原題:『映画 みんな!エスパーだよ!』
監督:園子温
脚本:園子温/田中眞一
撮影:神田創
出演:染谷将太/池田エライザ/真野恵里菜/マキタスポーツ/深水元基/神楽坂恵/安田顕
2015年/日本
性欲こそが悪の元凶であることについて
『ピース オブ ケイク』(田口トモロヲ監督 2015年)同様に本作も「心内語」が駆使されるのは両作品共にコミックが原作だからなのだが、やがて本作においては主人公の鴨川嘉郎が持つ超能力のテレパシーとして表現されることになる。
鴨川嘉郎を初め、平野美由紀、榎本洋介、矢部直也、永野輝光を中心とした超能力研究者の浅見隆広教授が率いるエスパー軍団が、ポルナレフ愛子を中心として「世界エロ化計画」を企てる悪のエスパー軍団と対峙することになり、エロを醸し出す美少女たちを目の前に、ヴィジュアルに翻弄されそうになるところを実は「実用性」のものであることを暴き出すように彼女たちを一瞬にしてダッチワイフに変えてしまうジュリー・バブコックも浅見教授側に加わり、様相は混沌としてくる。
クライマックスにおいて嘉郎は美由紀と浅見紗英と共にそれぞれの母親の胎内に入れられ、嘉郎は運命の人を見分けられるはずのメロディーが、いろいろな人に共有されていることを知る。そして嘉郎にとって自分だけは特別だと思っていたポルナレフ愛子でさえ彼の本命ではなく「おかず」でしかないことに愕然とした愛子は戦闘意欲を失うのである。
ようやく平和が訪れ、嘉郎が改めて自慰をする時、相手の顔は見えそうで見えない。それは誰を思い浮かべて自慰をしようか迷っているというよりも、相手を特定しないことで相手に危害を加えないどころか相手といかなる関係も持たないことで諍いを無くそうとする嘉郎の「優しさ」なのである。この「アンチヒーロー」の物語を『ピース オブ ケイク』と一緒に観ることをお勧めする。とりあえず「ヤる」主人公と比較するならば、とりあえず「ヤらない」主人公の「物語」が歪んでいることがよく分かるのであるが、それは決して本作の出来が悪いということではなく、そのような人物を的確に描写しているということである。