の2月か3月にまた日本に行くかもしれないとのこと、また観に行きたい。Body & Soulかな。

この後ジャムセッションとなり、入れ替わりたちかわりミュージシャンがジャズスタンダードを演奏した。

そのような場だからイマイチな演奏もあるのだが、堂々として目が醒めるようなアルトを吹いた男がいて、次にSmallsに来たときに名前付きのステージに立っていたら愉快だなと想像した。1時間ほどいて地下鉄で帰った。

Nikon P7800

●エイブラハム・バートン
ルイ・ヘイズ『Serenade for Horace』(-2017年)
ジョシュ・エヴァンス@Smalls(2015年)
ルイ・ヘイズ@COTTON CLUB(2015年)
ルシアン・バン『Songs From Afar』(2014年)

ジョシュ・エヴァンス『Hope and Despair』(2014年)
ルイ・ヘイズ『Return of the Jazz Communicators』(2013年)

●デイヴィッド・ブライアント
ルイ・ヘイズ『Serenade for Horace』(-2017年)
レイモンド・マクモーリン@Body & Soul(JazzTokyo)(2016年)
レイモンド・マクモーリン『RayMack』、ジョシュ・エヴァンス『Portrait』(2011、12年)

●ジョン・エイベア
ジョナサン・フィンレイソン『Moving Still』
(2016年)
ジョン・エイベア@The Cornelia Street Cafe(2015年)
メアリー・ハルヴァーソン『Away With You』(2015年)
ルシアン・バン『Songs From Afar』(2014年)

イングリッド・ラブロック(Anti-House)『Roulette of the Cradle』
(2014年)
ジョン・エスクリート『Sound, Space and Structures』(2013年)
Book of Three 『Continuum (2012)』(2012年)

●エリック・マクファーソン
ジョン・エイベア@The Cornelia Street Cafe(2015年)
ジョシュ・エヴァンス@Smalls(2015年)
ジョシュ・エヴァンス『Hope and Despair』(2014年)
ルシアン・バン『Songs From Afar』(2014年)


メリッサ・アルダナ@Birdland

2017-09-13 23:45:56 | アヴァンギャルド・ジャズ

Birdlandには23時からのステージがあり、まだ間に合うと急いで行った(2017/9/12)。メリッサ・アルダナがプレイしており、ちょっと聴きたかった。

Melissa Aldana (ts)
Philip Dizack (tp)
Sam Harris (p)
Pablo Menares (b)
Tommy Crane (ds)

ひとことで言えば期待外れ。

確かにアルダナのトーンはダークでとてもいいし、ベンドして周波数に濃淡を付けた演奏「Ask Me Now」は良かった(これだけベース、ドラムスとのトリオ)。

しかし終始それであり、突破力がなく、(トリオだったらまだしも)イケメンの毒にも薬にもならないトランぺッターと一緒に吹いては面白さも何もあったものではない。アンブローズ・アキンムシーレのグループでも弾いているサム・ハリスのピアノは上品で悪くなかったが、このしょうもないサウンドの刺激剤にはならない。

つまらないのでビールをお代わりし、梨のコンポートを食べた。

Nikon P7800

●メリッサ・アルダナ
メリッサ・アルダナ『Back Home』(2015年)

●サム・ハリス
アンブローズ・アキンムシーレ『A Rift in Decorum: Live at the Village Vanguard』
(2017年)
アンブローズ・アキンムシーレ『The Imagined Savior is Far Easier to Paint』(2014年)
ルディ・ロイストン『303』(2013年)


マーク・ドレッサー7@The Stone

2017-09-13 22:15:38 | アヴァンギャルド・ジャズ

The Stoneにおいてマーク・ドレッサーのレジデンシー。初日の「Mark Dresser 7」に足を運んだ(2017/9/12)。

2日前にクレイグ・テイボーンのソロピアノで行列が出来ていたので、警戒して1時間前に行ったところ2番目だった。

Nicole Mitchell (flutes)
Marty Ehrlich (cl, bcl)
David Morales Boroff (vln)
Michael Dessen (tb)
Joshua White (p)
Jim Black (ds)
Mark Dresser (b, compositions)

最初は変なタイトルの「Hobby Lobby Horse」。静かなイントロから、ドレッサーが弦を叩くのを合図として有機的につながりはじめた。アンサンブルは実にユニークかつ巧妙であり、ユニゾンやソロの合間にベースの示す方向性が浮かび上がる。ニコール・ミッチェルのフルートは話しているようだ。マーティ・アーリックのクラ、デイヴィッド・モラレスのヴァイオリン、マイケル・デッセンのトロンボーン、ジョシュア・ホワイトのピアノとソロが続いた。しかし単純なソロ回しなどではなく、各人は大胆な方針のもと入ってくる。ジム・ブラックのガジェット的なドラムスが走った。

次に「Sedimental」。息を吹き込む楽器の面々はみんなグロウル、そのうち断片が蝶のように軽やかに集まりサウンドを形成していった。トロンボーン、ピアノ、ドラムス、ここにフルートなどが入ってくる。ドレッサーのベースソロになると、左右の手のコンビネーションがまるで雅楽のように響いた。かれの音は実に明確に分割されており、弦の音のあとに胴体の音がやってくるような感覚をもった。ブラックがタオル2本で叩きはじめた。

3曲目は「TrumpinPutinStoopin」(聴いたときには「Trumpet Stupid」かと思った。あとでCDの曲目を確認したら1曲目から同じ順だった)。ミュートを使ったトロンボーンから始まり、ベースとドラムスとがリズムを明確に刻むように入り、そして全員が入った。アンサンブルのあとピアノトリオとなり、ブラックの一音一音がばちんばちんと痛い感じで面白く響く。ここから各人が同じような旋律のフラグメンツを創出し、アーリックのバスクラ、フルート、ヴァイオリンが加わった。ベースソロを経てまた全員でのアンサンブル。本当に巧妙でうっとりさせられる。

