私は滋賀県道600号近江八幡安土能登川自転車道線に入り足を止めた。急に懐かしさのようなものを感じたのである。広大な農地を眺めていると40年ほど前の故郷の景色がおぼろげながら蘇ってきた。
昭和40年代後半、市内(駅から半径1キロ以内)に水田や畑そして野原がたくさんあった。ガキどもは光化学スモッグ警報が出ようが構うことなく暗くなるまでコオロギやトンボを捕っていた。ところが緑の風景は昭和50(1975)年の山陽新幹線開通を境にわずか数年で失われたのである。

安土山を背にしてJR琵琶湖線の電車が走り去って行く。幼い私はこれと似たような風景を毎日見ていたはずである。残念ながらそんな思い出は全く頭に残っていない。15分ばかり歩けば駅だ、自分に言い聞かせるように囁き帰路についた。


安土城址前の信号機から文芸の郷までは私の足でおよそ10分かかった。安土城考古博物館の受付で信長の館との共通券(720円)を買った。
第一常設展示室は弥生時代から古墳時代の人々の生活を分かりやすく説明している。古墳石室の実物大復元模型の中に入ることができるのが良かった。
ちょうどこの時「よみがえった文化財」の展示と「平成21年度滋賀県新指定文化財」の特別公開が行われてた。私は野洲市の西河原遺跡から出土した木簡(7~8世紀)をじっくり眺めた。
紙が普及する以前に人は竹や木に文字を記していた。それが廃棄された後は土に返るはずだが、土壌深くで空気に遮断されて地下水に覆われる条件がたまたま重なり腐敗のスピードが緩やかになったと考えられる。こうして発見されたものが現代の技術によって丁寧に処理され文字が判読可能になるのだ。
第2常設展示室は城好きのみならず一般の人も楽しめる内容だ。城郭、城下町、水運の関係を研究する者にとっては大いに参考になった。

