山里に生きる道草日記

過密な「まち」から過疎の村に不時着し、そのまま住み込んでしまった、たそがれ武兵衛と好女・皇女!?和宮様とのあたふた日記

帚木蓬生『天に星 地に花』の世界

2015-11-29 18:50:12 | 読書
 ブラボーさんから「ぜひ読むんだよ」とたびたび薦められていた、帚木蓬生の『天に星地に花』(集英社、2014.8.)を読み終える。
 以前読んだ『水神』は、隣の藩の農民と武士との命がけの葛藤を描いた名作だったが、今回は農民から医師になった視点から農民一揆にいたる過程を丁寧に描いた600ページ近くの大作だった。
 幕末の函館戦争で西洋医学をパリで学んだ医師として軍事病院を開設して活躍した、実在の高松凌雲の存在を最後に明らかにするのも推理小説みたいだ。

    
 そのルーツの医師がこの著書の主人公高松凌水(庄十郎)としている。
 庄屋に生まれた庄十郎が医師になった理由は、自分が発病した疱瘡によって母と使用人に伝染し、死なせてしまう。
 また、一揆がおきる寸前に事態を収拾した良心的家老の床の間にあった掛軸に、「天に星 地に花 人に慈愛」としたためてあり、それがその後の庄十郎の座右名となる。
 その言葉は、シンプルだがこの物語と作者の基調ともなっている。

                                 
 しかし、良心的家老が左遷されるとともに年貢が高く改定されてしまう。
 そのことで打ち壊し・農民一揆となるが、藩当局はそれを庄屋と農民との騒擾にすり替えてしまう。
 処分は庄屋や農民に多数の死罪が容赦なく実行される。
 役人・権力の狡猾さや冷たさは、『水神』や『ヒットラーの防具』でもリアルに描かれて作者の怒りが静かに核分裂する。
 
            
 そんな現実の中でも、「命を大切に。志のためにいのちはある。」とか、
 「世の中には面白くはないけれど、大切なこつ、忘れちゃならんこつが、たくさんあります。」とか、
 作者が一貫として貫いている原点を作中人物に「生きる希望」を言わせている。

                                
 また、医者の心得として「貴賤貧富にかかわらず、診察には丁寧、反復、婆心で尽せ」としているのは、精神科医である作者そのものの戒めでもあるように思う。
 だからこそ、高野凌雲が明治に欧州の貧民病院を模範とした民間病院を開設したことにも心を寄せる。

 いつも思うことだが、戦国時代と幕末の中心人物ばかり登場させるゴマすり大河ドラマの罪は大きいということ。
 民衆と共に生きた凌雲のような人物の発掘こそマスメディアのミッションなのではないか、と。
 現代を考えながら帚木蓬生の「人に慈愛を」の中身をじっくり追尾できる大作を紹介してくれた、ブラボーさんの叱咤にまたまた頭が下がる。
 
 
 
            
コメント (2)
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