4曲目は「Well Well (for Ruswell Rudd)」。全員で哀切な旋律を奏でる。ピアノが静かにソロを弾き、ドレッサーが見事に美しい弓弾きをみせた。ここでもドレッサーの音はまったく濁らない。かれが弓から指弾きへと変えて、全員が入った。ミッチェルのフルートはとてもよく鳴り、アーリックのクラとの対比が鮮やかだった。ブラックはブラシを使ったのだが、かれらしくばきばきのブラシだった。ピアノとベースとが切ないような基盤を創った。

5曲目は言わなかったがCDと同じだとすれば「I Can Smell You Listening (For Alexandra Montano)」。ベースのアルコとヴァイオリンとのデュオから始まり、ミッチェルがユニゾンで入ってきた(なんて美しい)。そして各人がじわじわと入ってくるのだが、その段階でも、声をまじえて吹くミッチェルのフルートが本当に素晴らしい。このようなサウンドを聴かせてもらい途中で閾値を超える感覚をもつ。クラのソロ、ピアノトリオ、ドラムソロ、それらが順次組み合わさり、最後は静々とアンサンブルで終息した。

ここで既に20時半過ぎからスタートした演奏が21時50分頃になっていて、ドレッサーが「10時を回ってもいいのか?」と確認。6曲目も言わなかったが、同じく推測するに「Newtown Char」。アーリックのバスクラから始まり、ドレッサーのアルコ、そしてフルート、ヴァイオリン、トロンボーンが入った。やがてベース、ヴァイオリン、ピアノが残され、弦の重なりにピアノがかぶさることの快感。ドレッサーが指で弾き始めるとサウンドはドライヴモードとなった。アーリックが真ん中に進み出てきてクラのソロ、待ってましたという感じ(2015年に観たときには意外にふくよかだと感じたのだが、やはり突破的)。ブラックは絶好調、ドレッサーのベースにはさまざまなサブトーンが混じってくる。アンサンブル内でミッチェルが吹く幽玄なフルート、また話しながら吹いてもまったく濁らない。相変わらずドレッサーが主導するサウンドであり、終盤には、弦に手を叩きつける激しいソロもみせたのだが、それによるクラスターもカオスではなく明確に分解されるような特徴的な音に聴こえた。そして幾度となくストップ・アンド・ゴー。

7曲目、「ごく短く」と断りつつ、「Two Handful of Peace (For Daniel Jackson)」。アーリックのバスクラとミッチェルのフルートとが旋律を朗々と吹いた。

終わった時には22時15分。ずっと飽きず、この時間内で考えられないほどの変化があり、一貫してドレッサーの創るサウンドに他ならないものだった。オレゴンから来たという、隣に座ったご婦人は、感動を隠せないわたしに「exceptionalだった」と言った。しばらくは脳内でこの音が響き、後になって涙腺がゆるんできた。

演奏後にニコール・ミッチェルさんと話した。とても素敵な人だった。先日わたしがインタビュー記事を翻訳したあと、ミッチェルさんは、日本に行って演奏したい、坂田明さんをリスペクトしている、と書いてきたのだったが、その話をすると「いつか」と。

●マーク・ドレッサー
『苦悩の人々』再演
(2011年)
スティーヴ・リーマン『Interface』(2003年)
ジェリー・ヘミングウェイ『Down to the Wire』(1991年)
ジョン・ゾーン『Spy vs. Spy』(1988年)

●ニコール・ミッチェル
ニコール・ミッチェル『Mandorla Awakening II: Emerging Worlds』(2015年)
ニコール・ミッチェル『Awakening』、『Aquarius』(2011、12年)
「JazzTokyo」のNY特集(2017/7/1)
「JazzTokyo」のNY特集(2017/5/1)

●マーティ・アーリック
マイラ・メルフォード+マーティ・アーリック@The Stone(2015年)
ブッチ・モリス『Dust to Dust』(1991年)

●ジム・ブラック
ジム・ブラック『Malamute』(2016年)
アンドリュー・ディアンジェロ『Norman』(2014年)
ピーター・エヴァンス『Destiation: Void』(2013年)
ピーター・エヴァンス『Ghosts』(2011年)
Human Feel 『Galore』(2007年) 
ヒルマー・イエンソン『MEG NEM SA』、アンドリュー・ディアンジェロ『Skadra Degis』(2006、2007年)
三田の「みの」、ジム・ブラック(『Habyor』2004年、『Splay』2002年)
エド・シュラー『The Force』(1994年)


Pulverize the Sound、ケヴィン・シェイ+ルーカス・ブロード@Trans-Pecos

2017-09-12 22:53:51 | アヴァンギャルド・ジャズ

そんなわけで、ブルックリンのBushwick Public Houseから、掛け持ちするケヴィン・シェイと、クイーンズのTrans-Pecosまで20分歩いた。ちょうど1組目のバンドが演奏を終えるところだった。(2017/9/11)

■ Pulverize the Sound

Peter Evans (tp)
Tim Dahl (b)
Mike Pride (ds)

このバンドは2015年にThe Stoneで観たのだが(Pulverize the Sound@The Stone)、そのときよりも多彩さが増しているように感じた。

ティム・ダールが煽る中で、マイク・プライドが、酸素が足りなくなるのではないかと思えるほどに、ひたすら全身全霊でサウンドにパルスを打ち込んでいる。そしてピーター・エヴァンスのトランペットは、マシンガン、グロウル、循環。この人の堂々とした体躯があって成り立つワザの数々かもしれない。そしてやはりコンセプチュアルなプレイヤーなのだろう。

猪突猛進だけでなく、ゆっくりと何度も同じパターンを繰り返す悪夢的な要素もあった。

●ピーター・エヴァンス
Pulverize the Sound@The Stone(2015年)
Rocket Science変形版@The Stone(2015年)
エヴァン・パーカー US Electro-Acoustic Ensemble@The Stone(2015年)
トラヴィス・ラプランテ+ピーター・エヴァンス『Secret Meeting』(2015年)
ブランカート+エヴァンス+ジェンセン+ペック『The Gauntlet of Mehen』(2015年)
エヴァン・パーカー ElectroAcoustic Septet『Seven』(2014年)
MOPDtK『Blue』(2014年)
チャン+エヴァンス+ブランカート+ウォルター『CRYPTOCRYSTALLINE』、『Pulverize the Sound』(2013、15年)
ピーター・エヴァンス『Destiation: Void』(2013年)
ピーター・エヴァンス+アグスティ・フェルナンデス+マッツ・グスタフソン『A Quietness of Water』(2012年)
『Rocket Science』(2012年)
MOPDtK『(live)』(2012年)
ピエロ・ビットロ・ボン(Lacus Amoenus)『The Sauna Session』(2012年)
ウィーゼル・ウォルター+メアリー・ハルヴァーソン+ピーター・エヴァンス『Mechanical Malfunction』(2012年)

