MASQUERADE(マスカレード)

 こんな孤独なゲームをしている私たちは本当に幸せなの?

「文書」に興味がない副総理について

2018-04-10 20:38:30 | Weblog


(2018年3月31日付毎日新聞)

麻生財務相「TPPより森友か」 連日報道に不満示す
麻生氏、新聞に不満「森友の方がTPPより重大と考えている」
麻生氏「新聞には1行も…」は事実? TPP11署名
森友とTPP比較、麻生氏「謝罪したい」 発言を釈明
森友巡る麻生氏の発言「弁解の余地ない」 自民・鴨下氏
「防衛省も困るかも」と麻生氏 イラク日報問題で

 まずは3月29日の参院財政金融委員会において国民の声・藤末健三参議院議員の質問に対する麻生財務相の発言を引用してみる。

 「おっしゃる通りに、この日韓関係の話に関連していくんだと思いますが、今、TPP11というのは、これは、日本の指導力で、間違いなく、締結された。この間、茂木大臣、0泊4日でペルー往復しておりましたけど、日本の新聞には1行も載っていなかったですもんね。まあ、本人としては、はなはだ憤懣(ふんまん)やるかたなかったろうと思いますけれども、まあ、日本の新聞のレベルというはこんなもんだなと思って、経済部のやつにボロカス言った記憶がありますけれども。みんな森友の方がTPP11より重大だと考えているのが、日本の新聞のレベル。政治部ならともかく、経済部までこれかとおちょくり倒した記憶がありますけれども。これはものすごく、私、大きかった条約締結の一つだと思っておりますが、少なくとも、これがまとまるとわかって以降、少なくとも習近平という人の口から春節、春のお盆じゃなかった、春のお祭り。あの日以来、春の春節って言うんですかね。あれ以来、習近平の口から一帯一路という言葉が出たことはないんじゃないですかね。聞いた人、いないと思いますよ。あれ以来、一回も出ていませんから。かなりTPP11というのは、大きかったのかなと思わないでもないですけど。いずれにしても、出ていないという現状。一帯一路どころか、今、あちこち、そんなところじゃなくなってきているのかなと思わないでもありませんけれども、いろんな話で、私どもとしては、こういった状況の変化に応じて、外交的、経済的にもいろんな対応を柔軟な目で見ていかなければいかんと思っております。」

 翌日、麻生は「森友に関し、公文書を書き換える話は誠にゆゆしきことで遺憾の極み。軽んじているつもりは全くない。そういう印象を与えたのであれば訂正する」とし、「森友と比較したのがけしからんという点については、謝罪させて頂きたい」と述べたのではあるが、ここで問題となるのは、事実の真偽以前に麻生太郎が普段からなるべく新聞を読まないようにしているという自身の告白の方である。読んでもいないのに新聞の内容について文句を言っているのである。天才なのかバカなのかはいまさら言うまでもない。

 麻生は自衛隊のイラク派遣時の日報が見つかった問題について「10年以上前。小泉(純一郎)内閣のころだったか、確か。10年以上前の話でどうだったかと言われると、防衛省も困るのかもしれない」と述べているのであるが、いつ、どこで、何が起こったのか確かめるために日報というものは作成される。だから去年だろうが、10年前だろうがその重要性が色あせることはないはずで、日報の存在意義が麻生には全くわかっていないのである。


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NHKの受信料論争

2018-04-09 00:36:13 | Weblog

ワンセグ受信料訴訟、NHKが逆転勝訴。携帯電話は受信機の「設置」に該当 放送法の改正を求めたい
強引手口でかつて物議のNHK契約受信料収納代行業者が上場
個人には厳しいけど…NHK「ワンセグ受信料」支払いない官庁も、復興庁は4月から
NHK受信料がイヤなら…ワンセグ非対応スマホという選択肢

