原題:『正欲』
監督:岸善幸
脚本:港岳彦
撮影:夏梅光造
出演:稲垣吾郎/新垣結衣/磯村優斗/佐藤寛太/東野綾香/山田真歩/宇野祥平/渡辺大知/徳永えり/岩瀬亮/板東希/山本浩司
2023年/日本
性癖とフェチの違いについて
正直に言うならば上手く理解できなかった。理解できなかったというよりも主人公で検事の寺井啓喜に同情を禁じ得ない。寺井の息子で小学生の泰希は不登校なのであるが、何故か学校に行く代わりに同じ不登校の友人の冨吉彰良と一緒にYouTouberとして活動すると言い出し、母親の由美も協力して動画を上げるのであるが、父親は検事なのだからお金に困ってはいないはずなのに何故それほど稼ぐことに執着するのか理解できない。まずは学校に行かないまでも家庭教師を雇うか塾かフリースクールに通わせるか家で読書をしてもいいわけで、泰希にはこれといって特別な才能があるようには見えないから単に我儘だと思うのだが、結局、妻と教育方針を巡って対立したままで今は調停中というのである。どう考えても寺井の言い分が正しいと思う。
桐生夏月と佐々木佳道は高校生の同級生だったのだが、2003年の時、藤原悟という男が蛇口を盗んだという新聞記事に反応し、その後、高校のグラウンド内の蛇口を壊して水しぶきを二人で浴びた思い出を残して佐々木は転校して行った。クラスメイトの結婚式で再会した二人は、あの頃を思い出して共通の性癖を持つことを理由に「偽装結婚」して横浜で一緒に暮らすことになる。
やがて共通の性癖を持つ大学生の諸橋大也と小学生の教員である矢田部陽平と共に「水の映像」を撮ろうという話が持ち上がるのだが、谷田部は小児性愛者であり谷田部が児童買春・児童ポルノ禁止法で捕まった際に、一緒に映っていた佐々木と諸橋も2019年9月に逮捕されてしまうのである。理解に苦しむのは水で性的に興奮するというのは性癖というよりも水フェチと呼ぶべきであり、生物を対象とする性癖と無生物を対象とするフェティシズムは区別するべきもので、水フェチだからといって異性を受け付けない人ばかりではないということである。身もふたもない話をするならば、下着や靴と同じように水をセックスの「道具」としてより興奮を求める人もいるのであり、夏月は処女であっても佳道がゴリゴリの絶倫だという可能性もあったわけで、だから夏月と佳道は「水フェチ」以外にさらなる特異な性癖があるのであって、性癖とフェチを一緒くたにしてしまうから寺井には訳が分からないのである。
しかし本作で最も気の毒なのは大学生の神戸八重子で、トラウマによる男性恐怖症で日常生活に支障をきたすほどなのだが、学園祭でダイバーシティをテーマに催したダンスパフォーマンスを通じて知り合った諸橋大也だけには恐怖を感じないと本人に告白するものの、諸橋は「水フェチ」という「紋所」を盾に八重子の気持ちを端から拒絶してしまう。ここにはマイノリティの傲慢さを感じざるを得ない。一番のマイノリティは唯一無二の「個人」ではないのか?
結果的に、稲垣吾郎が児童買春者を罰するという構図は世相を鑑みると興味深い。
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