ピーター・エヴァンス+サム・プルータ+ジム・アルティエリ『sum and difference』(2011年)
ピーター・エヴァンス『Ghosts』(2011年)
エヴァン・パーカー+オッキュン・リー+ピーター・エヴァンス『The Bleeding Edge』(2010年)
ピーター・エヴァンス『Live in Lisbon』(2009年)
MOPDtK『The Coimbra Concert』(2010年)
ウィーゼル・ウォルター+メアリー・ハルヴァーソン+ピーター・エヴァンス『Electric Fruit』(2009年)
オッキュン・リー+ピーター・エヴァンス+スティーヴ・ベレスフォード『Check for Monsters』(2008年)
MOPDtK『Forty Fort』(2008-09年) 

●マイク・プライド
Pulverize the Sound@The Stone(2015年)
ヨニ・クレッツマー『Book II』(2014年)
チャン+エヴァンス+ブランカート+ウォルター『CRYPTOCRYSTALLINE』、『Pulverize the Sound』(2013、15年)
マイク・プライド『Birthing Days』(2012年)
ジョン・イラバゴン『I Don't Hear Nothin' but the Blues』 (2009年)
アンドリュー・ディアンジェロ『Morthana with Pride』(2004年)

■ ケヴィン・シェイ+ルーカス・ブロード  

Kevin Shea (ds)
Lucas Brode (g) 

先の演奏ではそれでもまだジャズ的な枷の中で暴れていたケヴィン・シェイだが、ここでは、もっとハチャメチャになった。 ルーカス・ブロードが変態っぽく淡々といろいろな音を繰り出す横で、リミッターを外して遊びまくる。

終盤では、ティム・ダールがふざけて横からスティックだの帽子だのぬいぐるみだのを投げ込み、ステージは狂乱状態となった。

●ケヴィン・シェイ
Bushwick improvised Music series @ Bushwick Public House(2017年)
ヨニ・クレッツマー『Five』、+アジェミアン+シェイ『Until Your Throat Is Dry』(JazzTokyo)(2015-16年)
クリス・ピッツィオコス『Gordian Twine』(2015年)
MOPDtK『Blue』(2014年)
MOPDtK『(live)』(2012年)
MOPDtK『The Coimbra Concert』(2010年)
ピーター・エヴァンス『Live in Lisbon』(2009年)
MOPDtK『Forty Fort』(2008-09年) 

Fuji X-E2、XF60mmF2.4

ここにはNY滞在中のヴォイスの山崎阿弥さんがいらしていて、マンハッタンまで愉しく話をしながら帰った。 


Bushwick improvised Music series @ Bushwick Public House

2017-09-12 21:20:45 | アヴァンギャルド・ジャズ

ブルックリンのBushwick Public Houseに足を運び、「Bushwick improvised Music series」という一連のインプロを観る(2017/9/11)。

ケヴィン・シェイのウェブサイトからFBの告知にたどり着いた。時間前に入ったわたしは客第一号、その後も数人。他に来ても、対バンのミュージシャンやそのガールフレンドなど。東京のライヴハウスと同じようなものだ。

近所に住むスティーヴン・ガウチがこれを定期的に企画しているということで、準備をいろいろとしていた。暇そうにしているわたしにも食べかけの菓子をくれたり、動画を録るためのルミックスは型落ちでたった40ドルだったとか、何だかいい感じ。

■ エリック・プラクス+アーロン・ネイムンワース+ショーン・コンリー+ジョン・パニカー

Eric Plaks (key)
Aron Namenwirth (banjo, g)
Sean Conly (b)
Jon Panikkar (ds)

ベースのショーン・コンリー以外はまるで知らない面々。

リーダーはアーロン・ネイムンワースのようで(口数が少ない)、バンジョーとギターからメタリックな音を出した。またEbowのようなものを弦に近づけて、アンビエントな効果を出した。

やはりコンリーは安定的に不穏であり、指と弓の他に棒を使ったり、弦の下にアルミホイルを巻いたり、手で胴を擦ってまるでドラムスのブラッシュワークのような音を発したりした。

不穏さにはエリック・プラクスのキーボードも貢献していて、ダークな音には惹きつけられた。左手を痙攣させてその側面で鍵盤を叩いたり、憑依したように鍵盤の左右から中心へと攻めたりと、なかなか癖のある人のようだった。構造をその都度創り出すサウンド、つまり構造は無きがごとしか。

●ショーン・コンリー
ヨニ・クレッツマー・トリオ@Children's Magical Garden(2017年)
ヨニ・クレッツマー『Five』、+アジェミアン+シェイ『Until Your Throat Is Dry』(JazzTokyo)(2015-16年)
ヨニ・クレッツマー『Book II』(2014年)
ジェシ・スタッケン『Helleborus』(2014年)
ヨハネス・ウォールマン『The Town Musicians』(2013年)

■ スティーヴン・ガウチ+アダム・レーン+ケヴィン・シェイ

Stephan Gauci (ts)
Adam Lane (b)
Kevin Shea (ds)

cleanfeedなど有名なレーベルからもCDを出しているガウチだが、音は聴いたことがなかった。驚いたことにほぼフラジオの高音で攻め続けるスタイルであり、ほかのふたりのエネルギーと相まって興奮状態を生みだしていた。(演奏後にガウチに訊くと、高音が耳から入るとテンションが上がっていくから好きなんだと言った。)

アダム・レーンのベースはやはり大変なテクニシャンぶりで、特に高速でのアクロバティックな指弾きが特筆すべきものかと思った。

ケヴィン・シェイも負けてはおらず、すさまじくシャープでガジェット的で人間的。とにかく叩く、というよりは、とにかく動く。

●アダム・レーン
アダム・レーン『Full Throttle Orchestra』(2012年)
アダム・レーン『Absolute Horizon』(2010年)
アダム・レーン『Oh Freedom』
(2009年)
4 Corners『Alive in Lisbon』(2007年)

