悠久の歴史を誇る中国だが、実は古い文化遺産はそれほど残っていない。今回の旅行でそのことを実感した。
例えば、西安の華清池(写真)は、唐代(8世紀半ば)に建てられた温泉施設で、かの「長恨歌」(白居易)にも詠われた場所だ。だが、そこに現存する建物の多くは、この20年ほどに建てられたものばかり。この夏、中庭の池に造られた舞台で「長恨歌」の歌劇が演じられるという。ライトアップした野外劇場で、ワイアレス・マイクとPA(拡声装置)をばっちり使った劇になるらしいが、これではミュージカルと言った方が相応しい。
この華清池は、西安事件の舞台にもなったところ。1936年蒋介石はここで保養していたが、張学良に襲われ、第二次国共合作を余儀なくさせられた。文字通り「中国革命の転機」とされる事件で、この事件がなければ、中国共産党が中国全土を支配することはなかったかも知れないのだ。しかしながら、中国人はそんなことには全く興味がないらしく、ただただ大きく派手なモノを愛でるという習性があるようだ。
(西安・華清池 建物は新築)
次の写真は、兵馬俑博物館の入り口にある兵士と女の子の巨像。秦の始皇帝時代の軍人と今様の少女の漫画的な組み合わせ。両方の目玉には電球が入っていて、操り人形のように動く。これを変だ?と思う中国人はいないのだろうか。史実の検証などおかまいなく、派手なものに「好・好(ハオ・ハオ)」と群がる中国人の感性は、やはり日本人とは大いに異なる。
(西安・兵馬俑博物館 不気味な巨大人形)
西安から1,800kmも離れた敦煌でも同じようなモノを見た。下の写真だが、これは敦煌の遺跡などではない。何年か前に日本映画「敦煌」を撮影した際に造られた映画セットを「国家AAA級公園」として観光地にしているのだ。こういうのを日本語で「人のふんどしで相撲を取る」というのだが…。 現実には「相撲を取る」のではなく、多額の入場料を取っている。
(敦煌・映画のセットが観光地に)
結局、中国には思ったほどの歴史遺産は残されていないことを知る。戦乱の果てに破壊された遺跡・文物も多いのだろうが、40年前の「無産階級文化大革命」で現代の中国人自らが破壊した歴史遺産も数多いはずだ。今の中国は、そのことを全く総括していない。きちんと総括すれば、中共政権は永くは続かないだろう。だからこそ現政権は、中華民族の優越性を誇示する愛国主義を煽り、本来排外的で尊大な中国人をますます増長させている。
何にしても、中国が厄介な隣人であることには間違いない。そのことを痛感する。