MASQUERADE(マスカレード)

 こんな孤独なゲームをしている私たちは本当に幸せなの?

『バケモノの子』

2015-09-10 00:13:46 | goo映画レビュー

原題:『バケモノの子』 英題:『The Boy and The Beast』
監督:細田守
脚本:細田守
出演:宮崎あおい/役所広司/染谷将太/広瀬すず/大泉洋/リリー・フランキー
2015年/日本

「師弟」の相乗効果について

 本作においては「師弟」の関係というものが上手く描かれているように思う。主人公の蓮は熊徹の弟子になったまではよかったものの、どのように学んでいいのか分からず、一方、熊徹の方も初めての弟子である蓮にどのように教えていいのか分からない。そこで蓮は徹底的に熊徹を「真似る」行動に出るのであるが、それは熊徹も同様で、だんだんと力をつけていく蓮から学ぶようになり、「熊徹ならどうするだろうか?」「蓮ならどうするだろうか?」とお互い考えながらその相乗効果で熊徹は猪王山を倒すまでに至ったのである。
 本作のユニークさは熊徹の弟子になった蓮が人間界ではハーマン・メルヴィルの小説『白鯨』(1851年)をテキストに楓に言葉を習っているところにある。熊徹に武術を「学び」、楓に言葉を「習う」蓮はそれぞれ「学習」の方法を変えることで大人になっていくのである。
 そんな蓮の前に現われたのが、実は人間だった一郎彦である。蓮と一郎彦の『白鯨』に対する解釈の違いが興味深い。一郎彦は強さを誇示するため捕鯨船の乗組員たちを飲み込んだ「モビィ・ディック」と呼ばれるマッコウクジラに変身するが、『白鯨』を言葉のテキストと見なしていた蓮は物語の語り手であるイシュメイルの立場に身を置いていたはずで、その冷静さに加えて熊徹と「一体」となり「弟」と同時に「師」にもなった蓮は勝利を手中にするのである。


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『BORUTO - NARUTO THE MOVIE -』

2015-09-09 00:49:57 | goo映画レビュー

原題:『BORUTO -NARUTO THE MOVIE-』
監督:山下宏幸
脚本:岸本斉史
出演:竹内順子/三瓶由布子/杉山紀彰/木島隆一/菊地こころ/小野賢章/木島隆一/高橋英則
2015年/日本

父親と師匠の微妙な違いについて

 うずまきボルトは父親のうずまきナルトが「ナルト」であるが故に多忙で家族のために時間を費やすことがないことに不満を持っており、父親と「対決」することを決意したボルトはうちはサスケに弟子入りして中忍選抜試験に臨むのであるが、ナルトが見守る中、その試験の最中にモモシキとキンシキが現れナルトをさらっていってしまう。
 ナルトを助けるためにサスケや五影と共にボルトも敵と戦い勝利を収め、父親の仕事の大変さも理解するのであるが、だからといってボルトは父親を自分の理想像とはせず、サスケに憧れるところは皮肉が効いていると思う。


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『アシャンティ』

2015-09-08 00:20:32 | goo映画レビュー

原題:『Ashanti, Land of No Mercy』
監督:リチャード・フライシャー
脚本:スティーヴン・ゲラー
撮影:アルド・トンティ
出演:マイケル・ケイン/ビヴァリー・ジョンソン/カビール・ベディ/ピーター・ユスティノフ
1979年/アメリカ

全体的に残念な結果しか残せなかった作品について

 世界保健機構(WHО)に所属するイギリス人医師のデイヴィッド・リンダビーと妻で医師でアフリカ系のアナンサが西アフリカの小さな村で村人たちに予防接種を行った後に、一人で湖で泳いでいたアナンサが現地の住人と間違われて奴隷商人のスレイマン一味に誘拐され、デイヴィッドがマリクの力を借りて追跡することからストーリーは動き出すのであるが、物語は最後まで弾けることなく消化不良で終わっている。それは例えば、「007」のような娯楽作品のように観るならばストーリー展開が地味に見えるし、『アラビアのロレンス』(デヴィッド・リーン監督 1962年)のような「時代劇」として観るならば、国連の存在意義や「誘拐」と「奴隷売買」の違いなどが深く掘り下げて描かれていないからである。
 本作のテーマソングである「Don't Lose the Feeling」はJimmy Chambersという歌手が歌っており、彼は「ロンドンビート(Londonbeat)」のメンバーの一人だと思うのだが、とても上手いとは思えず、しかし曲自体は悪くないために出演者の一人であるBeverly Johnsonがこの曲のディスコヴァージョンをリリースしているのだろうか。