●ケヴィン・シェイ
ヨニ・クレッツマー『Five』、+アジェミアン+シェイ『Until Your Throat Is Dry』(JazzTokyo)(2015-16年)
クリス・ピッツィオコス『Gordian Twine』(2015年)
MOPDtK『Blue』(2014年)
MOPDtK『(live)』(2012年)
MOPDtK『The Coimbra Concert』(2010年)
ピーター・エヴァンス『Live in Lisbon』(2009年)
MOPDtK『Forty Fort』(2008-09年) 

■ ブリガン・クラウス+アルバロ・ドメーン

Briggan Krauss (as)
Albaro Domene (g, electronics)

ブリガン・クラウスはCDでも前に観たときもよくわからなかった。吉田野乃子さんが「JazzTokyo」誌において、敢えて不自由な吹き方をするのだと書いていて、そのつもりで観ると腑に落ちるところがあった。

クラウスはサックスにタオルを詰め、音が出てこないのに出そうとして吹いた。また、脚にサックスを押し付けて、やはり、音が出てこないのに出そうとして吹いた。それも驚くほどの猛進ぶり。普通は音を消したり抑えたりするものである。かれは吹くために吹かないようにしているのである。

また、アルバロ・ドメーンのエレクトロニクス・ギターとの相性はとても良い。クラウスがギターに擬態する瞬間もあった。

●ブリガン・クラウス
アンドリュー・ドルーリー+ラブロック+クラウス+シーブルック@Arts for Art
(2015年)
アンドリュー・ドルーリー『Content Provider』(2014年)
ブリガン・クラウス『Good Kitty』、『Descending to End』(1996、1999年)

近くの場所でもライヴをやっていて、ケヴィン・シェイは掛け持ちだという。ちょうどシェイが、最初のバンドが演奏をはじめたみたいだと教えてくれて、一緒に20分歩いて次の場所に向かった。(既に次のバンドでアダム・レーンと共演するニューマン・テイラー・ベイカーが到着していたし、その次には、前日に観たばかりのトーマス・ヘルトンとジョー・ヘルテンシュタインが共演するようで、居残りたくもあったのだが、ここは選択しなければならない。)

急ぎ足で歩く間、シェイが参加するバンド「Mostly Other People Do the Killing」や「Talibam!」や「People」について色々と話を訊いた。

Fuji X-E2、XF35mmF1.4、XF60mmF2.4


ホイットニー美術館のエリオ・オイチシカ回顧展と抵抗の歴史展

2017-09-12 20:25:32 | 中南米

新ホイットニー美術館に行った(2017/9/11)。

■ エリオ・オイチシカ回顧展

ブラジル出身のエリオ・オイチシカの回顧展が開かれている(Hélio Oiticica: To Organize Delirium)。

オイチシカがどんなアーティストであったかをまとめて言うことは難しそうだ。スタイルは変遷し、絵画、インスタレーション、政治運動、アクション、映画など手段も多様である。これらを括って「トロピカリア運動」と称しても、確かに西欧に対するアンチテーゼというニュアンスは伝わるものの、それはキーワードでしかない。

つまりこのように様々な活動の痕跡を眺め、立ち止まり、困惑することが、オイチシカを体験することに他ならないように思える。

ハンモックの参加型作品がある(眠ってしまいそうなので横たわらなかった)。政治的にブラジルにとどまることができなくなりNYに来たときの映画がある(スーパー8!)。それらは強い自己確立の光を放っている。

また、ブラジルに戻ったあと、人びとに好きなものを着てサンバを踊ってもらうという活動の記録がある。色やかたち、それが持つ歴史的・記憶的な意味があり、選択と記録ということがとても重要だと伝わってくる。

この展覧会と連動させて、アート・リンゼイがライヴやトークをいろいろと行っていた。そのひとつも覗いてみたのだが(アート・リンゼイ+グスタヴォ・ヂ・ダルヴァ@ホイットニー美術館)、簡単には大きな物語に回収させまいとする意思を感じた。

■ 抵抗の歴史展

別のフロアでは抵抗の歴史展(An Incomplete History of Protest: Selections from the Whitney’s Collection, 1940–2017)。

これもまた、地域も意味も時代もさまざまである。公民権運動のファニー・ルー・ヘイマーを撮ったポートレイト(ルイス・H・ドレイパー)。アメリカの日系人収容所で宮武東洋が撮った写真。兵士の服だけを使い、強烈なベトナム戦争への反対の意思を感じる作品(エドワード・キーンホルツ)。

現代ということになれば、ヘイトの罪を直接的に訴えた作品(フェイス・リングゴールド)。

2年前に、MOMA PS1において、やはり様々な場所や時代における異議申し立てを特集した「ゼロ・トレランス」展があった。最近、SNS上のヘイト放置に抗する路上での運動があったが、それもまた、このような文脈から正当なアクションとして位置づけられる。


ジョー・マグナネリ・クインテット@Smalls

2017-09-12 03:38:34 | アヴァンギャルド・ジャズ

もう22時をまわっていたが、どジャズが猛烈に聴きたくなり、Smallsに足を運んだ(2017/9/11)。ジョー・マグナネリの22時半の回はソールドアウト(なぜここはいつも混んでいるのか)。

しかたなく近くのMezzrow(Smallsの姉妹店)で次の回まで時間をつぶすことにした。デイナ・スティーヴンスがEWIを吹いていてラッキーだと思ったのだが、ほどなく演奏が終わってしまった。毒にも薬にもならないようなギタートリオを聴きながらビールを飲んでいると、常盤武彦さんに遭遇した。

23時半ころにSmallsに戻るともう列が出来ていた。ずっと居続けてもいい店だが回転が早く、前の方の席を確保できた。

Joe Magnarelli (tp)
Robert Edwards (tb)
Anthony Wonsey (p)
David Wong (b)
Victor Lewis (ds)
Guest:
Roy Hargrove (tp)