 昨今のNHKの受信料問題に関する意見をいくつかピックアップしてみたい。まずは2017年12月21日付毎日新聞の武田徹の「受信料論争 原点に返れ」から。

「個々の市民は知る権利と同時に民主主義社会で主権者として判断を下す前提となる情報を知る義務を帯びていると筆者は考える。ところがテレビを所持せず、ネットでも(視聴)アプリは不要と考え、知るべき情報にアクセスする道を自ら閉ざしてしまう人が同時に配信時代に現れる可能性がある。市民側の知る権利と義務に応える義務が公共放送にあるとしたら、そうした人の出現を防がなければならず、NHKには今まで以上に『受信料を払って見たい』と思える番組作りが求められよう。」

 上記の議論に異論はないのだが、問題は民放は見たくてもNHKは見たくないという人の存在が無視されているところである。そこで2017年12月27日付毎日新聞のデーブ・スペクターの「『テレビ、やーめた』の危機」から。

「自分がNHKを見ないから受信料を払わないというのではなく、故郷に住む親や祖父母が朝ドラなどを楽しむために一種の『社会保障』『文化援助』と考えれば、受信料を払うことを納得できるかもしれない。」

 例えば、「民放は(福祉をテーマにした)『ハートネットTV』のような番組や聴覚障害者らに向けた番組、能や歌舞伎などの伝統芸能を扱った番組はなかなかやってくれない」というデーブの意見は一理あり、そのために受信料を払うという道理は理解できる。
 ところが2018年1月21日付毎日新聞「みんなの広場」の65歳の男性の「年金生活者からNHKに一言」という投書は驚くべきものである。

「年金生活のために日々節約で四苦八苦しながら過ごしています。先日、NHKから受信契約の手続きの人が来ました。節約のためテレビはないことを伝えましたが『携帯電話はあるか』と言われ、見せるとワンセグ携帯なのでテレビ受信できるということでした。私は節約のため安い携帯電話を持っているだけで、メールもめったに使用しません。他の機能はよくわからないので使っていません。まして、テレビは見ていません。
 しかし、法律に基づきテレビが映る携帯は契約が必要だとしつこく迫るため、渋々契約となりました。」

 いくらなんでもこれは酷い話だと思う。この場合NHKはワンセグ非対応のスマホやiPhoneの存在を男性に伝えなければ、何のためのNHKなのかわからない、ただの電波の押し売りであろう。
 似たような話は最近もあった。2018年4月2日付毎日新聞「みんなの広場」の65歳の男性の「払いたくないNHK受信料」から。

「NHK受信料には昔から不満がありました。私の両親は、私の家と同じ敷地内の別棟に住んでいましたが、どちらも受信料を払っていました。その後、家族割引があることを知りましたが、何年も割引を受けずに受信料を払っていました。」

 とにかく「隙あれば奪う」というのがNHKの受信料の徴収時のモットーなのである。筑波大学准教授の掛谷英紀はNHKだけが映らない装置(イラネッチケー)を開発したらしいのだが、まだ万能とは言い難い状況である。


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『坂道のアポロン』

2018-04-08 00:32:59 | goo映画レビュー

原題:『坂道のアポロン』
監督:三木孝浩
脚本:髙橋泉
撮影:小宮山充
出演:知念侑李/中川大志/小松菜奈/真野恵里菜/中村梅雀/ディーン・フジオカ
2018年/日本

 歌うことを禁じられる「ヒロイン」について

 このように音楽をメインにした作品に対してはどうしても評価が甘めになってしまう。例えば、高校の文化祭において「ザ・オリンポス」というグループサウンズのバンドがオックスの「ガール・フレンド」という曲のカヴァーを演奏するのであるが、停電により演奏が途中で止まってしまう。電源トラブルの修復の間に、主人公の西見薫がピアノで「私のお気に入り(マイ・フェイバリット・シングス/My Favorite Things)」を弾き始めると、それに合わせて、それまで薫と喧嘩をしていた友人の川渕千太郎がドラムをたたき始める。二人は「いつか王子様が(Some Day My Prince Will Come)」、「モーニン(Moanin)」とセッションして生徒たちの喝采を浴びるのである。時代は1966年でグループ・サウンズが台頭してきた時期で、二人は辛うじてジャズの面目を保ったのである。個人的にはこのシーンを観るだけでも満足だった。
 それから10年後、医師として働いていた薫の病院に桂木淳一と彼の妻になっていた深堀百合香が訪ねてきて、薫は行方不明になっていた千太郎の居場所を知る。地元で教師になっていた迎律子を誘って千太郎が居る教会を訪ねたのは6月12日の土曜日である。ここで一つ不満があるとするならば再会した薫と千太郎が「マイ・フェイバリット・シングス」を演奏し始めるのであるが、律子が歌おうとすると同時に本作が終わってしまうのである。この時、まるで『ソラニン』(2010年)において宮崎あおいが演じる主人公の井上芽衣子がライブシーンで歌わせてもらえなかったことを思い出した。何故、三木孝浩監督作品において女性は一人では歌うことを禁じられているのかとても興味深い。