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『鴛鴦歌合戦』

2015-09-07 00:19:13 | goo映画レビュー

原題:『鴛鴦歌合戦』
監督:マキノ正博(マキノ雅弘)
脚本:江戸川浩二(マキノ雅弘)
撮影:宮川一夫
出演:片岡千恵蔵/市川春代/志村喬/服部富子/ディック・ミネ/深水藤子
1939年/日本

歌に紛れる秀逸なギャグについて

 本作はオペレッタ時代劇であり、ストーリーは二の次であってもいいのではあるが、敢えて細かいことにこだわってみたい。
 主人公の志村狂斎は娘のお春と共に貧乏長屋で暮らしながら傘張りで生計を立てる傍らで骨董品を収集しているのであるが、皮肉なことに殿さまである峯澤丹波守も骨董品収集に夢中になっている。その2人を偽の狩野探幽の山水画などを用意して上手く騙して利益を得ているのが道具屋六兵衛である。

 殿さまは六兵衛から平敦盛の青葉の笛や静御前の初音の鼓など天下一品の品と謳われたものばかりを買い取っており、道八茶碗を百両で買ったと遠山満右衛門に自慢してみせる(写真左)。次のシーンでその同じ型の道八茶碗を六兵衛は狂斎に一両で売ろうとして狂斎が一分足りないと言うと三分で売ってしまう。しばらくして殿さまが狂斎の家を訪れてその道八茶碗を見せられても、家臣たちは驚いているのであるが、殿さまはお春に夢中で道八茶碗に目がいかない(写真右)。この件のギャグのカットの手際よさはさすがマキノ雅弘監督といえる。


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『波の数だけ抱きしめて』

2015-09-06 20:20:56 | goo映画レビュー

原題:『波の数だけ抱きしめて』
監督:馬場康夫
脚本:一色伸幸
撮影:長谷川元吉
出演:中山美穂/織田裕二/松下由樹/阪田マサノブ/勝村政信/別所哲也
1991年/日本

湘南に漂う「アメリカン・ニューシネマ」の匂いについて

 1982年、神奈川県の湘南のミニFM局「Kiwi-FM」を趣味で運営していたDJの田中真理子を初め、小杉正明、高橋裕子、芹沢良明のグループに、偶然出会った大手広告代理店「博放堂」に勤めている吉岡卓也が加わり、企画が整わないままに吉岡が会社から1000万円使い込んで細かく中継局を作り、7月4日に「Kiwi-FM」を湘南中に聞こえるようにして開局して自分たちの「楽園」を作ろうと目論んだものの、小杉の「若気の至り」により彼らは「独立」に失敗し、10年後に小杉たちは真理子の結婚式に出席するはめに陥るというストーリーの流れは「アメリカン・ニューシネマ」の匂いを感じる。
 当時はおかしくなかったのであろうが、今となっては中山美穂も松下由樹も日焼けのし過ぎである。しかしまさか20年経ってパソコン一台で湘南のみならず世界中に愛を叫べるようになるとは当時の織田裕二は想像すらしていなかったであろう。


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『その男、国家機密により』

2015-09-05 19:38:58 | goo映画レビュー

原題:『One Hundred Years of Evil』
監督:エリック・エガー/マグヌス・オリーヴ
脚本:エリック・エガー/マグヌス・オリーヴ/ヨアキム・スタランデール/オリヴァー・ブラックバーン
撮影:フリアン・エリサルデ
出演:ヨーン・レクダル/ジョルディ・アルメイダ/ジャック・フランケル/アンドレア・スーチ
2010年/スウェーデン・アメリカ