ジョー・マグナレリのトランペットはストレートで上品。個人的には、90年代に来日したときにいちどだけ観たアンソニー・ウォンジーのピアノプレイを観たかったのだ。それはやはり、シンプルでタッチが力強く、熟練を感じさせるものだった。そしてヴィクター・ルイスのドラムスは硬く攻める感じでよかった。

どジャズなのでぼんやりとリラックスしながら聴いていた。ドラムスのケニー・ワシントンも居たのだが叩かなかった。その次になんとロイ・ハーグローヴが現れ、嬉しいことに、1曲「Misty」で飛び入りしてくれた。何かが籠っていて、そこで適度に熟成させて出てくるような、素敵な音だった。

Fuji X-E2、XF60mmF2.4

●ヴィクター・ルイス
チャーネット・モフェット『Music from Our Soul』(2014-15年)
ジェレミー・ペルト『Tales, Musings and other Reveries』(2014年)
ジェレミー・ペルト@SMOKE(2014年)
ソニー・シモンズ『Mixolydis』(2001年)
ジョージ・アダムスの甘甘作品(1988年)


クレイグ・テイボーン@The Stone

2017-09-12 03:02:14 | アヴァンギャルド・ジャズ

クレイグ・テイボーンのソロピアノを観るためにThe Stoneに足を運んだ(2017/9/11)。

以前は1日に別々の2セットだったのに、移転を前にして、1日1セットになってしまっている。20時半スタートだから20時前に行けばいいだろうと思って着いたところ、既に20人くらいが列を作って待っていた。中に入ると、前夜に逢ったヘンリー・グライムス夫妻とお弟子さんがいた。

以前にこのStoneでテイボーンを観るはずだったのが(ピーター・エヴァンス、エヴァン・パーカーとの共演)、なぜか当人のスケジュールに反映されておらず現れなかったことがあった。それもあってとても嬉しい。

Craig Taborn (p)

最初は、7-8秒程度の間隔を開けて単音を弾き、これを4音から7音くらい続ける。次に間隔を1-2秒に短くして、また単音。そのうちに和音を混ぜたり、微妙に和音の発生をずらしたりして、テンションに濃淡をつけてゆく。やがて、響きを長く保つようにしながら、直前の音を再度弾き、音の大きさにコントラストを付けたりする。こうして、緊張から多様さへの展開がある。

やや次への間があって、テイボーンが腰を浮かせ、発想がそこで生まれたかのように、座りながら次の展開がはじまった。それは力強いクラスターの数々であり、その中からブルースが流れ出てきた。アブドゥーラ・イブラヒムを思わせる瞬間もあった。

2曲目はブルースの上にトリッキーな仕掛けがあり、そのサウンドの身の丈が大きくなってゆき、突然断ち切られた。

3曲目はクラシックのような流れるような旋律に、複雑さと機動性が加わっていった。旋律には歓びが入り込んでゆき、和音で構造が組み上げられる。やがてテンションを鎮めるかのように単音に戻った。

4曲目は、装飾音を入れながらも、ひとつひとつの音が絞られて強く美しく、耳を刺した。内部奏法では弦を撫でるような音も発した。そして一音一音の響きが強まってゆき、また力強いベースラインとともに流れていった。

ここで、私の隣に座っていた男が突然ふらふらしたかと思うと、前のめりに頭から崩れ落ちた。テイボーンも演奏をやめた。会場は騒然とした。(終わった後も救急車が外に居て様子を見ていた。)

まずは大丈夫そうだったのでみんな安心した。テイボーンは「ほとんど終わったのだけど」と笑い、それまでの抽象的・構造的なものから一転し、歓びと哀しみとに満ちた旋律を弾いた。力強い盛り上がりのあとに、また旋律が静かに残された。見事だった。

●クレイグ・テイボーン
クレイグ・テイボーン+イクエ・モリ『Highsmith』(2017年)
クレイグ・テイボーン『Daylight Ghosts』(2016年)
チェス・スミス『The Bell』(2015年)
クレイグ・テイボーン『Chants』(2013年)
クリス・ライトキャップ『Epicenter』(2013年)
クリス・ポッター『Imaginary Cities』(2013年)
『Rocket Science』(2012年)
デイヴ・ホランド『Prism』(2012年)
Farmers by Nature『Love and Ghosts』(2011年)
オッキュン・リーのTzadik盤2枚(2005、11年)
ロブ・ブラウン『Crown Trunk Root Funk』(2007年)
アイヴィン・オプスヴィーク『Overseas II』(2004年)
ティム・バーン『Electric and Acoustic Hard Cell Live』(2004年)
ティム・バーン『The Sublime and. Science Fiction Live』(2003年)
ロッテ・アンカー+クレイグ・テイボーン+ジェラルド・クリーヴァー『Triptych』(2003年)


トーマス・ヘルトン+マイケル・ビシオ@Downtown Music Gallery

2017-09-12 02:43:12 | アヴァンギャルド・ジャズ

Downtown Music Galleryでは毎日曜にインストアライヴが行われている。この日(2017/9/11)は、トーマス・ヘルトンとマイケル・ビシオのコントラバス・デュオ。(なおさらにリサ・メザカッパやジョシュ・シントンらも演奏する予定だったが、時間がなくてこのセットだけを観た。)

Thomas Helton (b)
Michael Bisio (b)

ベースデュオの事例は多くないし、キャラの違いがなければ難しいに違いない。しかしこのふたりは全く異なる特徴を持っていた。

マイケル・ビシオの音はどちらかといえば柔らかい。微分的な音を次々に発生させ、それが大きなフローを生んでいた。そのビシオの定常に対し、トーマス・ヘルトンの音は硬く突発的で逸脱的。このコントラストがあってこその面白さがあった。

いったん終えたものの、もう少しやろうというので、今度は二人とも弓で弾いた。やはり指と同じような違いがあって、ビシオの連続性に対しヘルトンの擾乱。

Fuji X-E2、XF35mmF1.4、XF60mmF2.4

●マイケル・ビシオ
マシュー・シップ『Piano Song』
(2016年)
ルイ・ベロジナス『Tiresias』(2008年)


