MASQUERADE(マスカレード)

 こんな孤独なゲームをしている私たちは本当に幸せなの?

『キネマの神様』

2021-10-12 00:58:05 | goo映画レビュー

原題:『キネマの神様』
監督:山田洋次
脚本:山田洋次/朝原雄三
撮影:近森眞史
出演:沢田研二/菅田将暉/永野芽郁/野田洋次郎/北川景子/寺島しのぶ/小林稔侍/宮本信子
2021年/日本

映画愛の強さについて

 この作品の肝は若い頃は松竹撮影所で映画制作に携わっていたものの、デビュー作で事故に見舞われたことで挫折し、その後はずっと酒とギャンブルで落ちぶれたままな感じの主人公の円山郷直(ゴウ)が孫の円山勇太の部屋に入って来て勇太が読んでいる映画雑誌を見て「そんな小難しいものを読んでいるのか?」と問うところにあると思う。
 山田監督はここから原作を大胆に変更し、映画は論じるものではなく撮るものだというかのごとくゴウの監督デビュー作だった『キネマの神様』の制作過程を巡る物語が紡がれるのだが、50年後にゴウの孫に『キネマの神様』の脚本が見いだされ、勇太に助けられながらゴウは脚本を現代風にアレンジして木戸賞に応募し入選し、それは未完に終わった『キネマの神様』は佳作であると証明されたことになる。
 つまりこれは映画に対する愛情は、例えば同じ大学の後輩で映画批評家の蓮實重彦がいくら偉そうなことを言い鋭い指摘をし「正しい」ことを言ったとしても制作している山田の方が強いに決まっているという意味であろうし、作品がなければ評価のしようがないのだから全くその通りなのである。
 感心したシーンを挙げておく。寺林新太郎(テラシン)が経営する「テアトル銀幕」にゴウの妻の円山淑子が偶然訪れたのは九年前なのだが、その「九年前」という字幕に映されるショットは明らかにアメリカの写真家であるソール・ライター(Saul Leiter)の、白い雪と赤い傘の写真を意識したものである。いまだに新しいものを取り入れようとする山田監督の意欲が素晴らしいと思う。


gooニュース
https://news.goo.ne.jp/article/eiga_log/entertainment/eiga_log-66438


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