最後まで「真実」であるために

 本作は第二次世界大戦末期に、ヒトラーが自殺した場面に遭遇した親衛隊員の一人のインタビューが収められたドキュメンタリー映画『ヒトラーの最後(Hitler's Last Hours)』を元に、人物の表情筋を計ることでウソを見抜くソフトを開発したスウェーデンのヨーテボリ大学のスクーレ・アントンセン教授が親衛隊員が嘘をついていることを突き止め、若い頃に大学の映画学科で一緒に勉強していたイデルフォンゾ・エリサルデに連絡をして、録音技師のハビエル・バルガスや歴史家のグレタ・ヘーベルレの助けを借りて、戦後アメリカに渡り暗躍するようになるアドルフ・ムンチェンハウザーを探して彼がヒトラーであることを証明するドキュメンタリー映画を制作しようとするものである。
 しかし例えば、アントンセン教授は親衛隊員が「総統はベルリンから逃れて身を隠そうと試みたのか?」という質問に対して「いいえ」と答えたところでソフトを使いウソを言っていると指摘しており、ヒトラーが自殺したのかどうかと問う場面ではないため、親衛隊員がヒトラーの自殺に関して嘘を言っているかどうかは分からないのである。
 もちろん映像を観ているうちに、録音技師がいないところで話し声がクリアーに聞こえたりして、本作が冒頭のシーンを除いてほとんどが作られたモキュメンタリーであることが分かるのであるが、せめて前半の方くらいはバレないように緻密に作って欲しいと思うのである。


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『伝説の洋画家たち 二科100年展』

2015-09-04 21:00:35 | 美術

 「東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館」を訪れる度に東郷青児の作品を目にするの

ではあるが、それほど良いと思わないのは作風がマリー・ローランサンに似ていて、油絵という

よりもイラストのように見えてしまうからである。しかし現在、東京都美術館で催されている

『伝説の洋画家たち 二科100年展』で上の「パラソルさせる女」(1916年 一般財団法人

陽山美術館蔵)を見た時、そのキュビスム風の作風に、若い時はそれなりに冴えを見せていたの

だと分かった。しかし東郷青児は芸術家というよりも業界発展のために「政治性」を発揮して

名を残しているように思う。因みに本展覧会で最も良かった作品はアンリ・マティスに師事し、

「ダンス」を上手く解釈した中川紀元の「アラベスク」(1921年 辰野美術館蔵)である。


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『S-最後の警官- 奪還 RECOVERY OF OUR FUTURE』

2015-09-03 20:44:51 | goo映画レビュー

原題:『S-最後の警官- 奪還 RECOVERY OF OUR FUTURE』
監督:平野俊一
脚本:古家和尚
撮影:小林純一
出演:向井理/綾野剛/新垣結衣/大森南朋/吹石一恵/高嶋政宏/オダギリジョー
2015年/日本

漫画が原作の「リアリティショー」について

 どうしてもこの類の作品では登場人物の「死に際」というものが気になる。例えば、大森南朋が演じた香椎秀樹は敵方に銃で撃たれてナイフで刺されてもいるし、救助も遅かったからこれは絶対に助からないだろうと思っていたら最後で奇跡的に助かっており、さすがにそれはないと思った。もちろん死ねばいいと思っている訳ではなく、SF作品でもないかぎり状況にそぐわないとリアリティーに欠けてしまって観ているうちにしらけてしまうのである。
 しかしオダギリジョーが演じた正木圭吾に向かって、向井理が演じた神御蔵一號が「計画が成功しても失敗しても満足なのではないか」という問いかけに何も反論できなかった正木を見た時、自国に対する正木のコンプレックスが反映されており、自国に牙を剥かざるを得ないテロリストの心情が上手く描かれていたようには思う。いずれにしても漫画が原作であるということを踏まえて観なければならない。


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『テッド2』

2015-09-02 23:31:51 | goo映画レビュー

原題:『Ted 2』
監督:セス・マクファーレン
脚本:セス・マクファーレン/アレック・サルキン/ウェルズリー・ワイルド
撮影:マイケル・バレット
出演:マーク・ウォールバーグ/アマンダ・セイフライド/ジェシカ・バース/モーガン・フリーマン
2015年/アメリカ