ヨニ・クレッツマー・トリオ@Children's Magical Garden

2017-09-11 23:53:01 | アヴァンギャルド・ジャズ

Arts for Artの「In Gardens 2017」の第6弾は、ヨニ・クレッツマー・トリオ(2017/9/10)。

クレッツマーのCDのレビューや翻訳記事を「JazzTokyo」誌に書いたりして、やり取りは何度もしていたものの、直接会うのははじめてである。もっと重厚で怖い感じを想像していたら、スリムで人当たりもいい好青年。生まれたばかりの子どもを連れてきていてニコニコだった。

ベースは告知されていたシェイナ・ダルバーガーではなく、ショーン・コンリーだった。

Yoni Kretzmer (ts)
Sean Conly (b)
JP Carletti (ds)

驚いたことに、クレッツマーはかなり野性的な吹き方をする。前傾姿勢でテナーを抱え持ち、前後に大きく動きながらブロウする。その音は音源で聴いたとおり、さまざまな情や濁りが混じっており、深い良い音だった。

そしてショーン・コンリーのベースは不穏な音も交えて、それがクレッツマーとのインタラクションを生みだしていた。これがダルバーガーであればまた違ったサウンドになったに違いない。最後の「Song for Che」(チャーリー・ヘイデン)はとても良かった。

クレッツマーからは、この日の夜にウィリアムスバーグでのライヴがあると誘われたのだが、残念ながら不都合。またいつかどこかで観たい。新しいCDを出す予定もあるそうだ。

Fuji X-E2、XF60mmF2.4

●ヨニ・クレッツマー
ヨニ・クレッツマー『Five』、+アジェミアン+シェイ『Until Your Throat Is Dry』(JazzTokyo)(2015-16年)
ヨニ・クレッツマー『Book II』(2014年)
「JazzTokyo」のNY特集(2016/6/1)
「JazzTokyo」のNY特集(2015/8/30)


ジェシカ・ジョーンズ・トリオ@Children's Magical Garden

2017-09-11 23:40:30 | アヴァンギャルド・ジャズ

Arts for Artの「In Gardens 2017」の第5弾は、ジェシカ・ジョーンズ・トリオ(2017/9/10)。

Jesica Jones (ts)
Tony Jones (ts)
Bob Stewart (tuba)

確か事前の告知では、チューバがダン・ペックだったような気がするのだが、現れたのはボブ・スチュワート。20世紀に、レスター・ボウイ・ブラス・ファンタジーのBN東京公演で、ボウイに「He never stops!」と紹介されていた記憶がある。

最初は調子を合わせるようにゆるりと始めた。苛烈な要素はなく、リラックスして聴いていたが、実はそれが持ち味だった。サックスがふわふわと絡み合い、そこに「never stops」ではないが下から気持ちよくチューバが持ち上げ、サウンドをリズミカルに浮揚させた。ドン・チェリーの「Art Deco」やセロニアス・モンクの「Evidence」なんかを演奏した。あとで調べると、ジェシカ・ジョーンズにはドン・チェリーとの共演歴もあった。

Fuji X-E2、XF60mmF2.4

●ボブ・スチュワート
アーサー・ブライス『Hipmotism』(1991年)


ジェイソン・カオ・ファンの「Human Rights Trio」@Children's Magical Garden

2017-09-11 22:59:12 | アヴァンギャルド・ジャズ

Arts for Artの「In Gardens 2017」の第4弾は、ジェイソン・カオ・ファンの「Human Rights Trio」(2017/9/10)。

ホイットニー美術館でのアート・リンゼイのイベントが押したため間に合わないかなと思っていたが、こちらも少し遅れていて、最後のあたりを観ることができた。

Jason Kao Hwang (vln)
Andrew Drury (ds)
Ken Filiano (b)

そんなわけで時間にして15分くらいだが、面白さがあった。

ジェイソン・カオ・ファンは中国系アメリカ人で、ヘンリー・スレッギルの『Too Much Sugr for a Dime』や『Carry the Day』でも演奏している。この人のサウンドは愉しさを出したもののようで、リラックスできた。

そして音のまんまの音を出すアンドリュー・ドルーリー。2015年に観たときには、直前にチャールズ・ゲイルとの共演がなくなり本人はがっかりしていた。終わったあとにそんな話をしようかと思ったがくだらないのでやめた。

Nikon P7800

●アンドリュー・ドルーリー
アンドリュー・ドルーリー+ラブロック+クラウス+シーブルック@Arts for Art(2015年)
アンドリュー・ドルーリー『Content Provider』(2014年)


アート・リンゼイ+グスタヴォ・ヂ・ダルヴァ@ホイットニー美術館

2017-09-11 22:35:51 | 中南米

ホイットニー美術館でブラジルのエリオ・オイチシカ回顧展が開かれている。それと連動させて、アート・リンゼイが「Myth Astray」という企画でトークショーやライヴを仕掛けており、足を運んだ(2017/9/10)。これが美術展のチケットで入れるのだからなかなかだ。

Arto Lindsay (g, vo)
Gusavo di Dalva (perc, vo)

定刻の13時になっても適当に準備などしていて、人もまばらである。スタジオの中にはウレタンフォームを折り曲げたものがいくつも置かれていて、みんなそこに座ってだらだらと待っている。

20分くらい経って、おもむろにアート・リンゼイとグスタヴォ・ヂ・ダルヴァが現れ、強烈な逆光のなかで演奏を始めた。

ダルヴァもまたブラジルのパーカッショニスト。叩き歌い、自由な雰囲気が場を支配する。

それに対し、今に始まったことではないが、アート・リンゼイは弱弱しく、ヴァルネラブルな印象があり、しかしそれとは対照的なノイズギターを弾いた。この相反する要素がリンゼイの魅力に違いない。沢山のスピーカーから声と音が遅れてやってきて、強烈で普遍的な懐かしさのようなものが訪れた。

Nikon P7800


ベン・モンダー・トリオ@Cornelia Street Cafe

2017-09-11 21:30:31 | アヴァンギャルド・ジャズ

濃密なNY初日の最後に、Cornelia Street Cafeにてベン・モンダー・トリオ(2017/9/9、2nd)。

Ben Monder (g)
Tony Malaby (ts, ss)
Andrew Cyrille (ds)