オックスさん『ガール・フレンド』の歌詞
ガールフレンド
words by ハシモトジュン
music by ツツミキョウヘイ
Performed by オックス


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『プリンシパル~恋する私はヒロインですか?~』

2018-04-07 00:29:27 | goo映画レビュー

原題:『プリンシパル~恋する私はヒロインですか?~』
監督:篠原哲雄
脚本:持地佑季子
撮影:上野彰吾
出演:黒島結菜/小瀧望/高杉真宙/川栄李奈/谷村美月/鈴木砂羽/白石美帆/森崎博之
2018年/日本

少女マンガのお決まりの設定に反抗する主人公について

 両親が離婚し、一緒に暮らしていた母親の三浦真智の再婚相手と反りが合わず、学校でも浮いていたために父親の住友泰弘が住んでいる札幌へ引っ越してきた主人公の高校生の住友糸真が新しい高校に初めて登校してきた日は2016年の12月5日という中途半端な日だった。
 そこで出会ったのは舘林弦という大柄なクラスメイトと桜井和央という優男のクラスメイトだった。糸真は当初は家の近所に住んでいる和央に惹かれていたはずなのだが、父親が和央の母親の桜井由香里と再婚することになり、糸真と和央は姉弟の関係になり、どうもそこから糸真の関心は和央から弦に変わったようなのだ。しかし別に親同士が結婚したからといって糸真と和央が付き合ってはいけないということはないし、むしろ「設定」としては興奮するはずだからここの糸真の心情がいまいち理解し難い。
 学校の廊下で友人の国重晴歌を追いかける糸真の滑走シーンなど見どころはあるが、どうも舘林弦を演じた小瀧望の演技がぎこちなく見える。いずれにしても本作は主人公の住友糸真を演じた黒島結菜の「アイドル映画」である。


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『人生はシネマティック!』

2018-04-06 00:57:13 | goo映画レビュー

原題:『Their Finest』
監督:ロネ・シェルフィグ
脚本:ギャビー・チャッペ
撮影:セバスチャン・ブレンコー
出演:ジェマ・アータートン/サム・クラフリン/ビル・ナイ/ジャック・ヒューストン
2016年/イギリス

「彼らの最高」の時の「ナチュラル」な魅力について

 本作の冒頭で映されるプロパガンダ映画は軍事工場で女性工員たちが不眠不休で100万発の銃弾を製造する物語で、主人公のカトリン・コールが書いた脚本はリリーとローズという双子のスターリング姉妹がダンケルクの戦いの時に父親のボートを使って自国民を救出した『The Nancy Starling』というタイトルの作品で、どちらとも女性が活躍するストーリーなのだが、本作そのものがカトリンという女性脚本家が活躍する1940年の物語で、つまり本作には「プロパガンダ映画」が3作品描かれているのである。
 戦時下における3つの物語は、その波乱万丈さが大げさなだけに「作り物感」が強烈に漂ってくるのだが、それ故に『The Nancy Starling』において戦争が終わって平時に戻った時として使われた、カトリンと亡くなった脚本家仲間で恋人のトム・バックリーが休憩時に撮られた、海辺で2人がくつろいでいる場面の「自然さ」が対照的でカトリンだけでなく観客たちの胸を打つのである。