子供を巡る「闘争」について

 前作でさえネタを理解するのに苦労したのに、本作はさらにネタが細かくなって自分がどこまで理解できているのかさっぱり分からないのであるが、クライマックスでコミコンを舞台に通常ならば絶対に出会うことがない様々な人気キャラクターを戦わせるというアイデアは上手いと思った。作品前半のテッドと妻のタミ・リンの夫婦喧嘩のシーンにおいてハンディーカメラによるブレる映像が喧嘩の生々しさを上手く表していた。
 ここではカメオ出演のリーアム・ニーソンに触れておきたい。リーアムはテッドが働いているスーパーを訪れ、「Trix」というシリアルを買おうかどうしようか迷っている。リーアムは「Trix」が子供専用のシリアルだと思い込んでいるのである。それに対してテッドが、「Trix」は大人が食べても大丈夫だと教え、それを信じてリーアムは恐る恐る買って帰るのであるが、最後になって顔に怪我を負ったリーアムが「Trix」を持って再びスーパーを訪れて本作は終わる。リーアムに何が起こったのか想像を逞しゅうするならば、リーアムは「Trix」が子供用だと妄信している「子供ギャング」たちに襲われたのである。そしてそれは子供を巡って右往左往させられたテッドたちにも当てはまり、本作を暗示しているのである。
 アレックス・ロドリゲスの精子が使い物にならない棚に置いてあったことにがっかりしてしまったが、一番驚いたことは歌手のティファニー(Tiffany)が出演していたことをエンドロールで知ったことで、正直、全く気がつかなかった。教えられても分からないかもしれない。


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『しあわせへのまわり道』

2015-09-01 00:42:31 | goo映画レビュー

原題:『Learning to Drive』
監督:イサベル・コイシェ
脚本:サラ・カーノチャン
撮影:マネル・ルイズ
出演:パトリシア・クラークソン/ベン・キングズレー/グレイス・ガマー/ジェイク・ウェバー
2014年/アメリカ

クルマの運転を学ぶ「形態」について

 本作は、生粋のニューヨーカーで著名な書評家である主人公のウェンディ・シールズと、シク教の信者の迫害によりインドからアメリカに亡命してきたタクシー運転手のダルワーンを介して、単にインドとアメリカの文化の違いを描いたようには見えない。
 例えば、自分が推していた若い小説家と夫のテッドとの浮気が原因で離婚することになりウェンディの家に荷物を取りに来たテッドが、荷物を自家用車に積み込んだ後にウェンディの「誘惑」に戸惑いを見せるのであるが、そのうちにテッドのクルマは違法駐車でレッカー車に運ばれてしまう。路上で茫然としているテッドを尻目にウェンディは家の戸のカギを閉めてしまう。ウェンディの「誘惑」は計算されたものなのである。
 ウェンディは頭が良いだけではない。アナルセックスまで経験済みのウェンディはほぼ全てのプレイを経験しているはずであるが、それでもヨガを応用した射精をしない銀行員のセックスに驚きを隠せない。彼女の驚きというのは射精なしのセックスよりもセックスに関して自分よりも上手がいるという事実であろう。ヨガからインドを連想してウェンディのダルワーンに対する見る目が変わったことは言うまでもない。
 そんな「才色兼備」のウェンディにダルワーンが心を惹かれない訳がない。ウェンディもダルワーンが嫌いな訳ではないが、ウェンディとダルワーンは交際にまで発展することはない。ダルワーンはお見合い結婚したジャスリーンが学校に通っていなかったことにがっかりしてしまう。彼女は英語とスペイン語(例えばPeligro)の区別さえつかず、ウェンディのアドバイスでダルワーンが妻に『ワーズワース詩集』をプレゼントとして贈ってもロマン派の詩などジャスリーンに理解できるはずもないのであるが、ジャスリーンの篤信ぶりに感銘を受けてダルワーンは彼女と共に暮らしていくことを決心するのである。
 クルマの運転を学ぶという行為は先生と生徒が向かい合うのではなく同じ方向を見るという特異な形態を取る。そこにウェンディとダルワーンが共感しながらも「交わらない」要因があると思うが、後は観客に想像が託されている。壁の時計など演出に多少の難はあるが、脚本は巧みである。


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