どこからみても凄い組み合わせのトリオなのだが、演奏は名前によるフェティシズムを遥かに凌駕していた。

全員が同時にゆるりと始めた。ベン・モンダーのギターはバッキングでもあり前面にも出てくる。ときにオーケストラ的にもなり、そんなときは音がとても大きいのだが、他のふたりが音量で消されることはない。

アンドリュー・シリルのドラミングを3年前にVillage Vanguardで観たときには、武術の達人のような半端ないキレに感激した。この日もそれは健在としか言いようがなかった。スティックの自重で叩いているように見えるほど無駄がなく、シンバルを叩く音の綺麗さは特筆ものである。まさに口を開けてずっと眼と耳で追いかけてしまうドラミングなのだ。

モンダーがカントリー風のコードから始め音を積み重ねてゆくと、トニー・マラビーのテナーがギター化しハウルとも錯覚させる音を発した。マラビーはときにテナーのマウスピースを深くくわえグロウルするような深い音も出し、またそれがソプラノであると敢えて周波数をチャルメラのようによれさせもするのだった。この人のとらえきれなさと深さといったらない。

もちろんシリルは淡々と叩いているだけではなく、激しくスティックで強打したり、タイコを下から手で叩いたりと(これは隣に居合わせたヘンリー・グライムスの奥様のマーガレット・デイヴィスさんがほらほら見なさいと突っついてくれた)、過激なふたりに介入し通じ合う。

バンドの音は常にピークであり、連続的であった。最初の演奏が終わったとき、多くの人の口から自然な歓声が漏れた。あまりにも素晴らしかった。

次の曲は、マラビーがソプラノを共鳴させず息遣いだけを増幅させ、モンダーがアンビエントにそれを包む。シリルは最初はブラシ1本、やがて2本。これが重層的になってきて、高音でギターとソプラノが重なるところなんて悦楽的でもあった。シリルのブラッシュワークも見事。

3曲目はシリルのスティックさばき、その中にモンダーとマラビーが相次いでぐきゃりと介入してくる。テナーが主導するピーク、ギター1本のオーケストラサウンド、激しいシリルのドラミング、これらが大きな響きをさらに大きくしていった。一転し、静かになり、アンビエント的なギターの中を、マラビーがテナーで「Moon River」ふうの小唄を吹いた。

ところで、演奏の前にヘンリー・グライムスが隣の席に座ろうとしていて仰天した。奥様のマーガレットさんと、もう10年前の「KAIBUTSU LIVEs!」(2007年)の話なんかをした。韓国での演奏は故あってイマイチだったというのだが、日本の演奏はとても印象的だったようで、原田依幸、トリスタン・ホンジンガー、ルイス・モホロと名前を挙げては愉快そうだった。またお弟子さんからはCDをいただいた。

(マーガレットさんが紹介してくれて)アンドリュー・シリルと話をした。シリルは、また日本に行きたいと言った。高橋悠治、(お互いに名前が出てこなかったが)三宅榛名、富樫雅彦との共演を懐かしそうに口にした。悠雅彦さんは元気かとも言った。

Fuji X-E2、XF60mmF2.4

●ベン・モンダー
マリア・シュナイダー・オーケストラ@ブルーノート東京(2017年)
ベン・モンダー『Amorphae』(2010、13年)
ビル・マッケンリー+アンドリュー・シリル@Village Vanguard(2014年)
トニー・マラビー『Paloma Recio』(2008年)
ビル・マッケンリー『Ghosts of the Sun』(2006年)

●トニー・マラビー
アイヴィン・オプスヴィーク『Overseas V』(JazzTokyo)(2016年)
トニー・マラビー+マット・マネリ+ダニエル・レヴィン『New Artifacts』(2015年)
トニー・マラビー『Incantations』(2015年)
チャーリー・ヘイデンLMO『Time/Life』(2011、15年)
アイヴィン・オプスヴィーク Overseas@Seeds(2015年)
ハリス・アイゼンスタット『Old Growth Forest』(2015年)
ジェシ・スタッケン『Helleborus』(2014年)
クリス・ライトキャップ『Epicenter』(2013年)
トニー・マラビー『Scorpion Eater』、ユメール+キューン+マラビー『Full Contact』(2013、08年)
トニー・マラビー『Adobe』、『Somos Agua』(2003、13年)
リチャード・ボネ+トニー・マラビー+アントニン・レイヨン+トム・レイニー『Warrior』(2013年)
チェス・スミス『International Hoohah』(2012年)
アイヴィン・オプスヴィーク『Overseas IV』(2011年)
ポール・モチアンのトリオ(2009年)
ダニエル・ユメール+トニー・マラビー+ブルーノ・シュヴィヨン『pas de dense』(2009年)
トニー・マラビー『Paloma Recio』(2008年)
アイヴィン・オプスヴィーク『Overseas III』(2007年)
クリス・デイヴィス『Rye Eclipse』(2007年)
アイヴィン・オプスヴィーク『Overseas II』(2004年) 

●アンドリュー・シリル
トリオ3@Village Vanguard(2015年)
アンドリュー・シリル『The Declaration of Musical Independence』(2014年)
アンドリュー・シリル+ビル・マッケンリー『Proximity』(2014年)
ビル・マッケンリー+アンドリュー・シリル@Village Vanguard(2014年)
ベン・モンダー『Amorphae』(2010、13年)
トリオ3+ジェイソン・モラン『Refraction - Breakin' Glass』(2012年)
アンドリュー・シリル『Duology』(2011年)
US FREE 『Fish Stories』(2006年)
アンドリュー・シリル+グレッグ・オズビー『Low Blue Flame』(2005年)
バーグマン+ブロッツマン+シリル『Exhilaration』(1996年)
ビリー・バング+サン・ラ『A Tribute to Stuff Smith』(1992年)
1987年のチャールズ・ブラッキーン(1987年)
アンドリュー・シリル『Special People』(1980年)
アンドリュー・シリル『What About?』(1969年) 


トム・レイニー・トリオ@The Jazz Gallery

2017-09-10 22:57:23 | アヴァンギャルド・ジャズ

The Jazz Galleryにてトム・レイニー・トリオ(2017/9/9)。

Tom Rainey (ds)
Ingrid Laubrock (ts, ss)
Mary Halvorson (g)

