色街の中心部近くにお城のような三階建てがあり一際目立っていた。実にユーモラスな造りだと思い両眼にしっかりと焼き付けた。

遊里の代表的な建造物に共通するのが「ベンガラ塗り壁」だった。平成という時代になっても華やかりし頃を偲ぶのに最適な教材が残っていることに深く感謝した。手の込んだ細工や奥行き、そして圧倒的な迫力は実際に建物の前に立った人間にしか分かりやしない。

朱色の壁を持つ家は三軒あった。最後に目にした建物は一階の壁の一部がベンガラ塗りで二階を巨木の一枚板で覆っていた。これがもし「黒柿」だとしたら、とんでもない値段だろう。

この家の瓦には取っ手のようなものが付いていた。雪にはまったくと言ってよいほど縁のない土地で暮らしている人間が生まれて初めて「雪止め瓦」を見た瞬間だった。

