原題:『遠くでずっとそばにいる』 英題:『Far Away, So Close』
監督:長澤雅彦
脚本:狗飼恭子
出演:倉科カナ/中野裕太/伽奈/清水くるみ/徳井義実/六角精児/岡田奈々
2013年/日本
「印象派」から「ラファエル前派」へ
2013年7月、交通事故の後遺症で記憶障害が残り、10年分の記憶を失ってしまった27歳の主人公である志村朔美が病室から抜け出すと、タバコを吸っている見知らぬ男がいる。その男は谷口工務店を営んでいる谷口正之であることが分かるのであるが、問題なのは2人がいる場所に掲げられているモネの「睡蓮」の絵画である。実は朔美は学生時代に美術部に所属しており、義理の妹である志村美加がボートに乗りながら、まるでジョン・エヴァレット・ミレーの「オフィーリア」、あるいはアーサー・ヒューズの「シャロットの女」のように睡蓮のある水辺を流れるシーンを挟んで、朔美は、一見するならば「睡蓮」が描かれているような作品の全体の半分を見つけ出す。やがて1年半前に付き合っていた男性と一緒に乗車していたクルマで交通事故に遭遇し、男性を亡くしていたことを知る。その男性が残りの半分を持っており、合鍵を持っていた朔美が男性の部屋に入って2つの絵を合わせてみると、その絵は大空をメインに描いた風景画だった。つまり「睡蓮」のように見えていた絵は雲が湧いている青空だったのである。
わざわざモネの名前を朔美に言わせたことから、印象派の光学的な部分をテーマに扱うのかと思いきや、「睡蓮」を「青空」に変換したことで、それは「蓮」から「天国」という説話論的に処理されることになるものの、この意表をついた演出はラストで空を見上げる倉科カナの美しさも手伝って決して悪いものではないと思う。