シンバルを斜めに斬るようなトム・レイニーの動きからはじまり、イングリッド・ラウブロック、メアリー・ハルヴァーソンのふたりが両翼からサウンドを厚塗りしてゆく。それはレイニーがマレットを持ったところから前進を始め、ハルヴァーソンのギターはベースのように駆動する。ソロになったときの彼女の常ならぬ時空間の歪ませぶりといったら筆舌に尽くしがたい。ルーパーも使い、何が何やらわからずつい笑ってしまう。

ラウブロックのテナーは相変わらず豊潤であり、ハウリングのような効果も出し、それをハルヴァーソンがシンクロさせる。レイニーのドラムスを観るのははじめてではないのだが、光る撒き菱のような印象とは違って、ここまで力強いものだったかと驚いた。まるで斧のような瞬間も少なくない。

2曲目で変態度が増した。ギターだと思ったらレイニーが手でタイコを擦っており、それがテナーと同調した。ギターは一転してコードを弾く。ラウブロックの地を這うような低音。そしてハルヴァーソンは左手で弦を抑え右手で鍵盤を速弾きするようにしたり激しくスライドしたりとわけがわからない。

3曲目はテナーとドラムスとが中心となってはじまり、やがて、ラウブロックが「Donna Lee」のようなバップ曲的な旋律を吹き、愉快な意外感に襲われる。それもダークな。待って満を持して入ったハルヴァーソンの指はまるでジャコパスであり、彼女もダークなバップを執拗に繰り返す。まるで悪夢だ。互いの役割が固定されず入れ替わり、魔術のようだった。

4曲目、遊ぶような、きらめくような、レイニーのスティックさばき(これが今までの印象だった)。それとともに、ラウブロックが持ち替えたソプラノを吹く。はじめは一筆書きのように長く、やがてじわじわと細分化されていく。ハルヴァーソンは丁寧にコードをのせるようでいて、そこは当代一の変態、きらびやかに歪ませてゆき、こちらは歓喜で顔が歪んだ。

アンサンブルというにはあまりにも個人的であり過ぎて、しかもサウンドが一体化していた。完璧だった。

Fuji X-E2、XF60mmF2.4

●トム・レイニー
イングリッド・ラウブロック UBATUBA@Cornelia Street Cafe(2015年)
イングリッド・ラウブロック『ubatuba』(2014年)
イングリッド・ラウブロック+トム・レイニー『Buoyancy』(2014年)
イングリッド・ラウブロック、メアリー・ハルヴァーソン、クリス・デイヴィス、マット・マネリ @The Stone(2014年)
イングリッド・ラウブロック(Anti-House)『Roulette of the Cradle』(2014年)
トム・レイニー『Hotel Grief』(2013年)
トム・レイニー『Obbligato』(2013年)
イングリッド・ラウブロック(Anti-House)『Strong Place』(2012年)
クリス・デイヴィス『Rye Eclipse』、『Capricorn Climber』(2007、2012年)
イングリッド・ラウブロック『Zurich Concert』(2011年)
ティム・バーン『Electric and Acoustic Hard Cell Live』(2004年)
ティム・バーン『The Sublime and. Science Fiction Live』(2003年)
ティム・バーン+マルク・デュクレ+トム・レイニー『Big Satan』(1996年)

●イングリッド・ラウブロック
イングリッド・ラウブロック UBATUBA@Cornelia Street Cafe(2015年)
ヴィンセント・チャンシー+ジョシュ・シントン+イングリッド・ラウブロック@Arts for Art(2015年)
アンドリュー・ドルーリー+ラウブロック+クラウス+シーブルック@Arts for Art(2015年)
メアリー・ハルヴァーソン『Away With You』(2015年)
イングリッド・ラウブロック+トム・レイニー『Buoyancy』(2014年)
イングリッド・ラウブロック『ubatuba』(2014年)
イングリッド・ラウブロック、メアリー・ハルヴァーソン、クリス・デイヴィス、マット・マネリ @The Stone(2014年)
イングリッド・ラウブロック(Anti-House)『Roulette of the Cradle』(2014年)
アンソニー・ブラクストン『Ao Vivo Jazz Na Fabrica』(2014年)
ネイト・ウーリー『Battle Pieces』(2014年)
アンドリュー・ドルーリー『Content Provider』(2014年)
トム・レイニー『Hotel Grief』(2013年)
トム・レイニー『Obbligato』(2013年)
イングリッド・ラウブロック(Anti-House)『Strong Place』(2012年)
クリス・デイヴィス『Rye Eclipse』、『Capricorn Climber』(2007、2012年)
イングリッド・ラウブロック『Who Is It?』(1997年)

●メアリー・ハルヴァーソン
メアリー・ハルヴァーソン『Away With You』(2015年)
イングリッド・ラウブロック、メアリー・ハルヴァーソン、クリス・デイヴィス、マット・マネリ @The Stone(2014年)
『Illegal Crowns』(2014年)
トマ・フジワラ+ベン・ゴールドバーグ+メアリー・ハルヴァーソン『The Out Louds』(2014年)
メアリー・ハルヴァーソン『Meltframe』(2014年)
アンソニー・ブラクストン『Ao Vivo Jazz Na Fabrica』(2014年)
イングリッド・ラウブロック(Anti-House)『Roulette of the Cradle』(2014年)
『Plymouth』(2014年)
トム・レイニー『Hotel Grief』(2013年)
チェス・スミス『International Hoohah』(2012年)
イングリッド・ラウブロック(Anti-House)『Strong Place』(2012年)
イングリッド・ラウブロック『Zurich Concert』(2011年)
メアリー・ハルヴァーソン『Thumbscrew』(2013年)
ウィーゼル・ウォルター+メアリー・ハルヴァーソン+ピーター・エヴァンス『Mechanical Malfunction』(2012年)
ステファン・クランプ+メアリー・ハルヴァーソン『Super Eight』(2011年)
ウィーゼル・ウォルター+メアリー・ハルヴァーソン+ピーター・エヴァンス『Electric Fruit』(2009年)
アンソニー・ブラクストン『Trio (Victoriaville) 2007』、『Quartet (Mestre) 2008』(2007、08年)