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『婚約者の友人』

2018-04-05 21:59:17 | goo映画レビュー

原題:『Frantz』
監督:フランソワ・オゾン
脚本:フランソワ・オゾン
撮影:パスカル・マルティ
出演:ピエール・ニネ/パウラ・ベーア/エルンスト・シュトッツナー/マリー・グルーバー
2016年/フランス・ドイツ

「自殺」することで他者の人生を幸せにする主人公について

 1919年、第一次世界大戦終了直後のドイツのクヴェードリンブルクに婚約者の両親と暮していた主人公のアンナは戦死したフランツ・ホフマイスターの墓に毎日のように花を供えにきており、1918年9月15日に亡くなったということはわかっていたが、遺体は返還されていなかった。そこを訪れてきたのがフランス人で24歳のアドリアンだった。彼はフランツの友人として墓参しており、最初は父親のハンス・ホフマイスターは彼を拒絶していたのだが、フランツとの思い出を語ってくれるアドリアンを妻のマグダと一緒に食事に招待するようになり、親しくなった矢先に、アンナにアドリアンはフランツを銃殺したのは自分自身であると告白する。
 アドリアンは真実を彼の両親に言わないまま帰国し、アンナも彼の懺悔を伝えなかったために事情を知らない彼の両親はアドリアンのことが気になっていた。さらにアンナが返信した手紙が送り返されてきたことで、アンナがフランスまでアドリアンに会いに行くことになった。
 彼の叔母からアドリアンの住所を突き止めたアンナはアドリアンと再会するのであるが、彼にはファニーという幼なじみがいて、彼の母親と共に暮しており、アンナはアドリアンに対する密かな想いを伝えられないまま彼のもとを去るのである。
 本作の制作意図が何かと考える上で重要になるものはエドゥアール・マネ(Édouard Manet)が描いた『自殺(Le Suicidé)』という作品である。それはもちろんアンナやアドリアンが自殺を試みたということだけではない。アンナがフランツの両親に彼の死因を伝えなかったのは、美術館を一緒に巡ったりバイオリンを教えてくれたりしたアドリアンという素敵な友人がいたという「物語」があった方が彼の両親にとっては良いはずだし、アドリアンに自分の本心を伝えない方が、アドリアンの人生には都合が良いはずだからで、それは要するにアンナにとっては「自殺」を意味し、よって事実を言えないアンナは両親のもとにも帰ることができず、パリの街で『自殺』を見つめているのである。
 因みに『自殺』はビュールレ・コレクション(Foundation E.G. Bührle Collection)に収蔵されているようなのだが、現在、国立新美術館で催されている「至上の印象派展 ビュールレ・コレクション」には残念なことに含まれていない。


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『北の桜守』

2018-04-04 00:42:51 | goo映画レビュー

原題:『北の桜守』
監督:滝田洋二郎
脚本:那須真知子
撮影:浜田毅
出演:吉永小百合/堺雅人/篠原涼子/岸部一徳/高島礼子/永島敏行/阿部寛/佐藤浩市
2018年/日本

桜に対するこだわりが足りない桜守について

 どうも作品冒頭の桜を家族で愛でるシーンからラストのオチに至るまでの主人公の江蓮てつの桜に対する強い想いが上手く伝わってこないように感じる。もちろん例えば、記憶がぼやけてくるようになった江蓮てつが行方不明になり、息子の江蓮修二郎と妻の真理が探し出した場所が公園で、割れて中がむき出しになっていた幹を雨の中で紙で補修している母親がいたのであるが、その幹が桜である必要はなく、「桜守」に至るまでの動機が弱いと思うのである。
 さらに気になるのがシーンに挟まれる舞台である。何故舞台のシーンを挿入しなければならないのか勘案するならば、製作予算の都合以外として、吉永小百合が演じた主人公の夫の江蓮徳次郎を阿部寛が演じることの違和感を解消させる目論みがあったと思う。1971年に64歳で行方不明になった江蓮てつは1945年には38歳であり、徳次郎の年齢は分からないが阿部寛は53歳で、昭和20年の53歳にしては子供が幼過ぎるなどそれぞれの年齢を辿り出すと色々とややこしくなるのだが、舞台上ならばそのようなことは問われなくなるのではある。
 本作を観ても吉永小百合が何故那須真知子を脚本家として贔屓にしているのかよく分からない。


