MASQUERADE(マスカレード)

 こんな孤独なゲームをしている私たちは本当に幸せなの?

牛田悟郎と『自省録』について

2022-02-21 21:21:33 | goo映画レビュー

 フジテレビで2月7日に放送された『ミステリと言う勿れ』の第5話(episode4)は「奇妙な入院生活! 22年前の未解決事件が動き出す」というタイトルで、足を踏み外して土手から転げ落ちたことで主人公の久能整が入院した病室には元刑事だった牛田悟郎が整の隣のベッドにいて、マルクス・アウレーリウスの『自省録』を読んでいる。
 牛田は整に過去の事件を問題として語り出す。

1.立て続けに3人が殺される事件があり、手口はバラバラで場所も離れており被害者たちには共通項がなかったのだが、4人目で前科のあるAの髪の毛の物証が出て、先の3人の被害者たちが全員Aと関わりがあり、3人が死ぬことでAは得をするのである。
 Aが犯人だと思われたが、実は真犯人はAが通う美容室に勤めるBの美容師で、Aにとって邪魔な人間を3人選んで殺し、4人目にBが殺したかった人物を殺し、Aの髪の毛を残したのである。

2.通り魔殺人事件が起こり、路上で殺された女性のそばには女性の血による靴跡が残っていた。同じ頃近所で空き巣が何件かあり、わずかなお金を盗られただけで通り魔と関連させられなかったのだが、たまたま引っ越しすることになった空き巣の被害者の家から見覚えの無い靴が出てきて、その靴に被害者の女性の血液が付着していたのである。

3.20年くらい前に売春を生業とした女性たちが次々と殺され、証拠品から羽喰玄斗を追っていたところ、ある女性から保護して欲しいという依頼があり、指定された時間と場所に向かうことになったのだが、自宅が空き巣にやられて連絡と処理に手間取って10分遅れて行ったところ、既に女性は殺されており、相棒の霜鳥信次は刺されて重傷を負っていた。牛田は羽喰を追ったのだが見つからず、そのまま行方不明で乗り捨てられた車だけが見つかった。霜鳥は後遺症により警察を辞めてしまった。

 ところが牛田が最初に羽喰の車の中を調べているとシートの隙間に見覚えのあるボールペンが落ちており、それは霜鳥のもので、牛田は思わず隠してしまったのである。さらに調べてみると霜鳥は最後の被害者と関係があったのだが、霜鳥の妻の実家の警備会社は退職警官の再就職先であり天下り先で、問題を起こすわけにはいかず、何とか羽喰を探し出して指紋と車を手に入れて霜鳥が大博打を打ったことが分かったのである。

 死を目の前にした牛田はボールペンと調べたメモをどうしようか思案している。時効制度が廃止になり霜鳥を罪に問おうと思えば問えるのであるが、実は牛田は既に秘密を墓場まで持って行こうと決心していた。そんな時に妻の実家の会社を継いで立派になった霜鳥が見舞いに来てくれて、身寄りがいないと言ったら霜鳥から治療費を肩代わりするという申し出をされる。霜鳥は相変わらず優しい奴だと牛田は思いながら丁重に断り、心変わりして捜査メモを警察に送ってしまうのである。

「正気に返って
 自己を取りもどせ

 目を醒まして
 君を悩ましていたのは
 夢であったのに気づき、

 夢の中のものを
 見ていたように、

 現実のものを
 ながめよ。」

 というマルクス・アウレリウスの言葉を根拠に、牛田は「そういう申し出をされるのが、嫌な人間だっていうことを、あなたが知らないか、忘れているということが悲しかったんじゃないでしょうか。」と整は推理するのである。

 しかし整の推理では牛田の動機が弱いような気がする。あるいは整は説明不足なのかもしれない。

 実際は牛田悟郎は同性愛者だったのだと思う。牛田は相棒の霜鳥信次を愛していたのである。霜鳥が肩代わりするという治療費の原資は妻(=女性)から出ているはずで、敢えてカミングアウトしなくても長年の相棒だった霜鳥には自分の想いを知っていて欲しかった牛田にとって「そういう申し出」は我慢できなかったと見るべきで、逆に言うならばシリアルキラーである羽喰はともかく、罪の無い女性を殺している霜鳥を庇う牛田にゲイとしての「業」の深さを感じるのである。


gooニュース
https://news.goo.ne.jp/article/dailyshincho/entertainment/dailyshincho-827397


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