現在、上野の東京都美術館ではボイマンス美術館所蔵のブリューゲル「バベルの塔」展が
催されている。もちろんピーテル・ブリューゲル1世(Pieter Bruegel the Elder)の1568年頃
の作品「バベルの塔(The Tower of Babel)」がメインの展覧会ではあるが、ここでは
J・コック(Jérôme (Hieronymus) Cock)の「聖アントニウスの誘惑(The Temptation of St. Anthony)」
(1522年)を取り上げたい。ここで扱われている「グリロス(頭足人間)」の語源を探るためである。
上の作品はヒエロニムス・ボス(Hieronymus Bosch)の1501年頃に描かれた
「聖アントニウスの誘惑(The Triptych of Temptation of St. Anthony)」の一部であるが、
手前にいるのが頭と足が直接つながっている「グリロス」である。英語では「Headfooter」か
「Bodyfooter」と通常呼ばれているが、「グリロス(Gryllus)」とはギリシア語で「豚」、
ラテン語で「コオロギ」という意味であることは、英国の作家であるマリーナ・ワーナー
(Marina Warner)の「No Go the Bogeyman: Scaring, Lulling and Making Mock」
(2000年)に詳しいらしい。プルタルコス(Plutarch)の「モラリア(Moralia)」の中の
エピソードの一つ「ユリシーズとグリロス(Ulysses and Gryllus)」で、キルケ―(Circe)と
いう妖婦に魔法をかけられた犠牲者の一人で豚にされた男が「グリロス」なのである。