MASQUERADE(マスカレード)

 こんな孤独なゲームをしている私たちは本当に幸せなの?

『泣いてたまるか 日本で一番もてない男』

2015-09-22 00:32:39 | goo映画レビュー

原題:『泣いてたまるか 日本で一番もてない男』
監督:高橋繁男
脚本:橋田壽賀子
撮影:森隆吉
出演:渥美清/佐藤オリエ/野村昭子/砂塚秀夫/花沢徳衛/江幡高志/松村達雄
1967年/日本

 日本で一番モテない男が関わる女性の心の闇の深さについて

 主人公の八田万作は31歳になるが、何度お見合いをしても断られてしまい、その間にも部下たちは次々と結婚していき幸せそうに見える。そんな時に部長から見合いの場をセッティングしてもらい、現れたのは何と社内でマドンナ的な存在である部長の秘書の絢子だったのである。
 盛大な結婚式を挙げて一緒に暮らし始めたものの、社内では余りにも不釣り合いな2人に根拠の無い噂が広まり、絢子が以前男性用の靴下を購入していたことや、新居にあるダブルベッドが独身だった絢子が持ってきたことで、万作が絢子の過去に疑心暗鬼を持つようになっていく。
 ここまで観ていくならば万作が卑屈になってこじらせているように見えるが、クライマックスで絢子は驚くべき告白をする。彼女の亡くなった父親はハンサムで実業界では名の通った会社の重役であったがためにモテて、母親が父親の浮気で死ぬまで苦しんだことで絢子はそのような人生を送るのを避けようと万作のような「女の人にモテない男性」を選んだというのである。自分のことだけを愛してくれる人を求めていたという絢子の言葉を万作は好意的に受け止めて物語はハッピーエンドで終わるのだが、理屈としては理解できるものの、万作のもの以上に絢子の心の闇が深く、『ピース オブ ケイク』(田口トモロヲ監督 2015年)と『映画 みんな!エスパーだよ!』(園子温監督 2015年)からの流れを汲むと完全に「物語」としては破綻しており、これで本当に結婚生活が成り立つのだろうかと思ってしまう。これは脚本を担った橋田壽賀子の皮肉と捉えるべきであろう。
 2人の間に映る葡萄の房は、同年に新潮文庫で出版されたジョン・スタインベックの『怒りの葡萄』(大久保康雄訳)からインスピレーションを得たように見えるのは穿ちすぎだろうか。


(渥美清と佐藤オリエの斬新なラストカットは
冒頭の渥美清の一人のカットと見比べるべき)


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