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『空海―KU-KAI― 美しき王妃の謎』

2018-04-03 21:34:46 | goo映画レビュー

原題:『Legend of the Demon Cat』
監督:チェン・カイコー
脚本:チェン・カイコー/ワン・フイリン
撮影:カオ・ユー
出演:染谷将太/ホアン・シュアン/チャン・ロンロン/チャン・ルーイー/シン・バイチン/阿部寛
2017年/中国・日本

邦題に騙されて観てしまった作品の価値について

 驚くべき作品である。作品を理解するためには多少の知識が必要だと思って空海のことを簡単に調べて観に行ってみたのだが、冒頭で「Legend of the Demon Cat(悪魔の猫の伝説)」という原題を見て、邦題とずいぶんと違うと思っていたら主人公は空海ではなく、むしろ楊貴妃の方だったので原題通りだったのである。楊貴妃のことはもちろん、夫の玄宗皇帝やその敵方となる唐代の武士の安禄山も、彼が起こした安史の乱も知らずに、白楽天も彼が玄宗皇帝と楊貴妃について歌った『長恨歌』も「詩仙」と称されていた李白のキャラクターも彼と楊貴妃との関係も知らなかったのでストーリーに全くついていけず、要するに本作は日本人よりも中国人をメインターゲットにした作品だったのである。
 だったら本作における空海とは誰なのかと言えば、探偵を装う狂言回しでしかなく、もちろん黒猫が架空であることは分かるのだが、史実とフィクションの境界がはっきりと把握できないまま上手く楽しめなかった。


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『文豪ストレイドッグス DEAD APPLE』

2018-04-02 20:50:34 | goo映画レビュー

原題:『文豪ストレイドッグス DEAD APPLE(デッドアップル)』
監督:五十嵐卓哉
脚本:榎戸洋司
撮影:神林剛
出演:上村祐翔/宮野真守/小野賢章/谷山紀章/諸星すみれ/細谷佳正/石田彰/中井和哉
2018年/日本

文学観の違いによる壮絶な争いについて

 若い人たちが本作をどのように捉えて楽しんでいるのか寡聞にして知らないのだが、多少の文学の知識があるならば、中島敦を中心とする武装探偵社と、フョードル・D(=ドストエフスキー)と澁澤龍彦を中心とした敵方が対立する構図というのはつまるところ、漢文を素養とする日本の文豪たちとヨーロッパ文学を日本に紹介していた澁澤龍彦と外国人のフョードル・Dの、日本の文学者とは異なる素養を持つ文学者たちの抗争なのである。
 本作における太宰治の立場が微妙なのは東京大学仏文科に入学したということよりも、『走れメロス』や『新ハムレット』など代表作に横文字が入っているという大衆のイメージによるものであろう。


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『去年の冬、きみと別れ』

2018-04-01 00:50:02 | goo映画レビュー

原題:『去年の冬、きみと別れ』
監督:瀧本智行
脚本:大石哲也
撮影:河津太郎
出演:岩田剛典/山本美月/斎藤工/浅見れいな/土村芳/北村一輝
2018年/日本

「盲目」という暗示について

 なかなかネタバレなしで語ることが難しい作品であるのだが、交際していた彼女が交通事故に遭い、その時には軽傷で済んだものの、彼女のことが心配になってまるでストーカーのように付きまとうようになり、そのしつこさにうんざりした彼女にフラれてしまったあたりの主人公の耶雲恭介の本性が徐々に明らかになっていく描写が秀逸だと思う。
 さらに世界的フォトグラファーの木原坂雄大と対決する主人公の耶雲恭介がルポライターで、昨今の「インスタ映え」などの圧倒的に優位な「視覚」に対してペン一本で挑む構図の作り方や、そのアイロニーに満ちたオチも鮮やかである。


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